16 錬金術師は満面の笑みを返す


 ――身体強化術式 Ⅰ【戦場乙女は痛みを恐れないリミッテッドブレインパージ――ヴァルキュリアフォース】


 ノルンは身体強化火事場の馬鹿力によってノアの背に乗る綾乃と玲を降ろした。


「痛い」


 自身が爆散するほどの力を発揮しそれを上回る回復力で何事も無かったように見える身体強化を自身にかけた。少し痛い。


 ノルンは簡易コテージに2人を寝かせた後に身体強化火事場の馬鹿力を解除する。

「ふう〜、これで一息つけるわね」

『ノルンさま〜、ごめんなさい』

「ふふ、いいわよ〜。でも2人には後で謝りなさい」

『はい、わかりました』

「それにしても本当に私の髪の毛みたいな色になったわね〜」

『はい、どうやら私は種としてはスカーレットバハムートらしいです。』

「か、かっこいい……鑑定してもいいかしら?」

『はい』


 ――術式【鑑定ステータスシステムハック


種族:スカーレットバハムート

種別:魔獣

名前:ノア

性別:女

レベル:156

HP:800000/800000

MP:2000000/2000000

攻撃:800000

防御:55000

魔攻:700000

魔防:700000

俊敏:10000

魔素抵抗:246

理力:56

称号:緋神の龍王、ノルンの眷属


 !一定以上の理力を確認!

 エクストラスキル:人化の法Lv1を獲得



「わあ、すごいわね〜魔素抵抗値が低いのは良いわね〜!それに龍王よ!」

『えへへ、元々は水辺で暮してたイモリですよ。バハムートってのになってました。なんにもしてないので良いのかなあって感じです。それにノルンさまの眷属になれて嬉しいです』


 おとなしいノアは元来の性質でもあるがアカハライモリ故のものである。テンションが上がれば大暴れ、天をつらぬきアクロバット飛行だってする。実は毒持ちだったりするがノルンは詳しく調べていないので知らない。


「私も嬉しいわ……ノア、両生類だったのね。それにあなた人になれるわよ。」


 ノアがエクストラスキル:人化の法を獲得していることに気付いた。

 これはスキルだ。これと同じものをノルンはみたことがあった。ただしレベル表記はなかった筈なので惑星ノエルとは別仕様なのかもしれない。

 ちなみに本来はノア本人にしか獲得アナウンスはみえないが、ノルンが使ってる鑑定はステータスシステムをハッキングして覗いているだけなのである。よって本人にしかみえないアナウンスも見えていた。


『人にですか?そしたら人間にも慣れるの早くなりますかね?』

「ふふ、そうね」

『やってみます!』

「おもいきりがいいわね~。貴女のなりたい姿を思い浮かべなさい」


 ――人化の法


 ノアの身体を色んな色合いの紋様の光が囲み、光は小さく収束していく。

 光は雲散し人に変身したノアが姿を現わす。


 背丈はノルンより頭1つ分小さいくらい。髪の色合いはノルンやクーフィーに似通ってはいて鮮やかな緋色だ。肩から腰までとノルンを真似した様だ。顔もどことなくノルンやクーフィーに似てる気もするが綾乃や玲にも似てる。ノアと関わりのある人間が少ない為にモデルを最大限活用して良いとこどりしたズリ〜存在だ。

 ただ人間と違うところがあるとすればその頭部にシュッと生えた2本の紅い角である。

 これが地球仕様の人化の法なのだろう。


「あ、あ、あ〜、ノルンさま〜寒いです」

 

 ノアは裸だった。


「あらあら可愛くなっちゃって。服を出すわね」

「服ですかありがとうございます。でもどうやって、きるんですか?」

「あ〜じゃあ教えてあげるから、さあコテージに入りましょうね。」

「はい!」


 とコテージに入りノアに服を着せていると一人の女の子が目を覚ます。


「ん、あれ……お、お従姉ねえちゃん……お従姉ねえちゃんが知らない子供にパンツ履かせてる〜!!」


 ノルンの前世が男であることを知っている玲は悪ふざけをした。


「玲、違う、これは違う」


 ノルンもノルンで謎の焦りが生まれアタフタする。


「ふふ、お従姉ねえちゃん今ノル従兄ちゃんみたいだったよ」

「からかうんじゃないわよまったく!」

 

