第15話
◇
鷲羽真琴に感謝していることは、コンビニスイーツに出会わせてくれたことだ。
彼がいなかったら、私は一生それを食べることはなかっただろう。
先輩はああ見えて、祝日はきちんと祝う主義らしく、ことある毎にお菓子パーティを開いていた。ハロウィンやクリスマスは勿論、「中学生はまだ子どもだ」と言って柏餅を持参し、子どもの日パーティまでも行った。
私たちが何気なく話した誕生日までも、しっかりと記憶していて祝ってくれた。
そのパーティの度に先輩が持って来ていたのが、コンビニスイーツであった。
私は、それらが妙に美味しかったことを覚えている。
執事のセバスチャンが作る一流のものにも負けないくらいに。
コンビニスイーツのことは、このくらいにして。
鷲羽真琴の超能力の真偽についてのエピソードを話そうと思う。
研究会が発足してすぐの頃……。
「先輩は超能力者だって言ってましたよね。だったら、どんな能力が使えるんですか?」
仮部室の第二理科室の椅子に座り、橘君が先輩に尋ねる。確かに、まだ先輩が何の超能力が使えるのかは知らない。テレパシーかサイコキネシスかテレポートか……。
「ああ、まだ見せていなかったな。私の超能力とは、これだ」
そう言うと同時に、先輩の手の中にスプーンが現れた。
「おお。……って、スゴイですけど、これはただのマジックじゃないですか」
「いや、私が見せたかったのはスプーン曲げだ」
これはまたオーソドックスな……。
「ほら、見ておれ。曲がるぞ……」
ぐにゃりとスプーンを曲げた。
「ま、曲がった」
橘君が素直に驚く。もっと捻くれた子だと思っていたが、意外と騙されやすい性格なのかもしれない。
「ちょっと、そのスプーンを貸しなさい」
と言いながら、私は先輩の手からスプーンを抜き取る。
「あっ」
……やっぱりね。
私にもスプーンは曲げられる。
「このスプーン、誰でも曲げられるわよ。こんな単純なトリックに私が騙される訳がないでしょう」
「うわ、本当だ。こんなの全然、超能力じゃないですよ」
橘君は騙されかかっていたくせに……。
「やはり百均の子供騙しの手品グッズでは駄目だったか。しかし、橘後輩、君はもっと人を疑った方が身のためだぞ。将来、騙されて借金取りに追われることのないように、今後気を付けたまえ」
「借金取りなんかに関わりませんよ。……それに、本物の超能力を見せて下さいよ」
「またいつかな」
先輩はいつも、そうやってはぐらかすのだ。
言って欲しかったことも、重要なことも……。
今となっては、彼が本当に超能力者だったのかを確かめる術はもうない。
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