第25話
白鳥さんが猫を拾ってきた。
三毛猫のオス。
冬の寒空の下、家の前でにゃあにゃあ鳴いていたそうだ。
「で、拾ってきてしまったという訳か」
白鳥さんの家で、僕と先輩は事情を聞いた。
猫は、ふかふかの絨毯の上で丸くなって寝ていた。
「しかし、意外だな。君が猫を拾って来るとは。案外可愛らしい所もあるではないか」
白鳥さんが先輩を睨み、言った。
「私の使い魔にしようと思ったのよ。ほら、魔女がよく猫を連れているでしょう」
魔女が連れているのは黒猫だよなあ……。
「私はてっきり、セバスチャン殿が使い魔も兼ねているとばかり思っていたぞ」
セバスチャンさんは人ですが……。
「セバスチャンは、あくまで執事よ。使い魔は別」
でも、使い魔にするのは一つ問題があるんだけどな。
僕は、猫の首元に目をやった。
「その猫、首輪が付いてるよ。誰かに飼われているんじゃないの?」
猫には、汚れているが赤い首輪が付いていた。
「だって、住所が掠れて読めないもの。もう私の猫にしても良いかしらと思ったのよ」
いやいや、それは駄目だろう。
「飼い主だって探してるかもしれないよ?」
「大丈夫よ。セバスチャンは猫について詳しいから、ちゃんと世話をしてくれるわ」
自分は世話しないんだね……。
「まあ、そう早まるな。元の飼い主が見つからなかった場合のみ、その猫を飼うのが妥当だろう。探してもいないうちから決めるのは早急過ぎる」
こういう時、先輩は冷静だ。
先輩の行動は素早く、次の日から元の飼い主探しを始めた。
まず、「迷い猫、預かっております」というポスターを作った。猫の写真を貼り、特徴、連絡先(青山東中学・鷲羽真琴)を書いた。先輩の手描きである。
「……先輩って、字上手いですよね」
「そうか? 特に気を使ってはおらんがな」
字の上手い人って、無意識で上手い字が書けるのかな。
「連絡先、何で白鳥さんじゃないんですか?」
猫は白鳥さんの家にいるのに。
「彼女は猫をもう自分のものだと思っている節があるだろう。連絡が来ても無視するぞ、きっと」
白鳥さんは飼い主探しに消極的だ。ポスター作りにも参加せず、一人で帰ってしまった。飼い主が見つからないことを願っているのかもしれない。
「まさか、白鳥後輩は猫に名前を付けてはいまいな?」
「さあ、どうでしょう。聞いてないです」
「名前を付けると愛着が湧いてしまうからな。なるべく早いうちに飼い主を見つけねばなるまい。期間が短い方が傷も浅い」
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