 とノアに服を着させるノルン。


「ごめんごめん、え〜と、その子は?角生えてるけど……なんかお従姉ねえちゃんっぽい雰囲気もあるけど、あれ?私か?私に似てるのか?ん〜?綾乃さん?綾音?あれ?なんだろう?なんか色々とズルいな……」


 玲はノアをみつめてそんな感想と考察をオタク特有の早口でぶつくさと言っていた。


「さっきはごめん、玲さん、わたし、ドラゴンです」

「はい、ここに手を通して〜……はいこれで着換えはオッケー!ノア、自己紹介は名前を名乗るのよ」

「はいノルンさま〜、玲さんわたしはスカーレットバハムートのノアです。改めて宜しくお願いします!」

「はい、よくできました」

「えへへへ」


 ノルンに撫でられ嬉しそうなノア。それをみた玲はその可愛さに鼻血を流しそうになるが堪えた。それよりも思ったことがあった。


「綾乃さんが起きたら大変そうだね」


 その時、反対のベッドからカバっと音をたて綾乃は上体を起こした。目が覚めたようだ。


「綾乃さん、おは――」

「美少女ちゃん!!紛れもない美少女ちゃん!角の生えた美少女ちゃん!ノルンちゃんに玲ちゃん!それに私にも似てる!?これは私の娘では?!?娘何人いるの!?」


 あまりの気迫にノアはビクッとするがよくできたノアは綾乃への挨拶も忘れない。


「綾乃さん、その……さっきは急に旋回したり危なく飛んでごめんなさい。わたしはドラゴンの……スカーレットバハムートのノアです。」


「うは〜!!かわいいがすぎる!しかも私にも似てるってのがいいよね!!私のことはママって呼んでいいのよ」

「……ママ?」


 綾乃は鼻血を流し布団に横たわる。


「はは、綾乃さんらしいな」

「ふふ、そうね」



 笑いあってしばしの休憩。

 ツルマメで作った豆乳とコカトリスの卵で作ったプリンを食べていた。


「お従姉ねえちゃん、これすんごい濃厚でうまいね。でも砂糖とかどこから出したの?」

「意外と糖って色んなものから抽出できるのよ。これは山ぶどうとそのへんの草から抽出したのよ」

「へえ〜錬金術ってすごいね」

「ふふん、そうでしょう」


 ドヤ顔のノルンにクーフィー達と合流しよう、そう玲が促すがノルンの様子がおかしい。


「あのね、今いる場所さ……私の故郷、神奏瀬しそせなのよね。風浦町の」


「え……まじ?綾乃さん……どうする」


「ここがノルくんの故郷の……え?ノルンちゃんの故郷ってどういうこと?ノルンちゃんヨーロッパから来たんじゃないの?ノル……ノルン……名前でなんとなくまさかとは思ってたけど……」


 ほんの少しの情報でそこまで辿りつくとは、綾乃さんはやっぱり凄いな、ノルンはそう思い今、正体を明かそうと考えた。


「綾乃さん、実は――」

「ねえねえノルンちゃんノルくんにそそのかされた1人なんでしょう?」

「な!?ち、違うわよ!!」


 そそされたって何?自分は前世時代に何をどうそそのかしたのか?それが気になって狼狽えた。


「あら、焦っちゃって〜!!ノルンちゃんかわいい!名前も似てるしシンパシー感じて押し入り嫁で故郷に来ちゃった感じ?自分の第二の故郷ってこと〜?」

「だから違うって綾乃さん、私は――」


 その時、狼狽えるノルンの口元に人差し指をあて綾乃はノルンの口を塞ぐ。


「今日の夜、ビール飲ませてくれるんでしょ?」

「そうだったね、綾乃さん」


 今宵はビール祭りだ。


「お従姉ちゃんおもしろかったよ」

「うるさいわね〜」

「それにね、調査クランなんていってるけど私達の目的はだったりだけど、ここなの。だからね、出来れば拠点よりこっちにいたい。」

「実はそうなんだよお従姉ちゃん。」

「そっか、でもなんで……」

「それはビールと綾音がそろってかな〜」

「それよりお従姉ちゃんプリン頂戴」

「私はプリン体たっぷりのビールがいいなあ、あははは!」


 そんな他愛もない話に逸して場は和んでいた――



 ――その時、コテージ周辺の結界が破壊され警報が鳴る。音は子供用の防犯ブザーだ。


「ちょっとなにごと〜!?」

 簡易的な結界とはいえ、ノルン製の魔道具結界である。加えて玲の認識阻害スキルで認識出来ないはずである。

 破壊されたのは百メートル四方にある第一結界な為に、まだコテージまでは距離はあるしコテージ自体を認識出来ていないはずである。

 ノルンは少し焦る。


(これまでの敵とは違うってことかしら)


