第17話
白鳥さんの家に着いた。僕の家と学校のちょうど真ん中くらいに白鳥さんの家はある。
「ほう。これはまた見事な家に住んでいるな。聞いてはいたが、是ほどまでとは。恐れ入ったぞ、白鳥後輩」
先輩は白鳥さんの家を見るのは初めてだ。東山小出身ではないから、ここにこんな立派な家が建っていることも知らなかっただろう。
「ここで待ってなさい。すぐに戻って来るから」
白鳥さんは言葉通りすぐに戻って来て、僕に紙袋を差し出した。
「はい、誕生日おめでとう、橘君」
「ありがとう」
この場で中を開けるのはマナー違反だと思ったので、そのまま持って帰ることにした。
紙袋からして高そう。さすが、白鳥さんだ。
「そのもう一つの紙袋は何なのだ?」
白鳥さんはもう一つ違う種類の紙袋を提げていた。
「これは、橘君のご家族に。ご馳走になるお礼よ」
白鳥さんは実はとても気が利く人なのかもしれない。
「……何か、悪いね。こんなに良くしてくれて」
「別に、どうってことないわよ」
白鳥さんのこういう所は、本当に格好良いと思う。
「そういえば、橘君の家族って何人?」
このタイミングで、この質問か……。
僕の苦手な質問だ。
「……二人」
誤魔化しても意味はないと思うから、正直に答える。
「二人?」
「うん。……僕と父さんの二人暮らし。母さんは、僕が六歳の時に死んじゃったんだ」
母親がいないというのは負い目を感じる。人に可哀想だと思われるのも嫌だった。
「……そう」
白鳥さんの視線が落ちる。
この反応が困るのだ。どう対応すれば良いのか分からない。
「君の家も片親か。ならば私と同じだな」
この空気を破ったのは、先輩だった。
「私が小学二年生の頃、父親が蒸発してな。それ以来、私は母上と二人暮らしなのだよ」
先輩の口調は話の内容にそぐわない、軽い口調だった。
「今日の給食何だっけ」くらいの気軽さだ。
「……一人いるだけ、まだいいじゃない。……私にはもう、お父さんもお母さんもいないのよ」
白鳥さんが掠れそうな声で言った。
「え……」
「……私はね、あのだだっ広い家で、執事と二人きりで暮らしているのよ」
この時、何となく理解出来た気がした。
何故、白鳥さんの性格が突然変わったのか。
両親が亡くなったからだ。
イギリスに行っていたのは、悲しみを紛らわすため。
黒魔導師と言っているのは、現実を見たくないから。
「そうか。だからといって、どうもならん。超能力だろうと黒魔術だろうと、死んだ者を蘇らせることなど出来はせん。この世の理に反しているからな。……まさか、君の黒魔術の師は理完全無視、死者蘇生上等の危険思想の持ち主ではあるまいな」
先輩の言うことは厳しいけど、正しい。
でも、こんな風に言わなくてもいいだろう。
「死者は生き返らん。これが現実なのだよ。辛かろうが受け入れねばならん。……それと、片親でも親なしでも負い目を感じることなどない。親がいなくとも、子は立派に育つものだ。周りの目など、気にするな。堂々と胸を張って生きろ」
その言葉は白鳥さんだけでなく、僕にも向けた言葉だと感じた。
「……何、人の家の前で語っているのよ」
いつも通りの白鳥さんの声だ。
「ああ、すまん。どうやら一人語りが過ぎたようだ。この前も児島君に指摘されたばかりだというのに、またやってしまったようだ」
重い空気が和らいでいく。
「さあ、今日は祝いの席だ。浮かない顔は場に合わんよ」
先輩の顔は明るい。さっきまで暗い話をしていたのが嘘のように。
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