【ノルン - 5】 少女はピクニックをする
※2 少女は夜逃げする から続くノルンの昔話です。【ノルン - 13】まであります。
ノルンが商会を離れてから数十年たった頃、気まぐれに人里に降りてみては技術支援をしたり、成り行きで医者の真似事をしていた。
ノルンの感覚としては困ってるなら声をかけて助けてあげよう、例えるならお腹痛いの?薬のむ?くらいの善行程度でしかなかった。
不老不死である彼女は傷や裂傷、骨折に関しては特に傷を治すポーションなど作っていた。不老不死で超回復を持つ自分にはぶっちゃけ不要なポーション、魔獣では試したが人に効果があるのかはわからなかった。少しズルい打算もあるが治験をしよう!そんな目的もあってポーションを人里に降りては振る舞っていた。中には錬金術を基にした回復術式で高度な医療を見せたりもしていた。
ありがちな話だが女神ノエルから与えられたスキルや魔法に頼るこの世界では医学が発展しておらず、回復魔法だよりだった。魔法も極めればよくわからない謎パワーで治せるのだがそれは伝説の様な存在。よって魔法も効かないと思われている謎の病気を彼女は治してしまっていた。
それゆえに、自分の見返りは検証結果だけという人助けのベクトルと、それを施される人々との差も複雑に絡み合い毎回、自覚なき「ぐう聖ムーブ」無双を繰り広げ、大聖女ノルン、女神の使途様と呼ばれていた。
そんなつもりもないのに崇められる。
数十年ぶりに何回目か人里に下りた機会に街でとある神殿を見つけた。
女神ノエルを崇める神殿かと思って看板を見れば自分の名前が書いてあるではないか……
それは
チヤホヤされるのが満更でもない彼女でも越えてはいけないラインというものはあった。
彼女は
命令ではなく懇願だ。
商会も動き、神殿という建物自体は消滅した。実際は医学的な技術提携として
それらが混ざり最強の
そんな最強の
あとは自分達でなんとかしてと言い残し、また商会から離れた時の様に、人々の前に姿を現すことやめた。
ノルンが現れなくなっても
技術革命が産業革命へと繋がり世界の文明は発展し、文明レベルとしては中世から近代へ、近代から地球の現代レベルへ。そこに魔素と呼ばれる地球からみたら不思議エネルギーのある世界だ。科学を越えた魔導科学は魔科学とよばれ世界の生活レベルは単純に地球の感覚でいえば【超未来】ともいえるレベルに発展を遂げていた。
人口は爆発的に増加し100億人程度に膨れ都市と都市は繋がりメトロポリスを形成し天を貫くビルが群となり、その横を繋ぐメトロポリタンエクスプレスウェイ、いわゆる都市高速道路や鉄道の様な公共移動機構が複雑に伸びて国家を形成していた。
これはノルンが現れなくなってから150年余りの出来事だった。
ノルンは人里に下りず時間の経過も忘れて600年余り、森で引きこもり気が向けば錬金術という名の魔素操る科学と化学の研究をしたり、自動農業術式システム、異空間収納開発、錬金術の基礎となる魔素操作による物理法則操作――いわゆる魔法と区別の出来ない術式の洗練化など、いつかまた人里を訪れた時にドヤ顔することを目的とした技術を開発しながらも、ぐーたらと過ごしていた。
そんなノルンの日常の裏で世界中が発展してくると国家間の思惑も複雑化し利権が絡み合い政争が行われたりする。それでもなんとか均衡を保ち世界の文明は黄金期を迎えていた。
だが、世界からみれば技術の祖となっているリリシュタイン帝国と
技術が向上され世の中が発展してもそれは魔素を利用した科学道具、いわゆる次世代魔道具の発展によることが大きい。
スキル等の才能に関係なく、努力で誰でも人の役に立てる開発技術、それがあっての産業革命、その末に至った超未来だった。
そんな時代になっても、国と国の争い、戦争は起こったりもする。
軍事兵器も開発され抑止力として帝国側も開発に注力した。
世界には色んな国がある、軍事力に特化した国、中には非人道的な国さえある。
そんな国々は公開されていない技術がある。そう考え始める。
その一つとして帝国では身体一つで魔力を術式で操り、兵器と同等の力を持った兵士が沢山いる。ノルンがもたらしたノウハウの軍事目的運用だ。これは魔力を操る才能が要る――1人いれば英雄クラスで戦略殲滅兵器と同等の意味をもっていた。それが30人もいる。一人で軍隊を相手に出来るのである。
