【ノルン - 7】少女は無双する

※2 少女は夜逃げする から続くノルンの昔話です。【ノルン - 13】まであります。


「月詠流兵刀術免許皆伝、ノルン・フォン・リリシュタイン。参る」


 殺気を放つ集団も武器を構え、困惑していたが明らかに尋常ではない力を感じて攻撃を加えようと近寄る。ノルンは威圧する。


 前衛の戦士タイプの盾職男性とアタッカーであろう身軽そうな剣士男性はジリジリと距離を詰めていく。

 ノルンも鯉口を切り柄に手をかけ、重心を落とし、待ち構えた形で相手を見据える。

 剣士男性がノルンからみて右サイドへ移動し死角ギリギリまで回る。

 

 月詠流兵刀術は1 対 1も1 対 多にも対応した古武術だ。ノルンは敵の連携にも対処できる。

 前世で指導員のアルバイトもする程度にはなったノルンだが上には上がいた。自分には才能はそこまでなかった。そんなノルンでも今世で不老不死長生きであることを活用し剣技を磨いた。


 相手を殺すつもりもないが、自分が初めて白兵戦で目立てる場面だ。申し訳ないがこの月詠ノ叢雲・乙ツキヨミノムラクモレプリカ(竹製)の錆びとなれ。ノルンはそんなことを考えニヤニヤしながらも威圧する。

 相手には不敵な笑みに見え、それが先手を打つ足を止めていた。

 

 ――明鏡止水

 ノルンはここで目を閉じた。


 大気の流れ、魔素の流れ、人の呼吸、心臓の音、筋肉の動く音、全てに耳を澄まし、肌で感じた。それは視覚よりも研ぎ澄まされ全ての敵の動きが見える。

 

 目を閉じた状態でも前衛二人どころか全員の動きが見えている!

 オリヴィアがカメラを撮っているのだろうか?動きが気持ち悪い!ノルンは集中力が下がる。

 

 ――め、明鏡止水!!


「ノルンちゃん、只者じゃないっすね。あのアダムさんが動けないでいるっす。ノルンちゃん師範クラス……いやもうそれ以上っすよね……前世知り合いっすか?女の子であの領域にいく子なんてあんまりいなかったし……ノルン?ノル……ン?いやいやいや。まあ……アダムさん!斬られたら自分が治すっす!がんばれっす!」


 ノルンは集中をしている。誰がなにを言ってるか耳に入ってこないがセレスティーナが煩い。その雑音ももはや全体の一部となり明鏡止水中のノルンには問題ではない


 目を閉じた今が好機!剣士の男アダムが駆け出し剣を振りかざす。恐らく並の剣士ではないのだろう。剣速は軌道が読み取りずらく、速い!

 ノルンは間に合わない!と誰もが思った。

 オリヴィアが間に入ろうと動こうとしたが間に合わない……やはり自分達が対応すればよかった、そのままノルンに行かせた自分を恨んだ。


 だがノルンはゆっくりと動きひらりとかわす。


「「「「!!!???」」」」


 オリヴィア達も含め見ていたものは脳がバグった感覚を覚える。ノルンは瞬時に剣の軌道から最適解を導き出し、最小限の動きでスレスレに躱し、神速で十分な距離へ移動したに過ぎない。でもそれを出来る者はいない。周りにはひらりと華麗に躱したように見える。脳をバグらせ相手の動きを鈍らせる効果もある。月詠流に実在する簡単な兵法の型をノルンなりに昇華させたに過ぎない。


(無双ムーブきもちーーーーーー!!!!!)


 目を閉じながらも全員の驚くが見える。

 ノルンはニヤニヤしているのだが、全員には不敵な笑みに見え、相手は畏怖する。


 初撃を躱された剣士もなんとかバグった脳を回復させ二撃目に横払いに剣を振る。躱した先にタンクのシールドバッシュが待っているとノルンは予測した。


(その連携も見えてるよ)


 無双ムーブの快感で雑念が混じったノルンは大気の流れのみ見落としてしまっていた。明鏡止水の境地が半端なものとなり地面から飛び出した何かの根に気づいていない。


 剣士の攻撃を難なく躱そうとしたその時、お約束通り!ノルンは何かの根に足を引っかけた!

 

 本来であれば踊る様に身体を回転させ剣の軌道とは逆に回り込み、回転したままわき腹の急所であるツボに刀を打ち込み無力化するはずだった。そのままタンクのシールドバッシュに対応し順番に流れ作業で全員を無力化する流れだった。


 ノルンは足を引っかけたことで後ろに重力に引かれるように倒れそうになる。


(わわわわわ!!!)


 元々雑念混じりな上に半端な明鏡止水だ。故に慌てた素振りにも見えないまま重力に吸われた。ノルンは45度の角度まで倒れそうになる。ここで地面を蹴り、神速で誤魔化した。蹴った地面はえぐれ、乾いていた為か土埃が舞う。


「ぬう!」

「な!?ぐあ!!!」


 盾職と剣士の男の声が同時に聴こえた。

 

 土埃が消えると剣士の男がシールドバッシュを受けたのか吹っ飛ばされていた。

 盾職は驚愕の顔をしている。


「今のは縮地っすか……?」


 実際違うのだが誤魔化した結果、重力に任せた移動法となり縮地になってしまっていたので間違ってはいなかった。


 誤魔化せ誤魔化せ!

