第18話
「さあ、まだまだ料理は沢山あるから、どんどん食べてってよ」
「いやあ、かたじけない。……おお、この海老フライもなかなかの美味。……橘後輩の父君はシェフになれたかもしれませんな」
「それ程でもないよ~。鷲羽君の食べっぷりが良くて、僕もすごく嬉しいよ~」
父はお世辞を言ってくれる先輩にデレデレだった。
僕の予想に反して、会話が噛み合っている。驚きだ。
食卓に着いてから、父と先輩は喋りっぱなしだ。
そんな父を横目に見ながら、僕は料理を口に運ぶ。白鳥さんも会話には参加せず、静かに食べていた。
「私は将来、アメリカのFBI超能力調査官にでもなってやろうと思うのですよ」
「へぇ~、それはスゴイね。かっこいいよね~、FBI。あっ、もしかして今、超能力使えたりする?」
「ええ、勿論。お見せ致しますよ」
そう言って、いつ仕込んだのか、スプーンを手の中に出現させた。
「おぉっ、お見事!」
何か見たことあるような……。
「いやいや、こんなのはただのマジックですよ。……本当の超能力はこちらです」
スプーンをぐにゃりと曲げる。
「わ~、スゴイ。スプーン曲げだね」
父は驚いているけど、残念ながらそれもマジックだ。
あの百均の手品グッズをまだ持っていたのか。
白鳥さんも呆れた様子で、先輩を見ていた。
「僕さぁ、実はNASAの宇宙飛行士になりたかったんだよねぇ。でもなれなくて、今はしがないサラリーマンさ。鷲羽君は夢を叶えてね」
「NASAは狭き門ですからな。FBIもそうですが、まあなれなかったらなれなかったで、それなりに楽しく生きていくでしょうな。……そういえば、白鳥後輩は一流の魔法使いになりたいのだったな」
先輩がいきなり、白鳥さんに話を振る。
「えっ、まあそう、ですね」
さすがに「黒魔導師」だとは言わなかった。
「魔法使いか。ファンタスティックだねぇ。……ハリポタ的な?」
「ええ、まあ」
おそらくは、その敵役だろう。
父はロマンチストなので、子どもの夢は否定しない。
魔法も否定しない。
その後は、父と先輩がUFOと宇宙人について延々と語っていた気がする。
誕生日会が終わり、先輩たちは帰って行った。
この日は、本当に自分の誕生日だったのかと疑いたくなる。先輩と父の座談会に招かれた気分だった。
「わ~、洗剤セットだって。ちょうど買おうと思ってた所に、白鳥ちゃんてばナイスタイミングだよねぇ」
白鳥さんがご馳走のお礼にくれたものを見て、父が喜んでいた。洗剤セットって、お歳暮みたい。
「心霊研究会か。二人とも個性豊かで面白かったね。超能力者に魔法使い。夢もちゃんと決まってるみたいだし。……宇宙の夢は何? 宇宙は何になりたいの?」
「……まだ、決めてないよ」
将来なんて分からない。
やりたいことなんて、特にないかもしれない。
特技がある訳でもない。
僕には何もないのかもしれない。
寝る前に、白鳥さんから貰ったプレゼントを開けた。
中には大仏のイラストがプリントされたマグカップが入っていて、少し笑ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます