【ノルン - 12】少女は遺跡を探索する1

※2 少女は夜逃げする から続くノルンの昔話です。【ノルン - 13】まであります。


 猫耳獣人の里に泊まった翌日――今日は遺跡へ向かう日だ。

 セレスティーナのルーツである獣人やハイエルフといった者達が造られた、旧文明の遺産である遺跡の探索、もとい観光だ。


「いやあ先輩、昨日はお酒精製と漬物の作り方わざわざ講義いただいてありがたいっす!」


「これも錬金術だし、貴女の門出でもあるしね」


「そうやって偶にバランスよいデレ無自覚に挟むからみんな先輩に狂うっすよ〜わはは!私も転生者じゃなきゃ危ないっす!まあでも感謝しかないっす!」


 そんな他愛もない話をしながら彼女達は朝食を囲んでいた。目玉焼き、オークの腸詰めにご飯味噌汁のセットだ。


 遺跡観光の日、セレスティーナは張り切っていた。


 彼女達は今の今まで旅行感覚でしかなかった。

 冒険譚?なんすかそれレベルだし刺激を求める人には少し物足りない旅とも言えよう。

 だが旅行とはそれくらいがちょうど良い。


 ノルンとしては過去の戦争の軌跡をたどり、未来へ繋げる手がかりになれば良い。

 昔のお寺や神社をみる感覚で良いのだ。

 なにか変なことに巻き込まれたり、遺跡でなにかを発動させたりとか本当にいらない。


「先輩――いま何押したっすか……」

「ま、魔素も電気も通ってないのは確認したよ?ど、どうせ動かないわよ〜」



 ――時間は少し遡る

 


 遺跡は猫耳獣人の里から徒歩30分の場所にあった。


 それでもノルンには遠いらしく車を走らせた。


 前世ぶりにノルンは車を運転する。

 思ったよりも地球の車と感覚が変わらない為に全然運転は出来そうだ。

 そもそもノルンのノウハウから出来た魔導車であり当然だ。

 緩やかに静かに、左折時は確認を怠らず、ゴブリンがいれば避けられるスピードで走行。ドライバーの模範の様な運転。

 だが信号もない視界の悪い山道だ。右折時にゴブリンが跳びだすこともあるので注意が必要だ。


 どん!!パキゴリゴリ


「や、やっちゃった〜、完全に死角だよ〜どうしよ〜、轢いて踏んじゃった〜どこに連絡すれば」

「ノルン先輩落ち着くっす!ここは惑星ノエルっす、しかもゴブリンっす!その辺の魔獣のごちそうっす。大丈夫っす」

「はっ!!そうだった!!あぶなかったわね……次は気をつけなきゃ」

「魔モノならどんどん轢いていくっす!」


 なんとか遺跡に到着した。


 遺跡といってもセレスティーナ達のルーツであるハイエルフや獣人の工場、というよりは研究所である。


 見た目はハイテクな現代よりも未来、そんな雰囲気さえ感じる50階建てのビルだ。戦争が終わり数百年経った今も形を成していて、くすんでる程度なことから当時のテクノロジーの高さが覗える。


「まあ、とは言っても作りは粗いわね」

「そうですね、素材の耐久性は良いですが商会や帝国なら数百年なら新築同様に保てる機構と設計にします」

「二人とも遺跡に対して何いってるすか?」


 ノルンもオリヴィアも元敵国のテクノロジーには辛辣だった。


 セレスティーナがカードキーをピッとカードリーダーにあてる。

 するとビル1階の正門が開く。

 文明も進めばフラッパーズゲートを採用するものなのか駅改札の様なゲートが入口にあった。カードキーひとつでどうすれば??とノルンは考えていた。


「これは壊れてるっすから、普通に乗り越えるっすよ。」


 オリヴィアが、数百年程度で壊れるものを作る国がよく攻めて来ましたね、とまた毒を吐く。オリヴィアも思うところがあるのだろう。ノルンはそんなオリヴィアをみて優しい気持ちでいられた。


