【ノルン - 13】少女は遺跡を探索する2

※2 少女は夜逃げする から続くノルンの昔話です。【ノルン - 13】まであります。


 ハイエルフ、それは魔力操作に特化され魔素抵抗値を低く生み出されたデザインヒューマン。


 そんなハイエルフのリリスが主に白兵戦で3人に襲いかかる。


「なんでハイエルフなのにこんな力あるっすか〜?」

 リリスは拳でセレスティーナに襲いかかる。拳がまるで金属かの様に硬く、刀と打ち合いが出来てしまっている。

 ガキンガキン!

 金属同士がぶつかる音が響き渡る!


 リリスの拳は特に血など流れておらず切れてはないようだ。


「こんなくそ硬くなる身体強化聞いたことないっすよ〜」

 

 リリスを引きつけているセレスティーナ、壁際に押されるがセレスティーナは誘う。


(思ったより誘導に引っかかってくれるっす……ここっす!!)


 リリスは左脚でセレスティーナの右頭部を狙う、当たれば惨事だろう。


「う〜わ!こわいっす!」


 それでも猫耳獣人の血を引くセレスティーナ。超絶身体能力で神回避、足の下を潜り逃げる。

 逃げた先にセレスティーナをロックオン。

 駆け出そうとリリスが右足を大きく上げた瞬間――


 ――月詠流 抜刀焔弐式ばっとうほむらにしき

 

 ノルンは明鏡止水の境地で自身の気配を周囲に溶かしていた。リリスがオーバーモーションになった瞬間に抜刀で横払いに一閃、斜め上段か袈裟斬り一閃、それらが同時にリリスを襲う。


 ザシュザシュ!


 太腿の腱と右肩から背筋を切断する。


 どうやら認識の外からの攻撃は無効化されないようだ。


 ノルンはこれでほぼ動けないだろうと思った。

 明鏡止水中の彼女には切れたはずの筋肉の動きが見える。

 筋肉と腱はギュッと膨張され切れてはいるが、圧倒的膨張で繋がっているも同然。そのまま無理に右手で拳を振るい攻撃を放つ。


 ノルンは回避し距離をとる。


「無理するんじゃないわよ!!」


 普通の人間の意識、脳であればこれには耐えられないが目の前のリリスはなにも無かったかの様にこちらを見据える。


「まるで意識がないみたいね。」


 だが全身の筋肉は断裂していて、軋む音が聞こえる。さらにリリスの振るう力は限界の100%以上となり筋肉が見るも明らかに膨れる。ブチブチと音が聴こえる。

 このままでは爆散してしまう。


 その時、リリスの頭上、認識の外からオリヴィアがふと現れた。

 剣を重力にまかせノルンの切った右肩の傷の隙間へ突き刺す。


 ――剣魔雷撃ブリッツ・シュラーク天より痛みは涙を伝い地に轟く


 紫色の雷撃がリリスを襲い、右手から背筋までの筋肉を焼き、全身の筋肉膨張が解け、元の太さに戻る。


 それでもリリスは動く。


「動くんですか!?」


 慌ててオリヴィアはリリスから剣を抜き距離をとる。


「マジっすか~……一応、リリスちゃんに回復魔法かけてよいっすか?なんか可哀相っす」

「うんそうね、右肩と背筋以外治せるかしら?」


 この世界の感覚でいえば2人は甘すぎる、オリヴィアはそう考えてはいた。

 でも治してあげる、その言葉をきいて彼女はほっとする。甘すぎる、でもそれが当たり前の様な気もする。矛盾した2つの考えがぶつかりあいながら、治っていくリリスをみて安堵した。


