【ク】Episode With Fenrir Ⅰ

※2 少女は夜逃げする から【ノルン - 13】まで続いたノルンの昔話の後のエピソードです。

Episode With Fenrir Ⅰ〜Vまであります。



 セレスティーナが遺跡に眠る子達の面倒をみると言ったのが100年前の出来事だ。


「結局どうなったのかしら?」


 セレスティーナはなんだかんだ真面目だし既にあの子達を起こして暮らしているのかもしれない。ノルンはそう考え心に閉じた。


 近況としては最近、今回のオリヴィア(22)が面白いことをノルンに伝えてきた。


「――ということでして〜、それでこれがノルン様がこの国を所有してる証明書です。ここは大公国になってノルン様が永遠のリリシュタイン大公です。」


「はあ……」


「それで今まで通り、表向きの茶番議会制にしてノルン様は象徴という形になります。実際の運営は変わらず商会にお任せください。」


「貴女達、幾つの国を運営してるのかしら?」


「セレスティーナさんの里と女神教皇国以外のリリシュタインと隣あってる国は掌握してますね。他はまあ色々やってます」


「そう……」


 知らぬ内に大公にはなってしまったがお飾りであり変わらぬ毎日を過ごしていた。

 変わっていくとすれば錬金術の技術力の向上。

 魔獣と精神パスを繋ぎ、相互で意訳的な翻訳を出来る様になったことだ。

 今までは気持ちがわかる程度だったものが、動物とお話が出来る。

 基本的に1人の時間が多いノルンは孤独を拗らせていた。

 その現れとして、魔獣とお話しよう!みたいな技術開発へと結びついていた。

 

 そんな孤独なノルンはいつもどおり畑で自動農業システムを監視しながら優雅にお茶をしながら収穫をし、

 その帰りに変質者の如く襲いかかるオークを狩り、

 養鶏場のコカトリスに餌を与えて帰って来て、夕飯を作ろうとしていた。

 

 その時――警報がなる。

 アラートのログを確認する。

 畑に何者かが結界を壊して立ち入った様だ。

 

「ちょっとちょっとなにごとよ〜、キャベツとカボチャはやめてよ〜」


 もう気持ちはただの農家だ。


 映像をみればどうやら2匹の魔獣の様だ。

 だが荒らしているというよりは休んでいるのだろうか?座っている様だ。


 ちょっと畑みてくる!のノリで1人自宅を飛び出した。

 暗がりの中、畑に来てみれば呼吸の荒い大きな獣が2匹うずくまっていた。

 

「君たち、具合悪いの?」

「グゥルルルルルル」


 喉を低く鳴らし一匹が威嚇してきた。

 それを呼吸の荒いもう一匹が前脚で制止する。


「グゥ、はっはっはっは」

「グゥル?」

「何言ってっかわかんないね、アレのテストしてみよっか」


 ノルンのいうアレとは


 ――錬金術「精神往路接続マインドパスコネクトv2.05」


 錬金術師曰く、魔素操作するものは定義的に全て錬金術なのである。


「あ、あ、あ〜、君達、私の声聞こえるかい?」

『……聴こえるぞ。ヌシは何者だ?』


 威嚇してきた比較的元気な方が返事をした。オスだろうか?


「私はノルン、ん〜、この畑の所有者かな」

『ぬ、そういうことか、失礼した。邪魔とあらば出ていこう』

「あ、別にい〜よ。ただ休みたいんだったらもっと良い場所貸してあげるから」

『ぬ、よいのか?我は遠慮せぬぞ、ことが事だけに誇りなど捨てる。世話になるぞ』


 思ったよりなりふり構ってられないようだなと、ノルンは感じた。

 だが別にノルンは世話をするつもりはない。


『ハァハァハァハァ、ノルンちゃん?ありがとね。ハァハァハァハァ。お世話になるわね』


 ノルンは声がカワイイ!と興奮した。

 だが息切れしているかの様に呼吸が荒い。


「君達はつがいなの?」

『そうだ、我とコレはつがいだ』

「ちょっと健康状態確認させてね」

『ぬ、なんだ?』


 ノルンはバイタルチェック用の術式を行使する。2匹を光が纏い、スキャンしていく。


「二人とも裂傷があるね……これは早めに治すとして、栄養も足りてないね、1人は肺に穴が、それに貴女、妊娠してるの?」

『うむ、これは腹に子を宿しておる。』


 なるほどな、それで安全に産める場所を探して来たと。


「ひとまず口あけて二人とも」

『こうか?』


 2匹とも口を大きく開く

 この2匹は見た感じでは狼だろう。

 だが座って頭をあげただけで2メーターを超える大きさだ。

 狼ってこんな大きいもんだっけ?とノルンは不思議に思っていた。


 ひとまず2匹にノルン特製ポーションを一匹10本くらいぶち込んだのだった。

 ちなみにノルン特製ポーションは巷ではエリクシールと呼ばれている。


『ぬ、傷がなくなったぞ。これの息切れも動悸も止まったようだ。』

『ノルンちゃんありがとう』

「ふふふ、まあ困ってるなら仕方ない。ひとまずついて来てよ」

『うむ、わかった。我とこれは世話になる』


 尻尾を振りながら立ち上がるオス狼。

 うわあでけえな、と思いながらも案内をする。


「君も立てる?」

『大丈夫よ』


 普通であれば妊娠中の魔獣は気性が荒く危険なのだが、元々かなり弱っていた。愛妻家のオス狼が番、メス狼も奇跡的に大人しい、治療したことによる高感度アップ、で知能が高い、意思疎通が可能、色んな要素が絡みあい、その辺の人間とあまり変わらないコミュニケーションが成立していた。

