19 小さな錬金術師は不貞寝する


「クーフィー様、あちらが私どもの拠点です」


 ノルン達と別行動となった地上組は玲達の拠点へそのまま向かっていた。夢結が張り切ってクーフィー達を案内していた。

 

「そうか、なんか柵壊れてるけど大丈夫か?」


 視力が良いクーフィーは不思議に思った。


「……!!」


 夢結が拠点まで走り出す。

 異変感じた拠点組の面々も走り出す。


 なんだかよくわからないがクーフィーとアンナ、猫達もついていく。

 拠点へ入っていくと柵の中でみんなが武器を構えていた。


 どうしたどうした?とシャロに跨り近づいてみれば、狭い範囲に結界を張り魔モノからの攻撃に耐えているものが十数名。その十数名はクーフィーにとっては初めてみる者達だ。

 結界を張る者は大きな盾を前に置き、盾を起点に結界を張るような形だ。

 何度も盾は蹴りを食らっているが耐えてヘイトを稼ぎ引きつけていた。


 更に世麗奈パーティーと夢結パーティーで魔モノを取り囲んでいた。


 その魔モノとは


コカトリスじゃん。3匹もいるぞラッキーじゃん。これ家畜にした方がいいぞ、お前ら」

 

 またこいつらだ。


 拠点組からすれば背丈は2メートルを超える倒すのさえ微妙な大きい化け物だ。どう捕獲するんだ?と困惑していた。


「なるほど、ノルン様、クーフィー様にとっては家畜同然なのですね?その……家畜にするやり方がわからないので……」


 夢結は敬意を払いつつも、クーフィーならなんとか出来るのかもしれないと頼った。

 そんな夢結をみて世麗奈は感心した。

 自分だけでなんとかしようとせず、頼ることを覚えたんだなと。


「……そうかお手本は必要だよな。わかったぞ。やってやる」

「ありがとうございます。」

「クーフィーさん気をつけてくださいね」


 クーフィーは状況を分析する。

 盾職は頑丈そうだし立ってるだけでヘイトを稼げて敵を引きつける。その才能にクーフィーは感心した。


 クーフィーはとことこと歩いてコカトリスの近くまで近づいていく。

 盾職の男こと本田はぎょっとした。

 もの凄く美しいみたこともない少女だ、それが微笑みながら近づいてくる。

 コカトリスがいるのに何故、誰も止めない。危ない!


「おい!盾の男!そのままニワトリをひきつけてろ!」


 この尊大で偉そうな台詞が小さい女の子から発せられていたことに、本田はブルっときた。そう、こいつもオタクだった。

 少し危ない属性せいへきを持つ本田も今は命のやり取りをする場面だ、この小さな女の子は自分が護らなければいけない。

 ヘイトにも力がはいる。


「わかり申した!拙者に任せるでござる!」


「おおその口調はニンジャか?ニワトリどもがこっちを気にしないぞ。すごいな」


 クーフィーがいうのは惑星ノエルにもなぜかいたニンジャのことだ。ノルンがふざけて忍者とはこういうものだ。と口伝したら試行錯誤の末に忍術を編み出し広めた者がいたのだ。まあその話しはさておき


