【ノルン - 11】少女は上手くしてやられていた

※2 少女は夜逃げする から続くノルンの昔話です。【ノルン - 13】まであります。


「ノルン先輩、次は猫耳獣人の里っすよ。オリヴィアちゃん車いいっすか?」

「大丈夫ですよ」

 また車かと酔いを抑えるポーションを飲む。もしも現代に車酔いが酷い人がいればノーベル賞貰えるだろうレベルのポーションである。


 別に普通であれば、ノルン自身は車酔いどころか馬車にも酔わない。普通であれば。


「シートベルト締めましたか〜?」

 オリヴィアが確認してくる。

 目が煌めいている。まるで月を映しているかの様だ。


「行きますよ〜」

「ひぃっ……!!」


 ブオーン!!

 最初からアクセルをベタ踏みで踏抜くオリヴィア。

 もしも時代が時代であれば免許を取り上げた方がいいだろう。


 慣性の法則?なにそれ知らんがな?レベルでシートに引き寄せられたノルン。上左右下左上に遠心力と重力を感じていた。


「オリヴィアちゃん運転うめ〜っす!なんでぶつからないっすか?さっきからブレーキ踏んでる様に見えないっす!しかも木とかあってもお構いなしっすね!!藪とか!道案内しなくても方角伝えたら直線的に向かってるっすね!嫌いじゃないっす!そういうの」


 ※作者より:絶対真似しないでください。

  これはファンタジーです


 別に舗装はされてはいないとは言え、道を車で進めば普通にいけるのだ。

 でもクソサイコドライバーことオリヴィアちゃん(12)は直線的に向かう。

 それだけで半日は時間が短縮出来るからだ。時間感覚は不老不死のノルンや寿命の長いセレスティーナとは違う。

 有限なのだ。

 

 最初は注意したノルンだったが――


――道?道は切り開くものですよ。


――ノルン様の教え通りですよ?


 なんて言われた日にはノルンは黙ってしまった。


「オリヴィアちゃん!あ!あれってゴブリンってやつじゃないっすか?初めてみたっす」

「ふふふ」

 道なき道からようやく拓けた平地に出たところでそいつらは群れでいた。

 アクセルの加減でスピードを緩めていたオリヴィアだったがここでまたアクセルを踏み抜く。

 ドン!ぐぇ!ドン!ギィ!?

 ドンドドンゴリゴリ!ドドンドン!


「あ〜はっはっはっは!魔モノ轢くのも跳ね飛ばすのもたーのしい〜!!あ〜はっはっはっはっは!」

「お、なんか新たなレベリング方法っすね。楽しそっす!」

 なんてことを繰り返し3時間程度で猫耳獣人の里に到着した。


 ※作者より:絶対真似しないでください。

  これはファンタジーです


 おえっと嗚咽を鳴らしノルンはポーションを飲む。一応全快はしたが気分は落ち着かない。でもこれで、オリヴィアの時間は大事に出来だろう。そんなことを考え一息ついていた。

「オリヴィア、帰りは私が運転するから」

「あ、そんな……いえ、よろしくお願いします」

 オリヴィア(12)は運転するノルンのレア動画を撮ろうと考えていた。


 そんなこんなで彼女達は猫耳獣人の里に着いた。


「帰ったっす〜!」

 守衛に挨拶するセレスティーナ

 セレスティーナは猫耳があるし、なんとなく猫耳獣人の里を故郷にしていた。

 ハイエルフの里は親戚みたいなものらしい。


「セレナさん!?おかえりなさい!」

「セレナさん!」

「あの人がセレナさん……」


 ぞろぞろと猫耳獣人が里の入口前に溢れてくる。


「あら人望あるのね」

「一応、私が最年長者なんで何故か長ってことになってるっす。いい加減やめて欲しいっすけどねそんな決まり。なんで一応、長代理はいるんで実質、そいつが長っす。村長そんちょうって役職与えてるっす。私は里長さとおさっす」

「へ〜」


 そんな話をしながら村長宅に向かい村長に挨拶をした。

 しばらくしたら里に帰ることを伝えたセレスティーナ。それを聞いた村長はお爺さんだが少年の様な顔で喜んでいた。

 

