11 錬金術師は和やかな夜を過ごす
人それぞれ、と言われたらそれまでなのかもしれないが二徹三徹したあとは身体がブルブル震えることもあるだろう。
例え、まだ起きて活動していたいという意思が本人にあっても限界があり、身体を横にすればもう立ち上がることが出来なかったり、抗えなかったり、意思とは無関係に気づけば落ちていた。なんてこともあるだろう。
人による、そう言われてしまえばそうかもしれない。でも例え三徹してても若い者は7〜8時間も寝て休息をとれば意外にも元気になる人も多いのではないのだろうか。
クーフィーは猫に狩場を教えてもらっていた。ワイバーンが美味いらしく、クーフィーは猫と龍と共にワイバーンやカエルなどの魔モノを狩って過ごしていた。クーフィーは率先して狩っていたが、それを見ていたシャロ以外の猫と龍は真顔になってしまう。シャロは何故かドヤ顔を決めていた。
ノルンはバイタルチェックやアンナの要望で生身に近い義体にアンナを移し替えてメンテをしたり、コテージ近辺でキノコ穫りをしたり、食べられそうな野草や植物のチェックをしていた。彼女は久々の地球産植物に囲まれ充実していた。
そんなこんなをしているうちに夕暮れ時となっていた。
西暦20xx年5月9日18時を過ぎた頃
ノルンとクーフィーは夕飯の準備をしようとキッチンテーブルの上に食材を並べていた。
「おねえちゃん、これほとんど
「あ、そうね……理屈でいえば大丈夫だとは思うけど調べたわけでもないしあまり良くないわね……」
「は〜、漸くノルンさん達のお料理食べられるんですね〜、リプレースしていただいた第5世代型義体、生身同様に生理現象も再現出来るこの機構に感謝です。」
ノルンが綾乃と玲の脳波をみてみれば、もう起きて来そうな気配もあり、ノルンの飯にすっか〜の一言で食事の準備となった。
ただ
「おねえちゃん、綾乃と玲も一緒になって食べられそうなのってワイバーンとその辺に生えてた野草とキノコだけ……?」
「穀物食べたいわね……お米……は
「でもでもでも~、油とか醤油とかならその辺の植物の種から絞れるしタンパク質分解すれば醤油になるよね。錬金術の領分だし。塩はその辺からナトリウム抽出は出来そうだよね」
「ん〜そうね、クーちゃん、さっき採取してきたツルマメから油抽出してお醤油もつくる準備してくれるかしら?おねえちゃんは先にその辺で塩探してくるわね」
「うん、わかった。あ、おねえちゃんその辺の木の果実とかヒョイパクしたら駄目だよ、アーニャによく怒られてたでしょ」
「う、うん、わかったわ……」
その辺の木の実をなんの確認もせずとりあえず食べる、みたいなことを常習的にしていた
「ここにツルマメが大量にあるから洗ってくれ、やり方はわかるか?」
クーフィーはアンナに指示をする。
「やったことはありませんが、一応出来ると思います!私は助手をするのですね!」
ツルマメとは大豆の原種と言われている植物だ。意外にもその辺に生えてたりする。
ようはこれを使って油と醤油を作ろう作戦だ。
ただ、
クーフィーはひとまず油を抽出する為に大きな容器を3つ並べた。それだけだ。
「クーフィーさん、洗い終えました。」
「じゃあサヤのままでよいからその3つあるうちのどれかに半分いれてくれ。」
もう半分は醤油用だ。
「はい!わかりました」
準備が終わり油精製を開始する。
クーフィー達は普段、錬金術式をスクリプト化していて自動でもできるし、自力でも手のひらを翳さなくとも簡単に錬金術を行使出来る。でも初めて地球産のものを使うし微調整も必要だろうと丁寧に行使することにした。
アンナにもわかる様に初心者向けにわかりやすくした錬金術行使方法だ。
助手と名乗ったのがクーフィーは密かに嬉しかったから、これはアンナに対するサービスだ。助手なら覚えて欲しかった。
「じゃあやるぞ」
「なんかわくわくしますね!」
クーフィーは姉に初めて錬金術を教わった頃を思い出し、嬉しい気分になった。
小さな錬金術師は初心者向けの術式を展開する。
錬金術でやることは全て分解と結合だけである。その内、今回は分解による錬金術を行使する。
【
一つ目の容器には油が、二つ目には粉が、これはタンパク質分をアミノ酸に分解したもので旨味調味料の素材となる、三つ目は残りカスである。
「どうだアンナ、わかったか?」
「ステータスで覚える魔法は全て私が開発してスクリプト化してるのである程度、そっち系精通してると思ってたんですけど、さっぱりわかりませんでした……」
「まあはそうだよな……」
クーフィーは錬金術を教えるのが下手くそだった。
「それより初めてアンナって呼んでくれましたね。」
「……う、ま、まあ助手だからな」
「えへへ〜、私はクーフィーさんの助手です」
クーフィーは悪くない気分になっていた。
あとは同様の術式で姉がとってきたキノコを微生物ではない分解で発酵させたり、キノコの水分の分子を結合させ凍らせたりしアミノ酸に分解、いわゆるグルタミン酸、グアニル酸をだして旨味成分を抽出する。アミノ酸以外のキノコの残りカスも微量に混ぜるのがコツと姉から教わっているのでそれも忘れない。
こうして分解結合を繰り返し出来たのが『味のなんとか』の如く、塩の様な旨味調味料だ。
「ただいま!大収穫よ!」
ちょうどクーフィー達の作業が終わったころにノルンが帰ってきた。