「イエース、アイアムジャパニーズニンジャ」

 本田はいいとこみせようとアピールしまくった。単にちょっと古めのオタク特有の言葉が出ただけだ。


「そうか、おいお前らこっちこい。そうだ、ここでみてろ。こいつらを家畜として捕縛する時だが。この腿の斜め後ろのここをこうな。」


 クーフィーのコカトリス捕縛教室が始まる。


 ドス。

 クーフィーは思いっきりパンチする。


「こうするとこいつらニワトリは動けなくなる。こいつらはここを鍛えることが出来ないんだろうな?よくわからんがここが弱点だ。」


 とクーフィーが足払いをすると一羽がズーンと倒れる。コカトリスは意識はありそうだが低くゴッゴと鳴きながら動けないようだ。


 この小さい身体のどこにコカトリスの巨体を足払いできるほどの力があるのだろうか?皆はそう思った。


「くちばしの下を叩いてもいいが蹴りがうっとおしいから、まあヘイト稼げるやつが稼いで、あそこの腿狙えば大丈夫だぞ。」


 あとの2匹はだれかやってみろ、とクーフィーが促し。世麗奈と夢結がやることに。


 世麗奈は刀を鞘に納めて突きを御見舞して無力化は成功だ。


 夢結だが盾よりもヘイトを稼げるのか、普通にコカトリスに前蹴りをくらっていた。周りからは悲鳴が聴こえるほどの惨事だったがアンナの神話級回復魔法で事なきを得た。

 ここにいる僧侶、神官、魔法を使う者はアンナを崇拝するかのような目線を送るが、またクーフィーやノルンの助手程度と2人に擦り付けていた。


「面白いなお前、一日に2回も同じ光景みるとは思わなかったぞ。お前は引きつけ役だから回避とかに専念した方がいいぞ。」


 と夢結に話しかける


「ははあ〜、御身のお役に立てず勿体ないお言葉。」


 と跪づいていた。


「まあこんな感じでやり方次第では魔モノなんて怖くないし、燻ぶってないでどんどん狩りに行け。お前らは出来る筈だぞ」


「「「クーフィーさま……」」」


 言葉は尊大で偉そう、でもクーフィーはお手本まで見せてくれた、拠点に引きこもってぎりぎりの生活をしていた彼ら彼女らに自分らでもやれる!と希望をくれる女神に見えた。容姿も華恋で華麗、この世のものとは思えないほどの美貌をもつ少女だから尚更だ。


「まあ、がんばれよお前ら」


 クーフィーは遠慮しない。


 本田達も流石に今回はダメかなと諦めかけていた時だった。ヘイトも守護結界スキルを解くと同時にどっと座りこんだ。


「がんばったな、お前、偉いな」

「クーフィーちゃん、おれ……おれ……ううぅぅ、ぐす、う〜〜」


 今までは攻撃が出来ないことを気にしていた盾の本田は、初めて認められた気がして嬉しかった。更に死ぬかもと思っていた吊橋効果でクーフィーに対する属性せいへきは信仰に変わろうとしていた。


 それにしても――

 この拠点に残っていた者達も栄養失調気味のような状態だった。

 このままでは数年も持たないだろう。


 ここは自分が姉の代わりに人肌脱ぐか!そう考え。料理を振る舞うことにした。


「柵直せるやつは直してろ。結界は私が張ってやる。これからニワトリを解体す締めるから覚えたいヤツは覚えろ。その後は飯を作ってやるから料理出来るやつは手伝え。」

 腕を組みながらクーフィーはそう伝えた。


 簡単に300メートル四方に絶対防衛結界を張った。複雑な術式紋が空に浮かび拠点を包み込む。魔素アレルギーにも配慮し拠点結界内は魔素を少しだけ薄くした。


「なんすか?ここ要塞にするっすかクーちゃん様」


 昨夜、バーベキューをした組はもうマスクなどをしていなかったなとクーフィーは思い出した。綾乃と玲は姉が介抱した後、そういえばアレルギー症状はなかった。

 後からきた世麗奈組、夢結組はどうだ?

 若干のアレルギー症状はあるものの緩和していた。マスクはいらないほどだ。


 では拠点に残った組はどうだ?

 未だにマスクは外せないようで肌もあれている。


 詳しく調べないとわからない。でも美味いもの食べて栄養取るのは悪いことではないな、とはクーフィーでなくとわかるだろう。


「それじゃあ解体するぞ〜」


 鶏を吊るしてクーフィーは解体用の自作短刀「わんわんサンダー」で首を刎ねる。

 湾曲しながらも美しい匠なデザインで姉が悔しがるほどの出来のナイフだ。クーフィーが持つと結構デカい。


 あとは60もの工程をここにいた全員が必死に覚えようとメモをとっていた。

 クーフィーは思った、記録すれば良い。

 でも動画や静止画を撮る術式とか知ってるわけないもんなと。


 近くにいた世麗奈組に魔道具カメラをあげた。くれてやるから、記録して今後に役立てろと。クーフィーからすれば魔道具はほぼ使わないし役に立てる使い方をした方が良かった。