「右肩と背筋以外治したっす。具合はどうですか?リリスちゃんっわあ!あぶねっす!」


 治して開幕から左脚のハイキック――

 セレスティーナが狙われている内に、オリヴィアは背後から攻撃を加える。


 ――剣魔雷撃ドンナー・シュラーク涙を運ぶ風は共に痛みも運ぶ


 オリヴィアは剣を横払いに雷撃を飛ばす。

 雷撃はリリスに直撃した。効いたのか、動きが大幅に鈍くなる。

 その様子から二人だけでも大丈夫だろうとノルンは考えた。彼女は気配を消し、隣の部屋、培養ポッドのある区画へ移動する。


『貴女達、そのまま頼むわね、私はこっちの部屋で少し調べるわね』


『わかったっす』

『はい!』



 隣の部屋でノルンはポッドを解析しながら、情報を探した。


 培養ポッドの解析は少し時間が掛かりそうだ。

 部屋の片隅にある机を漁る。

 中に研究員と思われるメモ用の魔道具が見つかる。

 彼女は魔道具を起動してみた。


 研究のメモうあ日記と言うより、個人の日記の様だ。ノルンは流し読みして、残りページも僅かになるくらいで手を止め、そのを読んだ。


 ~~~~~~~~~

 10月12日 俺は戦争の為にこの子達を作ったんじゃない。もうこの国は滅ぶ。この子たちは……


 10月19日 生命をつくるなんて神を気取ったせいでバチが当たったんだ!それでもあの子達には心がある!廃棄など許さない!


 10月24日 俺は捕まって処刑されるだろう。でもあの子達はうまく隠せた。


 10月27日 この施設は国全ての魔力を使って結界を張った。予備動力を魔素をから電気に変換するようにした向こう300年は誰にも触らせない。この最後の3人も絶対に守ってやる。未来の平和な世界で笑って欲しい。

 ハイエルダーフェアリーに鍵を預けた

 もしも、ここまで到達出来るものがいるのなら、頼む――

~~~~~~~~~


 これ以上は何も書かれていなかった。


『セレナ!オリヴィア!その子リリスを絶対に助けるわよ!もう少し頼むわね!』


『は、はいっす!うわ!私ばっか狙うっすね!』

『ノルン様、任せてください!』

 

 培養ポッドの解析を背後に、ノルンは現在の状況を確認し始める。


 目の前には空のリリスのポッド

 これはひとまず置いておこう


「ハイブリッドh2:c8 セシリア」

 次にセシリアのポッド、髪の毛がピンクだろうか?ファンタジーみたいな色だな、ノルンはそう思いながらも見つめた。


 猫耳はあるがハイブリッドということは

 hはハイエルフ

 cはCat―猫耳獣人だろうか?

 数字は割合ということだろう。

 猫耳獣人寄りということだろう。


「ハイブリッドh8:c2 エレナ」

 こちらも猫耳はあるがハイエルフ寄りということだろう。

 髪の色は銀髪でどこかセレスティーナに似ている。姉妹と言われたら姉妹で通るだろう。

 肉体的な年齢ではセレスティーナより上だ。


 この2人がリリスみたいな状態になったら究極に最悪だ。

 ノルンはそう考え、魔モノモンスターポップが発生しない様に、二人の培養ポッド周辺の魔素を固定した。

 魔素が揺らがなければ魔モノモンスターポップは出ない。発生メカニズム自体はわからないが理論上はこれで魔モノモンスターポップは発生はしない筈だ。


 その瞬間、培養ポッドから離れた場所、ノルンの目の前に魔モノモンスターポップは現れた。


「タイミング良すぎでしょ。って危なあ!」


 実体化が終わらない内にそれは襲ってきた。


「え〜……なにこいつ」


 ノルンはセシリアとエレナの周辺に物理結界をかけ、一応の魔法対策を施した。

 目の前のそいつはノルンを見下ろしていた。

 シルエットは獅子の様なシルエットで鋭利な2本の角が前へと伸びている。色は赤黒く青黒い毛並みで短く、漆黒のたてがみを生やし、爪は金属の様に光り長く鋭利だ。

 5メートルほどの巨体で4足歩行だろうが今は2本脚で威嚇してるかの様に立っている。


「ベヒーモスってとこかしら?」

「グオォオオオオオオ!!!」

 ベヒーモス(仮)の雄叫びがフロアに響く。


「結構、煩いわね」


『そっち大丈夫ですか?ノルン様〜!』

『大丈夫よ〜気にしないで!』

『は、はい!うわ!あぶな!セレナさんそっち!』

『はいっす!』


「グオオオォオオン!」

 ベヒーモスが袈裟がけで爪を振るう。


 ノルンは遠慮のない動きで神速で回避する。

 ――明鏡止水

 ベヒーモスは連撃で逆の腕を振るう。

 剣先でノルンは爪を流し、その勢いを利用しベヒーモスを壁へ吹き飛ばす。

 壁に打ち付けられたベヒーモスは雄叫びをあげ、ノルンに突進する。


 明鏡止水の境地の中、目を閉じながら彼女は不敵に笑う。


「手加減しなくてもいいって、本当に楽よね」

 