 せっかくの目立てる場所で恥をかきたくない。わかる人ならわかってしまう、バレてしまう、そう思い込んでるノルンは誤魔化すことしか考えなかった。いま発揮できる身体能力全開で駆け出した。

 

 ノルンは神速ともいえる速さで盾職に近づき刀で神速の首トンをあて無力化する。

 最初の華麗に舞う様な動きとは異なり荒々しく猛々しい動きだ。地面がえぐれる音が少しだけ遅れて聴こえ土埃が舞う。


(いたたたたた!)


 そもそもノルンの身体強化は火事場の馬鹿力で爆発的な筋肉の膨張によるもの。ドーパミンやアドレナリンを大量分泌する術式が身体強化の正体だ。身体強化も重ねがけ、更に駆け出す方向、刀を振るう方向、制止する方向と真逆へ魔素操作しフラッピングエーテルを力学的魔力変換したエネルギーで物理法則を操り爆発的な神速を可能にしていた。これも魔素操作が基本の錬金術由来の分解と結合の力だ。


 文字通り、常人がやれば自身が爆散し塵となるほどの力だ。それを彼女の不老不死故の爆発的な回復力で治っている。だから変わっている様には見えない。

 痛みについては明鏡止水に一つの術式を織り交ぜ、βエンドルフィンを分泌しつつ予備的に痛覚を麻痺させていたが――


 明鏡止水が途切れるとそれもなくなる


 ノルンはものすごく痛かった。

 いまから明鏡止水するにも戦場故にタイミングがない。このまま痛みに耐えるしかない!次は痛覚オフを瞬時に行える術式をつくっておこう!

 彼女はそう考えながら痛みに耐えていた。

 ちょうど3人目の攻撃をかわし相手が上体を崩し後ろ斜めから首トンをしようとした時だった。真剣であれば首を落とす型、華葬還一閃である。


「ノルンちゃん!もうやめてくださいっす!」

「…………ほえ?」

 首のいっぽ手前で刀を止める。


 ノルンは少しだけホッとした。動きを止めれば超回復故に痛みも止まる。


「その人達、自分の、その……身内っす」




---



「がっはっは!申し訳なかった、うちの聖女様が誰かに囲まれていたからつい殺気を向けてしまって、更に剣を取り出していたから勘違いしてしまった」


 盾職のごついおじさんがノルン達に丁寧に説明してくれた。

 がっはっはとリアルで笑う人がいるんだとノルンは感心しながらも双方の勘違いということで、折角の無双も微妙な結果に終わってしまったな。と思っている。でも面倒くさいことにならずに済みそうでよかったとおもっていた。

 ちなみに剣士のアダムをセレスティーナが回復魔法で治療している。盾おじさんのシールドバッシュが相当きいて重傷の様だ。


「しかし……お若いのにその境地まで至るのは尊敬に値する、いえ、します。我ら神殿騎士にもその剣技を学ばせていただけないでしょうか?」


 お若いのに、の辺りでニヤっとして良い気分だ少しなら教えてあげても、とノルンは思った。でもまてよ?そう考えるのは少し年寄り臭いのでは?と考えを改めた。それによく知りもしない人に剣を教えるのはめんどくさいとノルンは思った。なにより少し暑苦しい感じがした。

 ノルンは引きこもりを極めた女。若者扱いされたから教えるのは年寄り臭いかもしれない、という理由で教えることを躊躇するくらいには捻くれていた。


 どうしたものかと彼女が考えていると。


「マネージャー通してください。それにアナタたち入国手続きとってないですよね?密入国ですよ?剣を教えてくれって何様なんですか?対等になったつもりですか?そもそも武器を抜いて殺気を放ってたのはそっちですよ?」


 ぷんすかぷんすかと怒るオリヴィア。彼女の謎解析によるものだが、どうやら入国管理を照会していたらしい。

 ノルンは密入国などどうでもよかったがその術式がどんなのか気になった。

 ノルンは錬金術もとい術式バカだった。


「そ、そそそそそそ、それは」


 盾おじさんがどもりはじめた。どうやら人が良さそうだが良すぎて反論も出来ないようだ。


「オリヴィアさん、本当にごめんっす。これにはのっぴきならないわけがあるんですよ」


「セレスティーナさん?女神教皇国所属の聖女スキルを持った方ですよね。教皇と同等の権限を持つアナタがいうと国際問題になりますよ。」


「そうなんですが……」


「セレスティーナ、貴女はなんでこの人達に追われていたのかしら?」


 ノルンはどうせ聖女の仕事がいやで脱走とかそんな感じだろうと思っていた。

 物語ではよく読む話だ。


「え?追われてた?リガルドさん達に?あ、盾おじさんがリガルドさんっす」

「ん?違うの?」

「はいっす。私は猫耳獣人でもあり素早さがウリっすから索敵で先行してたっす。自分達が追われていたのは――」


 その時、空気が生暖かくなるのを感じた。

 ノルン達は警戒を強め、構える。

 ついでにノルンは月詠ノ叢雲・滅ツキヨミノムラクモレプリカ(ノルン合金Ⅱ製)を召喚した。


 直後、魔素フラッピングエーテルの渦が赤黒く空中に集約していく。禍々しい稲妻を放ち何かを形成する。


 やがて形成された影が現れ徐々に色味を帯びて実体化する。


 頭部と胴は獅子、脚は龍の様、尻尾は蛇で悪魔の様な羽を生やし大きさは全長10メートル程。


 現れたソレを形容するならば


 ――キマイラだ


〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ここまで読んでくださりありがとうございます!


ノルンを応援したい!

ノルンがんばれ!強くいきて!

ノルンかわいい!

オリヴィアもっと出せ!

セレスティーナがんばれ!


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