 自分が本気を出さなければと決意する。


「この気配……人間ね」

「うん、そうだね……お従姉ねえちゃんごめん。私に刀を貸してくれない?ツキヨミノムラクモとか……」


「いいわよ、これで良いかしら」

 すっと異空間収納から1対の二振りを取り出す。


「召喚とかじゃなく普通に出してきたね」


 ノルン合金Ⅷ製の日本刀【月照緋緋彩鳥ツキテラスヒヒイロドリ

 金色のような銀色のような、透き通った鏡の様な刀身に薄っすらと緋色の刃紋が光る。

 靭やかだが軽く、刃こぼれはまずしない。

 ノルン的には大昔に作ったそこそこ出来のよい太刀と脇差しのセットだ。


「え、こんなチート装備じゃなくていいんだけど……」


「別に軽くて丈夫なだけで変な機能ないわよ、そこそこ上手く作れたってだけでとっておきでもないし使わないからあげるわよ」


「あ、そう……ありがと……ほえ〜綺麗な刀身、めっちゃ斬れそう」


 玲は月照緋緋彩鳥ツキテラスヒヒイロドリが気にいったようだ。


「ノルンちゃん、私にはチート装備くれないの?」

「綾乃さんいつも手ぶらよね?武器とかいるの?」

「後衛というか私は後ろまで敵が来たら焦って魔法使えなくなるんだよね、なんか防御力高いのください!」


 玲だけズルい!綾乃はねだる。

 この2人は元々からノルンにタカる気まんまんである。


「仕方ないわね〜、じゃあこのインナーはまず刃を通さないから着てもらって、その上にこのローブと、そうねオートで怪我とかも回復するブレスレットかしら」


「これはノルンちゃんが来てるローブに似てる〜、嬉しいなあ」


「あ、それずるい私も欲しい」


 玲が自分もと言うのでもう1セットだす。

 そうすると綾乃にも何か武器を出さないといけなくなる。


 別にそこまでする必要もないのだがノルンは変なところでバランスを気にする女だった。

「じゃあ綾乃さんはこの短刀を持っててね。魔法の触媒や困った時に役立つ筈だよ。」


 薄っすらと青く引き込まれそうだが刀身にやはり緋色の刃紋が広がる。これは魔素抵抗値が低く、魔力伝導率も高く、魔力をこめるだけで魔法ビームを出せるくらいに使い勝手の良い短刀だ。ノルンは魔法ビームのことはわざわざ説明しない。


「ドスだね?カチコミするの?腹に入れとけばいい?」

「普通にベルトあげるからそこに下げていなさい」


 ちなみにこの中で1番良い装備をしてるのはノアである。ノルンは過保護だった。


「さて、外に出て敵さんのお顔を拝見しようかしら」


 現地住民が野盗と化したのだろうか?

 4人は地球観点で極チートレベルの装備を身に纏い、外に出た。


 人の気配がする。


 やはり手練のようだ。

 調、ノルンすら欺いた玲の認識阻害が通じていないようだ。まっすぐにこちらへ向かってくるが第二結界に阻まれたようだ。


「お従姉ちゃん……面白い話をしてあげる私の認識阻害スキルって剣聖ってジョブのスキルでね……同じ剣聖かそれ以上の格上には通じないの……ちなみにね関東の月詠家の道場では免許皆伝組は全員剣聖だったよ。レアジョブのバーゲンセールだったよ、うちの道場」


