【ノルン - 4】 少女は懐かしむ

※2 少女は夜逃げする から続くノルンの昔話です。【ノルン - 13】まであります。


「初めましてギルドマスターのガーネットです」

「併設食堂のマリーです。初めましてノルン様。伝説を聞かされて育ちましたのでお会い出来て光栄です。」

「はじめまし……て?ノルンです」

 恐らくガーネットとマリーの子孫なのだろう、よく似ている。彼女達ももしや……


「ノルン様、彼女達は……今代のガーネットとマリーです。」


 オリヴィアが補足してくれる。オリヴィアと違い別人ということだろう。


「宜しくね」

 とノルン特製の固形レーションを前に3つ置いた。室内に甘く香ばしい匂いが広がる。

 食べて、と促すと目を輝かせ3人は食べた。同じ名前の3人が集まっているならついついを出したくなった。


「「「…………」」」


(あら?懐かしいなって出したんだけど古臭いかなあ。あ……年寄り臭かった?)


「「「恐悦至極に存じます!」」」

 3人は拳を握り胸に手をあてる


 オリヴィアはもの凄く笑顔なのだが、ガーネットとマリーは涙を流し「身体が自然に…」「このお菓子をみたとたん涙が」と自身でも困惑していた。


 無我夢中でレーションを食べる3人。食べ終わるのをノルンは静かに見つめていた。


「大変美味しかったです!こ、これをノルン様が……」

「ノルン様もうひとつください」

「オリヴィアさん!貴女はいつも……申し訳ございませんノルン様」


 ガーネットとマリーの反応も3人のやりとりもノルンにとってはどこか懐かしいものだった。やはり転生しているのは?と思ってしまうが2人には前世の記憶等あるわけでもなく生まれ変わりなのかも不明だ。


 役割としてガーネットがギルドマスター兼商会長。

 マリーは料理長兼商会開発部長。

 オリヴィアはギルド受付兼商会顧問らしい。


「ノルン様はここがどういった国で情勢や歴史について知りたいのですよね?」

 中身がこの中ではノルンに次ぐ年長であるオリヴィアが話を仕切る。


「うん、最後に人里に降りた記憶があるのは600年くらい前かなあ……」

「あ、あ〜、でしたら知らないかもしれないですね……」

「なにが?」

「ん〜、あ〜、今は……結論についてお伝えすることはご容赦いただきますが、後日見ていただきたい場所があります」

「ん?まあ、わかったわ」

 今、話してくれても良かったのだが、オリヴィアの様子から伝えたくないことなのかもしれない。そう考え了承した。


「ただ、この街やここが何処かについてはお話しします。」

「ん、そう、じゃ〜お願い」


 オリヴィアがこの街について説明を始め1時間ほど経過した。

 商会ヴァルキュリアが大昔に開発した映像系の魔道具からホログラムが投写され、それらの映像や音声を加えて熱のこもったプレゼンの様な説明だった。


 聴き終えたノルンは青筋を浮かべゲッソリして震えていた。気分を落ち着ける為に、自身謹製ポーションをのみ息を深くはいた。いわゆる溜息だ。


 少しの間を置き

「………なんて街を作ってんのよ〜!!!」


「あははは、喜んでいただけて何よりです。やっぱりこのレーションおいしいですね。もうひとつ食べたいです」


「むう、……はぁ〜もう仕方ないわね……」


 ――――まずノルンが説明を受けたのは此処は昔と変わらずリリシュタインの名をもつ領土である様だ。実家の事は説明にはなかった。それは後日説明してくれるのだろうとノルンも聞かなかった。

 次にこの街【ヘルフォレスト】だが始まりは何代か前、300年ほど前に転生したオリヴィアが商会の生き残りをかき集めた野営地が始まりだ。

 数百kmにも広がり山を呑み込む大森林を前になぜ野営地があったか?それはノルンの捜索だ。

 ノルンは本当に困ったことがあれば自分を訪ねなさい森のどこかにはいるから、と商会には伝えていた。とある事情から商会はノルンの下へ訪ねたかった。野営地では何年もかけ捜索が行われたがノルンは見つからなかった。そこで商会は冒険者ギルドを復活させた。

 それから人が集まり、長い時間をかけ人口20万人を超える大きな街、というよりは都市へ発展した。

 世界でもっとも危険な天然ダンジョンである大森林であることから冒険者の街でありお金が動く商業都市。

 冒険者ギルドもこの街が本部所在地らしい。

 ただ今いるギルドの建物は大きな都市であるこの街の支所のひとつであり商会直営ギルドであった。故に3人がいたのだ。いわゆる裏本部であり、実質的な本部だ。

 

 ある程度の冒険者ランクになるとこの直営ギルド裏本部では特殊クエストを受けられるようになる。それはノルン本人の捜索。ノルンの住処跡地の捜索。ノルンのいた痕跡。などノルンに関わる特殊クエストだ。

 そしてノルンに関わるクエストを受けるには講習を受ける必要があった。


 その講習とは主にオリヴィアがエルヴィア八代目オリヴィア時代に撮り貯めた「超可愛いノルン様ベストコレクション」を見せることである。主にノルンの容姿を覚えてもらう為に講習でみせる。