その上、それらを除いた軍事力も経済も開発技術力も帝国はトップである。
更には帝国側や提携国が
もちろん、世界が乱れない様に帝国側も決めたルールだったりするのだがそうは思わない国もある。
そんな帝国を脅威に思う国々が現れ始める。
複雑化し世界は発展し世界中で飢えもなくなった。でも人の心は世界の技術の様に発展するわけでもなく弱いままだ。不満を持つ者も現れ始める。
それは地球でいう中世ヨーロッパの様な世界だったころと全く変わらない。
ちょっとした思いつきで自分がトップになりたいと思うこともあるだろう。
夢をみることは悪いことではない。でもベクトルが悪い方へ進み、欲に駆り立てられた人々は槍を掲げ、帝国へと向ける。
帝国を蹂躙し技術を奪いとってやろう。そうすれば自分が思い思いの世界を作れる。
そうして起きたのがリリシュタイン魔導事変と呼ばれる世界魔導大戦だ。
帝国は周辺の提携国ととも防衛に徹し、向かってくる国を度々退かせた。
ノルンという祖であり自分達にとっては女神ノエルに並ぶ女神も同然の御方が住む森を守らなければいけない。自分の国を守るというよりはノルンを守ることを第一に帝国は守護を続けた。
そんな侵攻が続く中、ついに周辺の提携国が瓦解しはじめる。
軍事産業が進んだ故に技術発展が促進され侵攻国も強大となっていた。
提携国の滅亡、裏切り、敗退が続き帝国は国ひとつで守ることになってしまった。
世界中の国が進行してくると状況は良くない。
このままでは
よって、防衛に徹していた帝国は刃向かう国々を重い腰をあげ滅ぼすことに決定した。
最初からこうすれば良かった、でも滅ぼしたくはない。
でも……でも……天秤にかけどちらかを選択しなければ全てが無くなってしまう。帝国も余裕がなくなっていた。
自分達が滅んでも、
あの御方がいれば色褪せた世界になろうとも色づく。
世界が夜道の様に暗くなった時は照らしてください。
必ずそこへ向かいます。
帝国側は純粋なエゴを掲げた――
絶望に支配された帝国全ての人が願い、希望にすがりながら、泣きながら世界を滅ぼし始めた。
それから泥沼に突入し全ての国を亡ぼすまで50年余りの時間がかかったが侵攻国残党の魔導殲滅兵器によってリリシュタイン帝国も滅びた。
世界の人口を徐々に減らし黄金期には100憶いた民も5億まで減らしていた。
国々の技術も徐々に失われ世界は――文明は、事実上崩壊した。
「戦争中に私達商会は地下に潜りました。リリシュタイン家から頼まれたのもありましたが世界中に散らばり、世界の復興に注力して現状まではなんとか。」
オリヴィアは悲痛な面持ちでそう話す。
彼女も永続転生というスキルで転生を繰り返し戦争や復興を体験したそうだ。
現状、世界を牛耳っているのは
「でも世界の復興は私達がリリシュタイン大公家に仕えていたころの文明レベルで止めています。多少、農業や物流に関しては便利にしていますが。その他の
「……それでどうすればいいかわからず、私を探していたと……」
「情けない話ではありますが……」
ノルンはオリヴィアの話すエピソード全てに衝撃を与えられどう返せばいいのかわからず、胸を痛めた。
言い換えてしまえば自分の為に世界は滅亡した。
実際は人の弱さが招いた結果ではあるのだが、産業革命から国が発展し戦争に至った。ノルンはそうとしか思えないでいた。
それは終わってしまった過去の話故に現実味がないのに、胸が締め付けられる。
戦争を体験した者達はもっと絶望を味わったのだろう。
想像すると憂鬱な気分になる。
何も知らずに過ごせたのは森自体、帝国と商会の技術を結集させた結界によって護られていた為だ。音も戦争の光景も遮断され、ノルンは何も気づかなったのだ。
なにも知らずに気づけば終わっていた。
もしも自分が戦時にそれをしっていれば何かを選ばなければいけない状況になっていたかもしれない。
何も知らないうちに終わっていたことは何よりノルンの救いとなった、と同時に胸を締めつけ、鎖の様な何かが絡みついていく。
オリヴィアも話すのがつらかった。
でも転生を繰り返し戦争が終わっても絶望のどん底にいる様な感覚でいた。
縋る思いが決壊していた。
すぐにでもオリヴィアはノルンに教えを乞いたかった。
ノルンを探し転生を繰り返した何度目かには教えを乞うよりノルンに会えば、なにかが変わる。
そう考え生き続けてきて昨日――ようやくまたお会いすることが出来た!!