 突進したベヒーモスはノルンに爪を突き立てる。


 ――月詠流 華葬還一閃かそうかえしいっせん


 水が流れる様に、華が舞う様に

 彼女は踊り爪をひらりと躱す

 躱した先で上段より処刑人の如く

 華はほうむり還す為に一閃する


 ベビーモスの首は時間差でズレ落ちる


 巨体は崩れ、赤黒い血が滴る。


「ふん、不味そうな肉ね。時間かけさせちゃって」


 ノルンは事切れたベヒーモスに嫌味を放つ。

 同時にベヒーモス発生ポップ時に記録していた魔素揺らぎパターンを解析する――併せリリス覚醒時の揺らぎ、双方の解析結果と照らし合わせる。


「思った以上に高度なことをしているわね、この施設……」


 考察すると培養ポッド中腹にあるセンサー、ここに特殊な信号を流すことで眠っている彼女達を起こすことが可能だ。魔素の揺らぎ、魔モノモンスターポップがリリスの培養ポッドのセンサーに触れたことでおかしな覚醒状態となった様だ。

 今のリリスの自我は魔モノということだ。


 ではどうやって正常状態に治すか?


「もういちど培養ポッドに入れて自我リセットしたら良さそうよね。それにしてもか……」


 今のリリスの自我はベヒーモス。それでも身体は人間な為、ステータスシステムは魔モノ判定が出来ない、同時にハイエルフとも判定出来ない。

 自我のリセットは培養ポッドで可能だ。それは解析結果から解っている。ノルン的に思うところがある機能だ、でも今はこれに助けて貰おう。彼女はそう考えるのだった。


「二人とも、無事!?」


 ノルンは隣の部屋まで近づいた。


「はい〜」

「はいっす!大丈夫っす!」


 隣のフロアをみればリリスが横たわっていて、2人はだいぶ疲れたのか肩で息をしている。


「あら、リリス生きてるわよね?」


「大丈夫っす。タイミング難しいだけでオリヴィアちゃんが睡眠薬を傷から何回も流しこんでようやく眠ってくれたっす。」

「この睡眠薬、結構強力なんですけど後遺症大丈夫ですかね……」

「まあ、ポッドにもう一度入れたら入ってた魔モノの自我はリセット出来そうね。」

「やっぱり中身だけ魔モノなんですね……」


 この後は傷だけ完全回復させたリリスをポッドに入れ直した。魔素を固定化しポッド周辺で魔モノモンスターポップが発生しない様にもした。


 ―――


「先輩の説明はわかったっすけど、起こした方がいいんすかね?ここのかつての研究者さん、未来でこの子達に生きて欲しいんですよね?」


 エレナのポッドを除きながらセレスティーナは物憂げに聞く。


「みたいね、だからリリスを助けたんだし。」

 研究員の日記によって戦争に使われてしまったが、この子達は愛されていた事を知ることが出来た。

 戦争とノルン自身の関わりは消えない、でも未来を考えるあしがかりにはなった。

 今はそれだけでいい、研究員が望んだ通り笑って生きてくれるならノルンは嬉しかった。


 ただ、これはここに生み出された種族の問題だ。種族で決めてほしい。


「ノルン先輩、私、この子達の面倒みようと思うんすよ……」

「私もそれがいいと思うわ」

「今は忙しいんで100年後くらいに……」

「……好きになさい」


 こうして3人は遺跡観光を終えて、無事にもう一泊してリリシュタインデスフォレストに帰ったのだった。

 ちなみに帰路道中はノルンの安全運転で快適なドライブとなっていた。


「いやあ、ノルン先輩があのあと強力な結界張ってくれて安心したっす!」

「まあ遺跡から出たらエルフがなんかいたからね……新しい結界と鍵を作るしかなかったわね……」


 あの後、ユーリに鍵を渡しに帰って起きた事を報告していた。なぜかセレスティーナがハイエルフの里長も兼任することになった。ユーリは村長で代官の様な存在になったのだが今までと変わらない。

 変わったのは祖である研究員の意思を継いだのはセレスティーナになったということだ。だからセレスティーナはハイエルフの里長になって鍵を持つことになった。


「アイツらエルフは定期調査もハブにしてるっすからね〜」

「仲良くしたら変わらないのかしら?」


 研究員の意思を継ぐならばエルフをハブったままでよいのか?ノルンはそこが気になった。


「そっすね……ここらでエルフのマシそうなやつには声かけてみるっすかね……」


 変わって、これから始まっていく彼ら彼女らの様子をみてノルンは優しく微笑んだ。


「まあかんばりなさい」

「はいっす、あ、もう何日か泊めて欲しいっす」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ここまで読んでくださりありがとうございます!


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ノルンがんばれ!強くいきて!

ノルンかわいい!

オリヴィアもっと出せ!

セレスティーナ好き


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次回!【ノルン】エピソード!

フェンリル編突入!

本編はそのあとかも?です

どれから出したらいいのか悩んでます


【ノルン】エピソードフェンリルと本編クーフィーやまだ未登場の綾音のエピソードで第一章を閉じたいと思います。

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