 玲は冷や汗を垂らしながら腰の刀に手をあて、語る。話し方はまるで怪談話をしてるかの様だ。


「野月家も支流分家とはいえ、こっちでひっそり道場やってたじゃん……ウチの免許皆伝組が合宿でよく来てたけど全員勝てない化け物がいたじゃん?あの人、元気かな〜、なにやってんのかな〜?うう……こわ!」


 玲の語る化け物その人本家組関東の月詠が勝てない本物の修羅だった。

 ナタひとつでキノコを採りにいって熊に出くわしても無傷で撃退。

 許可が降りれば人里に慣れてしまった熊を刀だけで駆除したり。

 ファンタジーになる前からファンタジーでも通用しそうな存在だった。


 その名は野月照人のづきてるひと、ノルンの前世の父親で分家当主だった人物。

 月詠家が誰も勝てない。


 さらには怪物はもう1人いた。


「更に照人叔父さんより強いって地球人類最強よね」


 それでいてこんな魔境で生き抜いたのだ。

 弱いわけがない。


 近づいてくるのはどっちだろう?

 照人か?それとも


「え、身内なんだから堂々としてればいいんじゃないかしら?」


 ノルンは普通にそう思った。

 結界壊したりとか理由はわからないが、確かにそう玲の話をきけば、そんなことが出来そうなのは野月家の誰かだろう……


「なんで迎え討とうとしているのかしら?玲……」

「そうだよ玲ちゃん」

「綾乃さんがわからないのは仕方ないけど、お従姉ちゃんにもわからないか〜、残念だよ。これは月詠家本家のプライドもあるんだよ」

「そっか……」


「ノルンちゃんはわからなくて当然なんじゃないの?玲ちゃん」


 でも身内ならば余計ノルンは争いたくなかった。ましてや前世の肉親だ。普通に再会したい。


 近づいてくる気配は1つ……

 いや、2つに増えたようだ。


「ひいぃぃぃいいい!!2人もいる〜!!!お従姉ちゃん助けて〜〜〜!!無理無理無理」

「玲、落ち着きなさい!」


 ノルンは壊される前に結界を解いた。

 やはり玲の認識阻害は効いてなかったようだ。


「あれ?かける〜、あれ本家の玲なんじゃねーべが?(じゃないか?)」


 案の定、声の主は野月照人のづきてるひとその人だった。ジョブは剣鬼。

 

 もう一人は野月翔のづきかける、ノルンの前世の兄だった人物だ。

 ジョブは剣神。


「お〜い、玲と友達の皆様がた〜、そこ稲の苗床なんだ!その小屋どかしてけれじゃ〜!(どかしてくれ〜!)温室結界も壊してまって!まあ、壊してまったなら仕方ねえな(壊してしまったなら仕方ないな)」


 かけるが緩いながらも厳しい雰囲気の声で注意する。


 ノルン達が降りたグラウンド、謎に雑草があまりなく拓けた芝生の様な地は稲の苗床だった。


「おとさん(お父さん)、かげる〜(かける)!ごめん!わあ、これ全部稲か〜……、あ〜ほんとごめん」


 ノルンは両手をあわせ、誤魔化し笑いで方言と聴き取りにくいイントネーションで謝罪する。


 それを聞いた綾乃は驚愕した。

「ノルンちゃんってヨーロッパ人だけど東北育ち〜??」


「かける、誰なんだば?この娘?外国人?」

「またノルの関係者でね〜か?玲!早くその小屋どかしてくれ〜!」


 野月家2人の反応はもっともである。

 文字で読むとキツそうな字面だが肉声を聴くと緩い感じである。


「叔父さん、かけ従兄ちゃんごめん……!お従姉ねえちゃんよろしく。」


 ノルンは笑顔でコテージを片付けてグラウンドの横へ移動する。

 術式で踏んで潰れた稲も治しておいた。


「おとさん、かける〜、ただぃま!帰ってきたよ〜(お父さん、かける、ただいま!帰ってきたよ〜)」


 少しデレっとしながら照人は返事する。


「し、したはんで、誰なんだばっておめ(だ、だから、誰なんだよお前)」


 ノルンは満面の笑みを返した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ここまで読んでくださりありがとうございます!


ノルンとクーフィーの活躍をもっと見たいぞ!


ノルンかわいい!クーフィーかわいい!

ノアかわいい!

みんなの冒険を応援したい


という方は

★評価とフォロー、♡ください!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る