 ちなみにVolume.50まであり、10回講習を受けると冒険者ライセンスカード以外に別なクラブカードが発行され10回ごとにクラブランクが上がる仕組みになっている。コンプリートをするとクラブランクがプラチナランクとなりギルド併設の視聴覚室でエルヴィア八代目オリヴィアが撮りためた寝顔スチルが開放され閲覧可能になったり。様々な特典が得られる。いわゆる宗教ファンクラブだ。

 ノルンはこの説明あたりでげんなりしていた。


「オリヴィア、いますぐに、その映像の記録を全て削除しなさい」


 ノルン的にはもっともな要求である


「いや、1300年も続く歴史ある活動宗教ですので……でもこれらが失われると街で暴動が……」


「うわ!そんな昔から!?初めて知ったけど!?でも削除しなさい」


 ノルンの要求は本当にもっともなものである。


「オリヴィアさん、だからノルン様にはクラブ活動宗教は黙ってましょうっていったのに……」

「でもこれからノルン様にはお願いする事があるのに隠し事は……それに規模も大きくなりすぎてどうせ隠し通せないよ」

「ノルン様、これを生きがいにしてる方々がこの街には数多くいてこれが失われると人生の路頭に迷ってしまう人がたくさんいるんです。私からもお願いします。」

 ガーネットも頭をさげる。知的で真面目だった初代ガーネットを彷彿させるがノルンから見れば狂っていた。


「ふん……何人路頭に迷うの?」

 どうせ数十人だろう?いても100人ちょっとくらいだろう?なら商会で雇うなりすればよい。ノルンはそのくらい規模だろうと思っていた。

「活動中の冒険者が4万人いますが冒険者登録してクラブカード目当てでカードまで取得したら他の仕事にって感じの方もいて合計で11万人クラブカード持ちですので、冒険者が利用するお店なども含めると14万人ですかね……」


 そう言われてしまうと早く消せなんて言えなくなってしまうノルンだった。

 実際にはガーネットの言い分は誇張で大げさなのだが1300年も団結してきた商会ファンクラブであり存在意義がほぼ「ノルンの為」であり、ノルンが商会を去ったあともそのスタンスは変わらない。故にガーネットも必死に口八丁で誘導した。

 

 その説明のあとにノルンにこう言われたのである。

 

「………なんて街を作ってんのよ〜!!!」

 ノルンは口でそうは言ってるがチヤホヤされているのを知りニヤっとしながらもどっちつかずに怒ったり、目を回したりしていた。

 

「あははは、喜んでいただけて何よりです。やっぱりこのレーションおいしいですね。もうひとつ食べたいです」

 これはいける!と思ってオリヴィアは褒めて褒めて良い気にさせようとした。ノルンの扱いノウハウを沢山もってるオリヴィア故の采配だ。

 

「むう、……はぁ〜もう仕方ないわね……」

 

「それではなぜ私達がノルン様を探していたか、というのも含めて明日説明します。明日は、とある遺跡にピクニックに行きましょう」

「ピクニック?まあ少し観光もしたいしいいわね。弁当つくるわね」


 ピクニック、というワードを出せば薄っすらとニヤっとして満更でもなさそうにノルン。彼女が密に張りきってお弁当を作ってくれるとオリヴィアは知っていた。そんなノルンの顔をみて大昔と重ね、懐かしさと可愛さに涙を流していた。


「あ、あ、あ、やっぱり花粉症?」


 オリヴィアの突然の涙にオロオロしだすノルン


「いえ、またゴミが入って……ハウスダストかもしれません。」


「そう、じゃあこのポーション飲んでね」

「これ新しいポーションですか?」

「うん、なんでも治すポーション」

「あ、ありがとうございます……これひとつで城が建ちますよ(ボソ)」

 オリヴィアは使わずささっとポケットにしまい込む。



 次の日、ノルン達はヘルフォレストの街から10km離れた場所まで馬を走らせた。ノルンは馬に乗れない為にオリヴィアの前に乗った。

 中継地点の地下には車が隠されていた。見た目はオフロード車に似てるが魔素フラッピングエーテルを燃料、魔力を動力とした魔導車だ。

 車に乗って更に20km走った。

 車があるのであればノルンの知らぬうちにある程度は文明が発展していたのだろう。

 走っていると荒廃した大地の様な景色が続き、ところどころに壊れた大きな橋のような建造物の残骸がちらほらあった。


 20kmを過ぎた辺りから大きなガレキが多く、車でも無理な為に徒歩となった。


 そこでノルンが見上げたものは


 雲まで届きそうなくらいには高さのあるビルが景色の果てまでそびえたち、ビルの横を蛇の様に道がうねり続いている大きな大きな都市だった。

 その様相は、窓が割れところどころ崩れ落ち、蔦や草が建物を突き破っていた。人などの営みは無さそうだ。

 日本でいえば東京の様な都会を思い浮かべるかもしれないが、それよりも未来の様にノルンは感じた。


 オリヴィアはその大都市を背景にして申し訳なさそうな表情をして告げた。


「ノルン様、ここが文明の発展とともに戦争で滅んだ世界、その中で唯一、ある程度形を残せた場所【旧リリシュタイン帝国】帝都の中心部です。」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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