18 錬金術師は帰省する2


「お父さん、みんなよく生きてたね。ってお父さんたちなら死なないか」

 

 ノルンは小学校のグラウンドから実家への帰路の途中に照人と他愛もない話をしていた。


「……いや、集落のみんな結構死んでまったよ。わぁも(俺も)何回も死ぬかと思った」

「あ……そっか~……」


 ノルンはその後の言葉を紡げないでいた。


「でもな、何回か龍王様や獣王様に助けてもらったんだ」

「龍王と獣王?」


 とノルンは綾乃に手を引かれて歩くノアを見る。

 ノアがニコっとして手を振るのでニコっと手を振り返す。


「そうだ、こんな世になってまだ2か月くらいの時か?山にな、いつもの咲々流山ささながれやまでキノコとか山菜さがしてた時にな………――」


 ――照人曰く、こんな世界になってレベルも低かった当時に4メートル級の熊の魔獣だったり、見たこともない鳥の化け物に襲われたそうだ。

 その時に獅子の様な紅い毛並みの獣に、大きな黒い龍に何度か助けられたそうだ。

 最初は熊の後は自分か?と思ったそうだが何回も助けられた。それも自分だけではなく集落で生き延びている面々も何度か経験していることだった。

 たから集落では敬意をこめて山の主だったり龍王様、獣王様と呼んでいるそうだ。

 田舎にありがちな信仰に似たものだが、ファンタジーと化した地球では現実味がある話しだ。


 ノルンとクーフィー、姉妹で各々を眷属にしてしまっているし、なんとなく普段ならイキり散らすノルンだが、家族になんて思われるか?と考えてしまい黙っておくことにした。


「ふーん、そっか、龍王様と獣王様に感謝だね」

「そうだな、龍王様と獣王様がいたおかげで生き延びてなんかとかレベルも上がって、後が楽になったな。」

「ほえ~、そうなんだ」

「それでな、龍王様に似た色合いの違った龍が小学校の苗床農場に降りたのが見えてな。それでさっきあそこに向かったんだ。みてねえか?ノ……ノルン」


 名前を昇ではなくノルンというのにまだ照れがある照人。

 名前通りに照れていた。

 詳しい話は聞いていないが息子が娘になって帰ってきた。

 男だらけの家だったがぶっちゃけ娘が欲しかった照人は結構デレデレしていた。

 もはや照人てるひとではなく照人てれひとだ。


「あー、あ、あ、あ、あのあかい龍ね。龍王様の第二形態じゃないかな?」


 自分の眷属故に無碍な説明もしたくないノルンは嘘をつかない程度に考察を述べた。

「なるほどな、見た目も大きさも同じだし見間違うわけねえもんな。でもノ、ノルンの結界とやらで見うしなっちまったんだべな」

「うん、きっとそうだよ」

「ち、ちなみになノルン?お前、いま本当に女なのか?剣を交えればお前が昇だってのはわかるんだが……それ以外がよくわからなくてな。」

「説明が難しいんだけどね、生物学上、正真正銘の女だよ。まあ遺伝学的にはもうお父さん達と違うんだけど……まあ夜にビールでも飲みながら話すよ」

「そっか……ならコレじゃないんだな?」


 照人は口の横に手の甲を持ってきてその手を反らした。

 例のポーズだ。


「違うよ!玲もそれやってきたな」

「そっか、まあどっちでもいいんだが、母さんにも説明頼むな!」

「はは、わがったよ」


 まあ家族としては思うところもあるだろう。

 でもこの世界の野月昇は恐らく存在する。

 だから自分は昇ではなくノルンとして扱ってもらおうと考えていた。


「昇、生物学的に女なのか……もしや昇は異世界転生して帰ってきた系か?俺もノルンと呼んだ方がいいのか?」


 かけるがノルンに話かけてきた。


「おう翔、まあそういう話は今度な。ノルンでいいよ。こんな見た目だしな」

「そっか、なら俺のことは、おにいちゃんと呼べ」

「……は、はあ……」


 かけるは妹がいる家庭に憧れていた。

 そういえば妹ものの漫画や小説ばかり読んでたなコイツ……とノルンは思い出し、しかめっ面をした。

 かけるは既にシスコンと化していた。


 月詠系譜の家系はなぜかオタクが多くなる件について。

 