 よいしょと乗り越えながら施設の奥へと進むと地下に繋がる階段があった。


「こっちっすよ」

「上じゃないの?」

「上はなんにもなかったっす、オフィス?っすかね?下っす」


 ここは100年ほど前から各種族合同でエルフ以外で調査をしていて、ある程度はセレスティーナも参加していて把握しているらしい。


 地下へ進めば真っ暗で何も見えない。

 ノルンは魔道具ファンネルを展開しそこから光を灯す。


「先輩それかっこいいっすね。ビームでるっすか?」

「勿論でるわよ」

「錬金術始めたら私にも作れますか?」

「作れるわよきっと」

 ドヤ顔のノルン。彼女はこれを隙あらば自慢したかった。


「まあ、ごめんすけど照明生きてるんで付けるっすね」

 カードキーをどこかにあてると瞳孔が狭まる感覚がした。フッと視界が白みを帯びて明るくなる。

「あら」

 ファンネルを披露できたノルンは特にそれは良かった。

 でもこの照明に違和感があった。

 

「セレナ、これって電気かしら?」

「そうなんすよね。魔素照明も蛍光灯と並んでるんすけど、蛍光灯しか点かないんすよ。恐らくっすけど予備動力に電気とかいう安定しないものを使ってて、いまは電気でしか動いてないんすよね。」

「わざわざ電気なんて使うのかしらね」

 疑問に思い口にだすとオリヴィアが答えてくれた。


「かつて、この地にあった国は生体テクノロジー、遺伝子工学に主に力を入れてました。当時は医学の為に、という名目で私たち商会も注目していました――」


 元を辿ればノルンのノウハウが元だ。

 当時は技術革命の中での技術競争、資本力のなかったこの国では数あるノルンのオープンソースノウハウの中に「もしも魔素がこの世から消えたら」という論文を見つけた。

 生体テクノロジー、遺伝子工学とともに電気を用いることで資本力をカバーしていた。

 更には本来魔道具ベースで理論を組むところ技術不足だった。

 それを電気に置き換えた電子機器の科学を発展させ魔道具とのハイブリッドで奇跡的なマッチングが発生し、生体テクノロジー、遺伝子工学が爆発的に発展したと言われている。


「かといって、他の国ではどこも電気を使わなかったんですよね。やはり安定性がなく。技術も資本力もありましたからね。この国はそういったカバー力はポイント高いですね」


「でも今は電気だけ残ってるっすね……」


「それも妙よね……まあこの惑星の技術は電気や電子機器にしても進んだってことかしらね」


 そんな話をしながらも研究室と思われる区画へたどり着いた。


「結構きれいね」


「はいっす、ところどころ生活用に分類する錬金術の清掃分解クリーンに似た魔道具がところどころ動いてるみたいっす。ただこれも電気を動力として魔素を魔力に変換して操作するっていうなんか下手くそな感じっすけど。」


「まあ魔素操作じゃなく魔力操作の別物だからあくまで錬金術に似たものね。」


「そっすね、ついたっす。ここから先の入り方はわからないっす。ただこのガラスの向こうにはまだ同類なかまがいるッス」


 たどり着いたラボ最奥部、ガラスの向こうには

 「ハイエルダーフェアリー リリス」

 「ハイブリッドh2:c8 セシリア」

 「ハイブリッドh8:c2 エレナ」

 とかつての国の言葉で記載された培養ポッドらしきものが3つ。

 金属で出来たそのポッドの上部には窓があり、顔が覗ける。

 生きているのだろう。


「いまいる獣人やハイエルフは第2世代以降、元は作られた存在でも繁殖によって生まれた者しかいないっす。戦う為に作られた第一世代、すなわち培養され生まれた者達は自分から死を選んだらしいっす。産み落とした子に健やかな未来を託して。そうハイエルフの里では教わったっす」


 物憂げにセレスティーナは語る。


「この人達は第1世代即ち、戦うことに意義を持つ者。このまま寝てた方が幸せなんすかね?」


「どうかしらね……」

 自ら死を選んだ第1世代については悲しい。でも健やかに生きて欲しいと子供に託したその願いには優しさを感じる。

 親として失格だろうが子供を戦争から遠ざけたのだろう。

 そうであってほしい――

 そう願いながらノルンは壊れているだろう扉のスイッチっぽいものを適当に押す。世界に浸ると条件反射的になにかをする、彼女の悪い癖だ。


 カチカチ


「先輩――いま何押したっすか……」


(あ、やべ、ここって電気もあるのよね?ん〜やっぱり電気も魔素も壊れてるわね)