 魔道具カメラを受け取った世麗奈は


「我々にメディア広報部をやれということっすね?我々が同人活動で培った技術と混ざれば無敵っす。クーちゃん様をたくさん撮るっすよ!」


 などと謎の発言をして世麗奈パーティー全員がメガネを曇らせ微笑デュフフを浮かべていた。


 鶏の解体は動画として保存された。


 此処はクーフィーが出した簡易コテージのキッチン。この拠点内にあるどの建物より立派な建物だ。

 ここに集まった料理が出来る者は世麗奈せれな、夢結の姉である琉瑠るる、意外にも夢結むむ、それと拠点に残っていた内の3名、恵子けいこ明日香あすか裕美ひろみだった。

 アンナは見学している。


 前髪を三角巾であげオデコを出したクーフィー、そんなクーフィーを記録したく世麗奈せれなはメガネを曇らせながらパーティーメンバーにカメラを託す。 


「飯をつくるぞ〜。お前らの持つ食材をテーブルに全てのせろ」


 拠点にあった食材、マジッグバッグに入っていた食材が乗せられていく。


 クーフィーはよいしょと踏み台に上がり、食材を眺める。

 まずは小麦粉、薄力粉と中力粉、強力粉が分けられていた。これが10kgずつあるそうだ。

 これでもこの人数を賄うには毎日つかえば10日ももつかわからない。切り詰めて使っているのだろう。


 あとは古い白米が20kgほど、多分普通につかってたら10日も保つかわからないだろう。


 あとは塩と唐辛子に。


 あとはこの拠点の畑で栽培した野菜だ。

 春大根にキャベツに白菜にトマトにほうれん草、玉ねぎ、にんにく。


 それと解体した鶏肉だ。


「おお、野菜しっかり育てたんだなあ。」


 クーフィーは感心した。褒めることを忘れない。姉なら褒めただろう。


 恵子と裕美がみつ編みをゆらしドヤ顔する。ちなみに料理をするからみつ編みにしてるだけだ。


 玉ねぎの葉っぱはそのまま長ネギの代用に出来そうだ。


 クーフィーは昨日精製した調味料を出した。

 醤油や醤油をベースとした調味料、酢と砂糖、あとはカラス麦の糖分を錬金発酵させた調理酒。それに錬金発酵させた即席味噌。


 あとは乱獲した巨大ツルマメ。

 これだけあれば、色々作れるだろう。


「わあ、味噌があるっす!味噌が醤油が!バーベキューでも思ったっすけど大豆は神っすね!」


 大豆ではないがまあ大豆みたいなものでクーフィーはそうだなと頷いた。


 汁物からなにからなにまで色々つくれそうだ。鶏肉尽くしにしよう。


 姉にも食べて貰いたいな。そんなことを考え料理にとりかかるのだった。


 出来上がったのは

 つみれ味噌スープ

 鶏肉ガーリックトマトステーキ

 油淋鶏

 鶏白湯スープ

 唐揚げ

 鶏肉の照り焼き

 手羽肉の甘煮

 焦がしネギと甘辛鶏肉炒め

 砂肝焼き

 串焼き各種

 せせりの塩コショウ炒め(ノルンの好物)

 キノコと大根とほうれん草の味噌汁

 サラダ

 錬金発酵タクアン

 錬金発酵キャベツと白菜の漬物

 

 丼ものでも定食でもアレンジが可能だ。

 もっと色々作れそうだが手伝って作ってる側の人間が空腹で限界だった。


「クーちゃん様料理出来たんっすね〜」

「おい、私をなんだと思ってるんだ」

「あ、いやすいませんっす味見で思ったすけどおいしかったっす、また教えて欲しいっす」

「おねえちゃんが出来ることは私も出来るからな。むしろ私がいつもおねえちゃんのご飯作ってたからな」

「そうなんすか納得っす」

「そういえばお前、どこかで……いやなんでもない」


 クーフィー世麗奈にどことなく知り合いの様な親近感がわき、不思議に思った。でも満更でもない気分でクーフィーはそうかそうかと笑みを浮かべまた教えてやると気分良く返した。