「どうしたほら!おにいちゃん!って呼んでみてよ!ノルン!さあ!ほら!」

「そうだな……野月家現当主様……」

「なんでだ!妹よ!どうしておにいちゃんって呼んでくれない!」

「え~~~……」


 ノルンは照人に目線を送れば、パパって呼んでくれてもいいんだぞと言いだす始末。


「玲!」

「どうしたのお従姉ねえちゃん?」

「男どもがさー、ごにょごにょ」

「ぷふ!かけ従兄ちゃんっぽい!!おにいちゃんって呼んでやりなよー!わははは」


 肉親的な身内にノルンの味方がいなくてノルンは不機嫌になる。


「もう、プリンもつくらないしビールもださん!」


 え、それは困る。と照人はお父さん呼びでもぶっちゃけ満足していたので謝罪した。


「お従姉ねえちゃんごめん!かけ従兄ちゃんは我慢しな!」

「そんな……」


 この世の終わりかのような顔をする翔をほっといて前を向けば、ノルンは懐かしい実家まであと少しのところまで辿りついたことに気づく。途中までの道中は荒れてはいるが見覚えはあった。

 だが実家のある場所へ近づくと、アレ?っとなった。


「なにこれ。もしかしてこのバリケード?城壁?この中に家があるの?」

「そうだな。この壁がねえと安心して暮らせねえ」


 ノルンの実家があったはずの場所近くから1kmもないくらいだろうか?

 10メートルほどの高さのレンガの様な建築材と木の組み合わせで出来ている壁が広がっている。

 地球だと大魔境レベルの場所でよく作ったなと感心するのと同時に、まるでファンタジーだな、とファンタジー世界生まれのノルンは思った。

 壁の中を集落としてユニオンというよりは村を形成している。

 中には家が集まって人々が暮らしている。

 外界の情報は入って来ないがここでは一つの社会が形成されている様だ。

 認識阻害スキルの結界、魔獣魔モノ除けの結界など様々な結界が壁重なる形でかけられている様だ。

 ノアにのってる時にはあまり気にならなかったのは認識阻害スキルのせいなのかもしれない。

 

「はいるぞ」


 照人が門に手をかざすと、門の上から人が覗いてきた。


「テル!もどったんだな!そちらの若いおなごさん達は?(てる!帰ってきたんだね!そちらの若いお嬢さん方は?)」


「ああ石田おつかれ、戻ったど(戻ったぞ)、姪っ子とその友達と……娘だ!!」


 ノルンの肩に手を置き照人はなぜかドヤ顔だった。


「娘!?嘘つぐな!(嘘つくな)、海外の人だべ!いま開げるど!(いま開けるぞ!)」


 門が開き、石田が出てくる。


「石田のおじさん、久しぶり~!ちょっと若くなったね?衛兵してらの?(衛兵してるの?)」

 ノルンは石田に気安く話かけた。


「テル、だいだばこの娘っこ(誰だ?この娘は)。ふぃさしぶりって言んわれでもな~」

「あ、んだな、わりがったじゃ石田のおじさん(あ、そうだね、ごめんね石田のおじさん)」

「したはんで、わぁの娘だって(だから俺の娘だって)」

「あいだ、パパ活だべ?そった堂々どいぐねど(あれだ、パパ活だろ?そんなに堂々と良くないぞ)」

「違うんだって石田のおじさん、わあはさ(違うんだよ石田のおじさん、私はさあ)――」


 綾乃と玲とノアは目が点になっていた。


「ここってフランス?ドイツ?」

「ああ、ノルンちゃんはヨーロッパ出身ってのはあってたね!!フランス語じゃない?」 


 字面では聴きとれそうな感じではあるが発音記号であらわすとおかしいことになり更には独特なリズムと早口、この地域の方言のヒアリングは都会っ子には難しいようだ。

 綾乃と玲はフランス語だと思うことにした。


 その時だった――


「はぐ門、閉じへじゃ!(早く門とじなさい)」


 見た感じの歳は20代になったばかりくらいだろうか?その女性は怒りの形相で照人と石田に叫んだ。

 ノルンはどこかでみたことあるぞ?と思いながらもピンとこないようだ。


「父さんさー!モンスターよってくるでしょ!門の周りで騒がないの!」

「母さんごめんって」

「もう、まあ無事でよかったよ。おかえりなさい」

「ただいま」


 ん?あれ?まじ?とノルンは思った。記憶にあるその人とは全然見た目が違う気がするが、若い時はこんな感じだったのだろうか?と想像してみる。

 照人がパパ活するわけでも無しに自分に対しては娘とは言ったが、あの人のことは母さんと呼んでいた。

 でもやっぱり面影がそうだし、間違いないだろう。


「お、お母さん?」

「あら…………昇、おかえり」

「え……!?た、ただいま」



~~



 20XX年5月10日18時30分、集落の広場に人が集まっていた。

 龍王が空を飛んでるのを見かけた日はみんなで食べるのだそうだ。


 宗教や信仰とはこう生まれていくのだろう。

 その信仰の対象であるノアはなんのこっちゃと、もっちゃもっちゃとコカトリスのもも肉の唐揚げを頬張っていた。幼い子は大人をよく見ていて吸収が早い。ノアはノルンの真似をして口の中に詰め込む癖が生まれそうだった。

