第14話
そう言って、連れて来られたのは第二理科室だった。
「何で、第二理科室?」
実験でもするのだろうか。でも何の……。
怪しげな薬品を混ぜている黒魔導師の姿が浮かんで、急に恐ろしくなった。
「第一理科室は、既に科学研究会に使われていたのでな。中々の穴場だろう、ここは」
「科学研究会って何ですか」
「ああ、私の友人の児島君が作った同好会だ。去年の秋頃に発足され、先を越されたと悔しがったものだ」
この学校は変な同好会の乱立を黙認しているのか。
「よく児島君とやらと友人になれたわね。科学と心霊って対極じゃない」
そもそも、この人に友人がいたというのに驚いた。
「ライバルと書いて友と読む。それに、彼とは哲学の意見が合うのだ」
どんな哲学だ。
「立ち話はこれくらいにして中に入ろうではないか」
先輩が鍵を開けて中に入る。室内は、理科室独特の臭いがした。
椅子に座ると、先輩が言った。
「では、我が研究会の発足を祝して……」
その瞬間、先輩の手の中に飴玉が三つ出現した。マジックみたいに、パッと出したのだ。
「えっ、スゴい。どうやったんですか?」
「驚く程のことではない。簡単なトリックだよ」
先輩が飴玉を僕と白鳥さんに渡しながら言う。
今度、教えてもらおうと思った。
「飴だけでは寂しいのでな、これも食べたまえ」
次は普通に、コンビニの袋から出した。二百円程度の小さなケーキだった。スプーンも付いている。
「いいんですか」
「ああ、私の奢りだ」
「……じゃあ、頂きます」
チョコケーキだ。普通に美味しい。
「君も食べたまえ、白鳥後輩。まさか、チョコレートは嫌いか?」
白鳥さんが、ジーっとケーキを見詰めていた。
「お腹すいてないの?」
「え、いえ、別に……。ただ、コンビニのケーキなんて食べるの初めてだから。というか、コンビニに入ったこともないわ」
……ああ、そうか。
「白鳥さんの家、お金持ちだからね。とても大きな家に住んでて、執事がいるって聞いたよ」
東山小では有名な話だった。
「ほう、そうだったか。コンビニに入ったこともないとは、とんだブルジョアだ。これで偉そうな態度にも納得が行った」
いや、偉そうな態度は元からではない。小学生の時の白鳥さんは上から目線で話すことはなかったはずだ。何が彼女を変えたのかは知らないが……。
「まあ、食べてみると良い。意外と、庶民の味も捨てた物ではないぞ」
白鳥さんはもう一度ジッと見て、ゆっくりとケーキの一片を口に運ぶ。
上品な食べ方だなと思って、少し見とれてしまった。
こくりと飲み込み、一言。
「まあまあね」
素直に美味しいと言うなんて全く思ってなかったけれど、それはやっぱり失礼だと思う。せっかく先輩が買って来てくれたものだし。
「ああ、そうか。二百円だから、そんなものだろう」
まあ、先輩も気にする人ではないけれど。
「それにしても、よくこんな怪しい同好会に許可をくれたわね。この学校、自由度が高過ぎるんじゃなくて?」
許可が下りたのだから、こうして発足会が出来たのだ。
「まあ、普通に許可を取りに行ったら却下されていただろうな。だから、事前に手を打っておいたのだ。もう発足されたという噂を流してな。それで却下したとなったら、生徒の自主性を摘んだということが知られるだろう。生徒の自主性を重んじるというのが我が校の校訓らしいからな。……それに、噂が予想以上に広がって面白かった」
自分で噂を流したのか、この人は……。
凄いというよりも、呆れる。
「あなた、本当に中学生? 実は二十五歳と言っても驚かないわよ」
むしろ、二十五歳の方が本当っぽい。
「私はただの中学生だよ。君たちと一つしか変わらん。何なら、今すぐ私の担任に聞きに行っても良いぞ」
「だったら、かなり風変わりな中学生ということにしておきましょう」
なんやかんやで、僕たちの「心霊研究会」は発足したのであった。
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