第24話

        ◆


 白鳥さんと鷲羽先輩は、時々喧嘩をする。

 喧嘩というよりは口論だが。

「だから、私は本物の黒魔導師よっ」

「だったら、その証拠を見せたまえ、証拠を」

 あーあ、また始まったよ。面倒臭いなあ。

「あなただってマジック紛いのことしか出来ない、エセ超能力者のくせに」

「君はまだ、あのマジックのトリックさえ見破っていないではないか」

 僕に言わせれば、どっちもエセだよ。

 同調する時はすごく仲良いのに、反発する時は驚くくらい険悪なんだよな。不思議だ。

「分かったわ。そんなに言うなら見せてあげるわ、黒魔術の儀式を。明日の夜はワルプルギスの夜よっ!」

「ほう、面白いではないか」

 何で決闘みたいになってんだか……。


 てな訳で、僕達は今、白鳥さんの家にいる。

 時間は夜の十時を過ぎている。

 僕達の活動は夜に行われることが多い。お陰で寝不足だ。次の日が学校でないのが、唯一の救いだった。

「さあ、見ていなさいよ。鷲羽真琴、あなたを呪ってあげるわ!」

「やれるものなら、やってみたまえ」

 地下室は薄暗く、灯りはランプの光のみだった。

 白鳥さんは黒いローブに身を包み、いかにも黒魔導師という格好であった。

「フフフフ、今日は秘密兵器があるのよ」

 そう言って黒い本を取り出す。

「これは『黒歴史』といって、日頃の恨みつらみを書き残した日記で、ここに名前の載っている者を呪うためのものよ。勿論、あなた達の名前も書いてあるわ」

「えっ、何で僕も……」

 先輩の所為で、とんだとばっちりだ。

「名前を書かれた者が呪われる。新手のデスノートか」

「ちなみに、私は死神と契約はしていないわよ」

 契約してたら嫌だよ。

「……では、儀式を始めるわよ」

 白鳥さんが日記を床に置き、呪文の様な言葉を唱え始めた。何言ってるのかは聞き取れない。日本語ではない。

 呪文に合わせて、床が青く光った。星のマーク、魔方陣っていうんだっけ?

「せ、先輩。床が光ってますよ」

「よく見たまえ。あれはただの電飾だ。クリスマスなどによく見るやつだぞ。何処かでセバスチャン殿がスイッチを入れているに違いない」

 ここまでやるか……。凝り過ぎだよ、白鳥さん。

 

 十数分後。白鳥さんは、ようやく呪文を止めた。それと同時に電飾も消える。

「何も起きんようだが。橘後輩、何か変わったか?」

「……特に何も」

 身体に痛みは感じられないし、心臓麻痺になりそうだとも思われなかった。

「私たちに掛けた呪いとは何なのだ?」

 そういえば、肝心の呪いの内容を聞いていなかった。

「バナナの皮で滑って骨折する呪いよ」

 ……何その馬鹿らしい呪い。

「効果はすぐには表れないわ。数日後かもしれないし、数ヶ月後、もしかしたら数年後かもしれないわ」

 数年経ったら、もう呪いは関係無いんじゃないかな。

「ほう。では、楽しみに待ってみるとするかね」


 数年経った今でも、僕は骨折をすることなく、健康的な暮らしを続けている。

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