 そのことにノルンは気づいていないし、気にしてもいない。


 ノルンはちょっと待ってと2匹伝え、養鶏場で3匹締めて異空間収納に入れた。


 そして畑から200メートルほどの場所まで歩いた。そこには小屋よりも大きい、地球風に言えば蔵を更に大きくした様な建物があった。


「ここは私が漬物部屋にしようと思って建てたんだけどね、子供が産まれれて落ち着くまで居ていいよ」


『ぬ、そこまでしてもらっても良いのか?』

「ふふ、遠慮しないんでしょ?」

『そうだったな』

「じゃあ遠慮せずに一緒にご飯食べよう。」

『ぬ、飯なら獲ってくるぞ』

「ふふ、遠慮しないんでしょ〜?」

『ふはは、主はおもしろいのう。我らは世話になろう』

 立ち上がり尻尾を振るオス狼。

 言葉って難しい〜と思いながらも伝えないといけない。


「あ、ご飯は今日だけね」

『ぬ、わかった』

『ふふふ、この人がごめんなさいねノルンちゃん、それにありがとう』


 念の為にノルンは狼のアレルギーテストをしたが、特に人間と食べられるものは変わらなそうだ。


 コカトリスを3体、オークを2体吊るし首を刎ね血抜きをし、解体していく。

 臓物を捨てるか聞けば、狼は食べるとのこと。

 ノルンも食べる派だ。


『人間はそのまま食べんのか?』

「焼いた方がおいしいよ」

『ぬ、焼くとはなんだ?』

「火は知らないの?」

『火か?だせるぞ。【ファイア】』


 ボヒュウ!そんな音を立て火柱が立つ。


「魔獣って魔法つかえるんだ……焼いた方がおいしいよ」

『ぬ、火で倒した獲物は黒くなって苦いぞ』

「焼き過ぎなんだよ。見てて」


 ノルンはオークを魔素操作で浮かし、いわゆる丸焼き様に棒に抱かせ脚を縛って吊るした。だが魔モノのオークは吊るしてもキモい。


「このくらいの炎を出し続けるのね。それで満遍なく熱が通る様に焼いていくの。本当は10時間くらいかけるのがいいんだけど無理でしょ?」

『ぬ、無理だ』


 ふふ、と笑いながらノルンは狼でも出来る調理法を伝えていく。


「まあ、だからこのぐらいの炎で満遍なく熱通すだけで、だいぶ美味しくなるよ。まあ今回は穴を空けて熱を通しやすくしたのと。炎を中でも発生させるのがグリルのコツ。」


 試しに食べてみなよとノルンは促す。


『ぬ、わかった』


 恐る恐る片脚をビビりながら近づけ、ちょんちょんと肉を触る狼。ノルンは微笑みながら見守る。

 意を決して恐る恐る狼はカブりつく。

 ぬ、あつい、とか言いながらもよく噛んで、飲み込んだ。


 狼は黙ってしまった。


 思った程でもなかったかな?とノルンは不安になる。


 その時、濃縮された魔力が爆発的に垂れ流された。


「ワオオオオオオオオオオン!!!」

『うまあああああああああい!!!』


 (わ!なに!?)

 突然の遠吠えにノルンが混乱していると、メス狼が立ち上がり前脚でオス狼の前脚を押した。


『ノルンちゃんが困っちゃうでしょ!なにやってんのよ!』

『ぬ、だって、お前も食べてみろ』

『む、わかったわよ』

 

 そのやりとりをみてノルンはまた微笑んだ。遠吠えにはビックリしたが少なくともオス狼には好評だったのだろう。

 メス狼も同様に、少し離れた位置から片脚でちょんちょんしながら同様にカブりつく。

『あらあ、本当においしいのね』

 メス狼の反応はあっさりしていたがお腹の子供のこともあるだろうし遠吠えしないことに安心した。


『我も焼いてみるぞ、みておれ』

 とオスは立ち上がり

 

 ――魔素を操作し猪を浮かせた


「え?」


『穴を沢山あけるんだったな?――【エアニードル】』


 グサグサグサグサグサグサ


「ええ?」


『――【ファイア】ぬ、少し弱めるか、このくらいか?』


「えええ?」


『獲物をぐるぐると回しながら』


「はあ……」


『中まで火を入れる』

 オス狼は魔法以外は魔素を操作することで魔力の調整をして器用に猪の内部を焼いていた。


『あなたうまいわね、私もやって見ようかしら』

 以下同文――


 魔獣の生態はわからない。

 だがノルンは興味深さと謎の対向心を燃やしていた。


 ノルンは平静を装い全く同じことを真似してみた。

 後にちょっとドヤ顔しつつ真顔を装った。


『ぬ、人間もそこまでのことが出来る者もいるのだな。永い事を生きてきたが我に挑んできた者はそこまでのことは出来なさそうだったぞ』


 この狼何者?と思いながらもまあ飯にすんべとノルンは味気のない肉にカブりついた。

 ちなみに狼達もノルンの事を、この人間何者?と思っている為にお互い様だった。


 味気のない肉を調理したいところだが、塩とか出して味を覚えられても困るだろう。ノルンはそんな事を考えていた。


『ぬ、これは塩をつけた方が美味いのではないか?』

『私もそう思ったのよね』


 うわうわとノルンは思ったが平静を装い微笑みながら見守った。


 ――【次元収納開放アイテムボックスオープン】塩


「はぁ……」


 どこからともなく岩塩が現れ、魔素操作エーテルコントロールで器用に岩塩を擦りつけていた。


『ぬ?やっぱり塩があう』

『あうわね、ノルンちゃんも使う?』

「あ、ありがと……」


 ノルンも魔素操作エーテルコントロールで塩を塗った。どこの岩塩なのか甘みがあって美味い。


『どうだ?うまいだろう?』

「うん……」


 ノルンは2匹を眺めて思った


 ――こいつら本物のチートだぁぁあ! 


 狼達との数奇な巡り会わせはノルンの錬金術人生を大きく塗替えて行く。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ここまで読んでくださりありがとうございます!


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ハイファンタジーサイド

フェンリル編スタート

人間相手ではないのでノルンは素の口調が多くなります。

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