「一応、幼なじみっす。あいつ奥さんも亡くなってそろそろっすから最後くらいは看取ってやろうかなっても思ってるっす。あいつ、私のこと……なんか好きっすからね」

 あは、と笑うセレスティーナにヒロイン力あるなとノルンは感心していた。


 今日はもう遅いし獣人の里にコテージをだし泊まることにした。

 セレスティーナは帰省ということもあり、猫耳獣人達で集まっているようだ。


 ノルンもオリヴィアも飯つくるか〜とエプロンを準備していたが――


「なにしてるっすか?飯用意したから大丈夫っすよ。ここの料理も野菜も結構いけるっすよ。先輩に教わった料理とか技術はここで門外不出でちょくちょく継承してるっすから。」

「あ、そういえばそんなこと言ってたかもしれないわね」


 里で料理や錬金術を教えていいか?と大昔にセレスティーナに聞かれたことを薄っすらと思い出していた。


 今日は豚汁とか角煮とかとんかつとか、とにかく最近人気のオーク尽くしらしい。


「あら、本当においしいわね。」


 野生の魔獣ではなくオークという魔モノ自体を初めて食べたノルン。テンプレ通りに高級肉に匹敵する旨さはあるだろうと感じていた。


「素材もそうだけど料理もおいしいわね。角煮ほろほろ〜。」


「調理はもちろん、先輩に教わった錬金分解発酵おいしくな〜れもえもえニャンもしっかり教えたっすからね。軒下に吊るすより美味くなるっす」


 セレスティーナは両手でハートを作り空間にホログラム映像を流す。


『――錬金術式、分解発酵――おいしくな〜あれ、も〜えも〜えニャ〜ン♡――こほん、これで良いかしら?ってこれって教材に必要?このセリフも衣装も必要?』


『先輩、Take12でめっちゃいい絵とれたっす!術式紋がハートを描いた後にウインクと共に肉が発酵されてくのたまんねえっす。絶対に猫耳獣人の里で錬金術流行らせるっす』


『ま、まあ、それならいいわよ。』――映像はここで途切れる。


 斜め左からのアングルでノルンが片足を上げ、両手ハートを作りながらぐーるぐるの、肩幅以上に両足を開き、腰から上半身を水平に折り曲げ、両手のハートは肉を狙う。

 ニャン♡の決めとウインクと共にハートの術式紋エフェクトが飛び、肉に光柱が立つ。

 タンパク質を、ほどよくアミノ酸、旨味に自動調整してくれる画期的な術式だ。


 謎の振り付けとポーズとセリフの指導、術式エフェクト開発はセレスティーナだ。


 衣装は普段のノルンの錬金術ローブスタイルをアレンジしたミニスカートフリルに白のニーハイガーターフリル付である。全体的にフリフリだ。


 ノルンはぶっちゃけ上手くしてやられたなあと乾いた笑いを出していた。

 瘴気を対消滅する為に!とか言われて教材作りした記憶はあったが、いま思えばこんなの必要なくね?と思うノルンだった。


「う、うお〜〜この映像はどこで……セレナさん、コピーは出来ないんですか?」


 鼻血を流すオリヴィア(12)

 

「オリヴィアちゃん、残念ながら里から門外不出で先輩と契約してるっす。オリヴィアちゃんなら特別に里の錬金術教室にくれば見せるっすよ。あ、オリヴィアちゃんはある程度知ってるっすよね〜」


 したたかなセレスティーナはわざとらしく商会ヴァルキュリアから色々と抜けるとこは抜いとこうと企む。


「ノルン様からのノウハウはたくさんあっても錬金術自体は寿命の短い私達はぶっちゃけあまり知りません!習いたいです!商会関係なく自分の習い事として!月謝は幾らですか?」


「お?月謝はいいんで野菜の苗とか種がほしいっす。あとはインゴットとか素材っす。出来れば小麦粉とか生活用品も、た〜っくさん欲しいっすね」


「わかりました!私こうみえて貯め込んでるんで私財で用意します!入会します!」


 ノルンはセレスティーナには寿命が長いのと、目的が目的で教えはしたが他の者には基本的に教える気がなかった。オリヴィアは永続転生という性質上、商会に広めないなら個人的には教えても良いとは思った。でも本人からの希望もないしと特にそんな機会はなかった為にオリヴィアに教える、という発想すらなかった。


「オリヴィアもわからないところがあれば私にも聞くのよ。」


「……ノルン様、なんか今回の私に優しいですよね」

「背が伸びて先輩を抜くまでっすよ」


「はあ……それにしてもオーク肉のとんかつも豚汁もおいしいわね〜。もっちゃもっちゃもっちゃ」


「自分らもオークも狩りに行くっすかね〜。うまいっすね」


「明日の遺跡の後にね」


 と晩餐を楽しみ、明日に備えたのだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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