どうやらノルンは普通に岩塩を大量にゲット出来たらしい。他は地球にも
非力なノルンがどうやって掘りだしたり狩りをしたのかアンナは気になってノルンに聞きたかったが今はそれどころではない。
「畜産出来るわよ!」
「おねえちゃん卵問題もこれで解決だね」
そしてあとはノルンとクーフィーで大豆を錬金による発酵で即席醤油と醤油を使った旨味調味料を作り終えた。
ノルンが山葡萄もみつけてきたのでソレを使って錬金術で発酵させ酢をつくり、更にポン酢も作れた。でもクーフィーはノルンが戻ってきた時、口回りに山ぶどうの皮が付いてたのを見逃していない。あとで一言言おうとクーフィーは考えている。
ノルンは改めて思った。錬金術ってこういうのだよなと。
「いやあ、お二人とも本当に錬金術師だったんですね」
ノルンの心境を見透かしたのようにアンナが素直に感想をいう。
「言いたいことはわかるわよ。薬学系錬金術のごく一部よ、こういうのは。まあ分解と結合の為の
アンナを前にして錬金術師は若干イキリたった。腐っても錬金バカであるノルンは調子に乗りたかった。
でもこれで綾乃も玲もみんなも憂いなく夕飯を食べられるだろう。
「でも綾乃さんも玲さんも病み上がりでバーベキューとか大丈夫ですか?」
「あ〜それならポーション飲ませたから大丈夫よきっと」
クーフィーとアンナは固まる。聞き間違えか?と思ったが一応聞く。
「え……おねえちゃん……」
「ノルンさん……そのポーションって……」
「え?これは私が作った
ノルンはテンパってうろたえた。
「お、おねえちゃん!大丈夫!!バイタルは正常だし、メディカルチェック――健康体だよ!アレルギーみたいにはなってない!今は……」
「ほ、ほんと……!あ、大丈夫そうね…………よ、よかった〜〜焦った〜〜」
「ノルンさん気をつけてくださいよ〜、
「そう、本当に良かった〜」
薬も毒も紙一重なのである。
問題ない問題ないと言い聞かせ、多少の不安を感じながらもなんかえらばどうにかする!バイタルオッケー!メディカルチェックオッケーだから大丈夫!と3人で言い合っていた。
隣の部屋では
「ん、あれ……ここどこ?綾乃さん?」
起きた玲は辺りを確認す。見知らぬ部屋のベッドに寝かされていて少し不安になる。
隣のベッドには綾乃が眠っている。
自分達が極限状態だったことは覚えていたが、疲労もどうやら抜けきっている様で寧ろ、なにか漲る様な感覚があった。
それに、おや?と彼女は違和感を感じた。少し頬を触る。
「なにこれほっぺたさらさらぷにぷにつるつる……???もしかして綾乃さんも?」
「ん……レイちゃんおはよ、ふあ〜〜」
「綾乃さん肌めっちゃ綺麗!!」
「ん……?わ!なに!ぷにぷに!もちはだ!?私達めっちゃ肌荒れてたよね」
ドアの方に気配を感じ目を向ければアンナが入ってきた。
アンナは2人をみつめて
「あら、大丈夫そうですね。体調とかなにか異変はありませんか?」
「いや、特別大丈夫みたいですよ。アンナさんが運んでくれたんですか?」
「私とノルンさん、主にクーフィーさんでしたけどね。」
玲はノルンの名前を知らなかった。
「ノルンさん?もしかしてクーフィーちゃんのお姉さん?」
「そうですよ」
「あーなるほど~、それにここってどこですか?」
ここがノルンの「ドコでもおうち」であることを説明し、ノルンが介抱し回復処置を施したことをやんわり説明した。玲と綾乃は家型魔道具かなにかかな?と想像した。
「病み上がりで申し訳ないのですが、バーベキューは大丈夫そうですか?」
「なにか物凄く元気なので大丈夫だと思いますよ。今から寝ずにクエスト受けられそうです」
「クエスト?ああ、関東冒険者ギルドでしたっけ……」
「外国の方なのにお詳しいんですね……まああそこはもう……」
「玲ちゃん、そちらの新しい美少女さんは?」
そういえば綾乃とアンナは絡みが無かったはずだと玲は思い出した。
「うわああまた美少女!海外スペックたっか!綾乃です!よろしくね!」
綾乃の勢いにビクっとするアンナ。思ったより大きい声だった為に動揺しながらも自分も自己紹介しなければと綾乃に身体を向ける
「わ、私はノルンさんやクーフィーさんと旅をしています、ノエ……あ、やっべえーとアンナと申します」
「ノエ?アンナちゃんでいいのかな?」
「はい……、アンナと申します」
ひとまずアンナと綾乃は面識が出来たので玲は安堵する。
「おい、バーベキューの準備出来たぞ~」
クーフィーが呼びに来た。
「クーフィーちゃん!私もノルンちゃんみたくクーちゃんって呼んでもいい!!??」
綾乃はクーフィーの下へ駆け出した。
「おう、いいぞ。肉もあるしなんかその辺でとれた枝豆もあるぞ。早くいくぞ」
「やったー!!でもビールがねえんだよなあ。」
「玲さん私達もいきましょう」
「そうですね、はい。ノルンさんに自己紹介しないと」
「ふふふ、そうですね」
5人と5匹は地球上で超がつくほどの魔境で夕飯を囲み、和やかな夜を過ごすのであった。
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ここまで読んでくださりありがとうございます!
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