「そう……私に出来ることは……私にもわからないわ。でも辛かったよね。何もできずに何も助けてあげることも出来ずにいてごめんね。本当に……本当に……」
何もしてあげられなかった――
それが一番辛いということにノルンは自身で気づいてしまい、知らぬうちに泣いてしまっていた。
自分が泣いてしまうと、この子達はノルンを泣かせてしまったと狼狽えるだろう。どちらかというとお姉ちゃん風吹かし可愛い妹達の様な彼女達の前では気丈に振る舞っていたかった。
こんな時に雨が降ってくれたらな、そう願いながらも晴れた天は涙を鮮やかに照らす。
自分が来たから何か変わるわけでもないけど一緒に考えていくことは出来る。
涙を流しながらも笑顔を振りまきそう伝えようとしていた、その時――
――カシャカシャ!カシャカシャ!カシャカシャ!カシャカシャ!カシャカシャ!――ガーネット!ドローンでのアングルも準備!マリーは動画を!!
――カシャカシャ!カシャカシャ!カシャカシャ!
「ん?」
ノルンは滲んだ視界で前がよく見えない、音の正体を確かめるべく拭いてみると……
オリヴィアが両手を背後にまわしていた。
何かを隠しているような。そんなポーズだ。
鼻血を流し自身の服にぼたぼたと垂らしていた。
辺りにはマジックバッグと何かの魔道具が散乱していた。
「オリヴィア!どうしたの!?大丈夫??……敵襲?」
「いえ、ごちそうさまでした。いいスチルが作れそうです(ボソっ)」
「ごちそうさま?あ、私の
「あ、えーと、そ、そうです!サンドイッチがおいしいあまりに鼻血を……」
ふと見ればドローンが飛んでいる。これはノルンから観れば世代が旧いが昔、悪ふざけで作った簡単なアルゴリズムで索敵や防犯に使う用途のものだ。
「あ、あー警戒をそういえばしてなかったなーとドローンを飛ばしてました。」
「あ、サンドイッチの動画を撮ろうとしてまして」
オリヴィアはマリーのその理由は流石に苦しいだろうと冷や汗を垂らした。
このままでは貴重な貴重な初のノルンの泣き顔を消されてしまう。
「あ~、もう仕方ないわね~ふふ。こういうのはどんどんとっていいわよ」
お姉ちゃん風を吹かしたがるノルンは真面目な話をしてるのに!なんて発想には至らず――まだまだ子供なんだな!まあ私の方が年上だし!?と1000年以上生きて来た故の謎の余裕で勘違いをしていた。
それに湿っぽい空気になっていたしなんか和みそうだし結果的には良い空気になった。
ノルン自身もこの空気に救われていた。
「せっかくのお弁当おいしく食べようね!まあこの問題は直ぐにとは言えないけど今後一緒に考えていきましょう。ほらほらフルーツもあるわよ。写真とりなさい」
「……はい!そういっていただけて嬉しいです」
その言葉にオリヴィア達も救われた。これで皆、前に進める。
オリヴィア涙を流しながら歓喜した。
――カシャカシャ!カシャカシャ!カシャカシャ!カシャカシャ!カシャカシャ!
写真ばっかとってうるせえな、とノルンは思いながらも遺跡のビルの屋上でのピクニックは別格に感じていた。
ノルンは弁当ではなく自分ばかりにカメラを向けるオリヴィア達に冷めた目線を偶に送りながらも、和やかな空気で世界の情勢について聞いていた。
その時……頭上の建物の上に何者かの気配がした。
目を向ければ――
そこには少女がいた。
猫耳を生やし銀髪赤目、絶対聖職者だろうみたいな装備を身に纏い、彼女は不敵な笑みを浮かべノルン達を見下ろしていた。
背はノルンより5cm高い。
ノルンが初対面で一番最初にみるのは
――でも
「獣人!?そんなのこの世界にいたっけ!?」
少女は両腕を組みながら勝気な表情を浮かべる。
「はっはっはっは!私は大聖女セレスティーナ、転生大聖女とは私の事!!私は世界を救う女!だから……だから……!!!そ、その食べ物を……め、恵んで……く……だ、さいっす〜」
突然乱入してきた少女はそう告げて、目を回しはふらっと倒れた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ここまで読んでくださりありがとうございます!
ノルンを応援したい!
ノルンがんばれ!強くいきて!
ノルンかわいい!
オリヴィアもっと出せ!
セレスティーナがんばれ!
という方は
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