 そう何も言わないがノアはノルンのことをよく見ている。



 この集落ではコカトリスを家畜にしている。

 どこでもやることは一緒だなあとノルンは感心していた。

 養鶏コカトリス場には200匹ものコカトリスが詰め込まれていた。

 今日は祭りの為、何匹か締めたそうだ。


「ああ、すごいね。この集落逞しすぎでしょ。もう絶対に日本最強だよね。私普通にコカトリス怖いんだけど」


 関東冒険者ギルドの玲はそう語る。


「ビールに唐揚げ最高なんだけど~!ノルンちゃん飲んでる~?なんかお話しなきゃって思ってたんだけど。なんだっけ~?まあいっかー」


 綾乃は出来上がっていた。


「昇、いや、ノルン。貴女の作ってくれたビールでみんな良い顔してるわ。ありがとう」


 野月昇の母親、野月縁のづきゆかりである


「お母さん、別にいいよ。お土産くらいないとね」

「ふふ、ありがとう」

「なんで俺が……私が昇だってわかったの?」

「え、もう喋り方とか表情とかがね。それにお父さんも門前で娘だ!って叫んでたでしょ、ふふ」

 

 母という生き物の大半は謎の異能をもっているのかもしれない。

 ノルンは今までの人生でふとそんなことに気づいた。


「えー、お父さんとは剣で語らないとわかってくれなかったよ」

「まあ、あの人は仕方ないわね」

「まあでも、私は多分……この世界とは違う世界の昇なんだ。多分、この世界の昇はいる。生きていると思う……だから……」


 自分は世界の異物イレギュラーかもしれない。ノルンはそう考えていた。

 元々の昇がいるのであれば自分が昇としているわけにはいかない。

 優しい家族の顔をみる度に胸が締め付けられる気がした。


「異世界転生?さっきお父さん達に話してたそういうの私にはよくわからないけど、貴女も昇なんでしょ?だったら私の子供よ。」

「……お母さん、ありがとう」

「まあ娘欲しかったしね~、ふふ今は羽を伸ばしなさい」

「うん、ありがとう」

 

 自分はこの人の口調を真似していたのかもな、なんて考えて嬉しくなっていた。


「あれ?お従姉ちゃん?なんか忘れてない?」

「ん?なにが?」

「なんだっけ?」


 玲はなにかひっかかっていることがある様だ。


「ノルンさま~、玲さん達の拠点に行くっていってましたよね?」

「……あ!くーちゃん!!!いっけなーい!」


 ノルンは実家の安心感によってクーフィーやアンナ達との合流のことをすっぽかしてしまっていた。


 祭りが始まって時間は結構経っている。


 現在の時刻は5月10日22:47――


 広場のすみに唐揚げの皿をもって移動したノルンはクーフィーに通信を入れていた。少し唐揚げをつまみながらクーフィーとおしゃべりしようと考えていたのだ。

 地球だし、実家だしちょっと電話みたいに生の音声を飛ばすタイプの術式で地球っぽさを満喫しようとアナログに近い通信方法で連絡を入れていた。


 それが良くなかったのかもしれない


『もしもしークーちゃん?ごめんね。実家を見つけたから寄っててね。みんな生きてたの。だから少し連絡するの遅くなっちゃったんだけど』

『……………………なんか後ろが騒がしい…………』

『あ、今日なんかお祭りみたいでね……クーちゃん…………』

「ノルンちゃん!どうしたのこんなとこで、唐揚げ余ってるよ~!もーらい!もぐもぐ、ぐびぐびぐびー」

『……………………』

『あ、今の綾乃さんよ、唐揚げが沢山あるのよ~ははは…………』

『………………………ずるい』

『クー………ちゃん………?』

『……………………おねえちゃん嫌い、ブツっ!!』

「ハウッ……!!」


 日付が変わるころ、広場のすみでこの世の終わりみたいな顔をして気を失った少女が発見された。その後、無事、母親と従妹によって寝床に運ばれた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ここまで読んでくださりありがとうございます!


ノルンとクーフィーの活躍をもっと見たいぞ!


ノルンかわいい!クーフィーかわいい!

ノアかわいい!母 縁かわいい!

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