 20☓☓年5月10日 現在の時刻は18時を過ぎていた。

 クーフィーに姉からの連絡はまだない。


 後から合流すると姉は言っていた。

 だから自分から連絡しても姉の邪魔をしてしまうかもしれない。

 よく出来た妹は姉に気遣いが出来る。


 帰って来たら好物を食べて貰おう。

 そして拠点の人間をかつての姉の様に導いたことを褒めて貰おう。

 姉に褒められたいクーフィーは密かにそんな事を考えテーブルを錬金生成し屋根まで作り、金属や木材のスプーンやナイフ食器を生成した。

 素材があればなんてことはない。


「クーちゃん様、錬金術って凄いんすね。私も錬金術習いたいっす」


 そうか、でもまずは飯をくえとクーフィーは皆を座らせる。


 なんだかんだこの中だと落ち着くアンナと隣あって座った。


「全員好きなもの食べろ〜、いただきま〜す」


 皆はもの凄い気迫で食事を開始した。さながら戦闘時のような気迫である。


「クーフィーさんのお料理おいしいです」

「そうか?へへ、いっぱい食べろ」

「はい、ありがとうございます」


 クーフィーは食事を終え、片付けは皆に任して、コテージでプリンを作ってアンナと食べていた。

 少し元気のないクーフィーを心配するアンナ。


「……ノルンさん達、まだですかね?」

「忙しいのかもしれないしな……」


 プリンを食べ終え摂食神経の反応は収まったクーフィーだが姉不足で落ち着かないでいた。

 無言でアンナの横から膝に腿の上に俯せになり自身の上半身を沈めた。


 現在は22時を過ぎていた。


 おねえちゃんまだか、と足をバタバタさせアンナの膝にうずくまるクーフィー。

 まだかまだかと待つ。

 せっかく作った料理もほとんど無くなったし、出来れば一緒に食べたかった。出来れば見ていて欲しかった。

 でも、なにか事情があるなら仕方がない。


 その時、姉から通信が入る。

 クーフィーはガバっと起き上がり通信をとる。


『もしもしークーちゃん?ごめんね。実家を見つけたから寄っててね。みんな生きてたの。だから少し連絡するの遅くなっちゃったんだけど』


 雑音が多い、音声を拾うタイプの通信だろうか?

 それにしても楽しそうな雑音が聴こえる。

 クーフィーは少し不満が募る。

 それに実家?なんですぐに教えてくれないのか?

 


『なんか後ろが騒がしい』


『あ、今日なんかお祭りみたいでね……クーちゃん…………』


 姉の申し訳なさそうな声がする。なにか事情があったのだろう。

 だがお祭りと聞いて不満な更に募る。


『ノルンちゃん!どうしたのこんなとこで、唐揚げ余ってるよ~!もーらい!もぐもぐ、ぐびぐびぐびー』


 綾乃の声だ。やっぱり楽しそうじゃないか。楽しそうなのはいい。でも唐揚げ?もうお腹いっぱいなのだろうか?クーフィーは不安を不満に変えていく。


『あ、今の綾乃さんよ、唐揚げが沢山あるのよ~ははは…………』


 どこか楽しそう、余るくらいに鶏肉でお腹いっぱいなのではないだろうか。それに自分だけ実家に帰って。 

 クーフィーは不満が爆発寸前だ。


『ずるい』


『クー………ちゃん………?』


 、姉は今の今まで自分を忘れていた。

 クーフィーの不満は爆発した。


『おねえちゃん嫌い』


 クーフィーはアンナの胸に蹲りそのまま不貞寝した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ここまで読んでくださりありがとうございます!


ノルンとクーフィーの活躍をもっと見たいぞ!


ノルンかわいい!クーフィーかわいい!

ノアかわいい!世麗奈ってもしかして?

みんなの冒険を応援したい


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