「ま、魔素も電気も通ってないのは確認したよ?ど、どうせ動かないわよ〜」


 後付けだがノルンはごまかした。

 

 ――その時、空気が生暖かくなる

 魔素が揺らぎ膨大な魔力が濃縮される。


 これは魔モノモンスターポップだ。


「わ、わ、私のせいじゃないわよ!」

 ノルンは狼狽える。


「わ、わかってるっす先輩!」


 培養ポッドに目を向ければ「ハイエルダーフェアリーリリス」のポッドの腹部のセンサーらしきところにソレは現れていた。


 魔モノモンスターポップの魔素吹き溜まりは消える


 ところが魔モノは現れない。

 だが尋常ではない魔素変換がおこり濃密な魔力循環が発生していた。

 同時に培養ポッドのロックが外れたのかポッドサイドが水蒸気を吹く。


「アナログですね」


 オリヴィアは冷や汗を垂らしテクノロジーに対し毒を吐く。


「ハイエルフが出てくるっすよね?多分。この魔力は尋常じゃないっすね。ノルン先輩、刀借りてもいいっすか?これでも前世は剣術道場通ってたっす……」


 スキル聖女にして大聖女であり錬金術師見習いも声の震えを隠せない。


「刀ね……はい。オリヴィア、ステータスで種別って項目が増えたのよね?見てくれるかしら?上の4項目だけでいいから」


「はい……――鑑定Lv10」


種族:人間

種別:ハイエルフ!魔モノ!error

名前:リリス

性別:女

―――


「ノルン様、魔モノかもしれません、でも魔モノじゃないかもしれません……」


 ポッドが開ききると彼女は現れた。

 白銀の髪、紅い瞳に容姿端麗でどこかユーリに似ている雰囲気の顔立ちだ。


 その女はノルン達を見下ろす形で立っていた。


「リ、リリスちゃんっていうっすか?裸だと寒くないっすか?」

 ノルンから借りた刀を腰に構えながらもセレスティーナは声を震わし、リリスに声をかける。


 リリスは表情を変えずセレスティーナを見据える。



 ――身体強化術式 Ⅱ【戦場乙女は詠い舞い踊るリミッテッドペインパージ――ヴァルキュリアシング】


 ――召喚【月照緋水咲華つきてらすひみずにさくはな

 ノルンは一振りの太刀を召喚した。


「ノルン様!!」


 バリン!


 ノルンが構え終わる前にリリスはガラスを脚で突き破り、そのままの勢いでノルンの腹部へ脚を突き刺す。ノルンは壁に打ち付けられる。


「ぐ、いったいわね〜……内蔵破裂に脊椎損傷に頭蓋骨陥没、もう治ったけど今ので1回私、死、名乗らせなさい!!」


 リリスに抗議するもリリスは無表情だ。


「月詠流兵刀術 免許皆伝 錬金術師 ノルン・フォン・リリシュタイン 参る!」


 それを聞いたセレスティーナは広角を少し吊り上げながらやっぱりと呟き声をあげた


「じゃあ私も名乗るっすよ〜〜!

月詠流兵刀術三段 聖女セレスティーナ 参る!」


それを聞いてノルンは目を見開く、セレスティーナはへへへ一緒っすねと嬉しそうに微笑む。


「私も!ヴァルキュリア流戦闘術指南役 兼 商会顧問 オリヴィア・エーヴァーハルト いざ尋常に!」


 オリヴィアは商会の技術を結集したハイパー多機能剣をマジッグバッグから召喚した。


「さあ、いくわよ!あの子リリスを無力化するわよ!」


「はい!」「はいっす!」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ここまで読んでくださりありがとうございます!


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ノルンがんばれ!強くいきて!

ノルンかわいい!

オリヴィアもっと出せ!

セレスティーナ好き


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