【ノルン - 3】 森の錬金術師は叫ぶ

※2 少女は夜逃げする から続くノルンの昔話です。【ノルン - 13】まであります。


 ある程度、文明が発展し高度な社会を築いていったならばビルが並び立ち夜も灯りが燈され遠く離れた地までアスファルトの街道が続き、空には飛行機が飛んでいる。

 地球人類であれば発展した文明とはそういった世界を想像する者もいるだろう。

 それは地球で電気が発明され魔法のない世界だからそう想像するのかもしれない。


「1000年経ってもみた感じは中世のままじゃな……」


 ノルンは住処である森の奥から気まぐれで人里に出て来ていた。たまにはシャバの空気も吸わないとな、くらいの感覚でに来てはいるのだがずっと代わり映えしないな、と漸く気づく。

 ちなみにノルンは今年で1365歳になる。森の魔女、といった言葉がしっくりくる生活をしていた彼女は誰とも触れ合わず生きて来た。


 故に


「ん?儂……、喋り方年寄りくさくなっとらんか?もしかして……」


 鏡を取り出し自分を映す。

 久々に自分の姿を見たが髪が伸び切っている以外はどうやら大丈夫そうだ。

 15歳から変わらずの姿のままだ。

 もしかして不老不死がなくなって見た目も知らぬうちに老け込んでしまったのではと思ったが安堵した。


「あ、あ、あ、儂、ちがう!私はノルン。あ〜、あ〜、大丈夫かのう……、これもちがう!大丈夫かな〜?むむむむ」


 言葉が年寄りくさくなってしまった故に街に出られんとノルンは森に帰った。


 ――1年後


「これでばっちりね!焦った〜!この喋り方なら大丈夫かしら?若いころはこの喋り方だったと思うのよね。前髪も顔が見えるように切ったし準備はバッチリね」

 

 ノルンは1年かけ年寄りくさくなってしまった話し方を矯正したのだった。

 ちなみに1人でいるとただでさえ多い独り言が4倍くらいに増えてしまっていた。


「しっかし、本当に文明って発展しないのかしらね……1000年前にはうちの商会ヴァルキュリアで便利な世の中にしていくアイテムとか仕組みとか開発してたよね?」


 ノルンは近くの街まで来ていた。

 見た感じの風景は相変わらずの中世っぽい街並み。建物を解析すれば主にレンガが使われ材質も粘土や頁岩を練って焼いて固めた物だ。

 これならば自宅の方が立派である。


「あれ?建築材もそうだけど建築方法も商会で結構開発したと思ったんだけど……」


 ノルンは錬金術で色んな素材から建築材を作り、せっかくだからと建築方法も建築基準も行政を巻き込んで洗練させていった記憶があった。


「あれ?そもそもここって国的にはリリシュタインよね?あれ?ここどこ?」


 市場も活気があって賑わって人もそれなりにいるそこそこ大きい街だ。

 誰かに話しかけ此処が何処なのかを聞けばいいもの、森に引きこもっていたノルンには難易度が高い。逆に森に来てくれたら話しかけることは出来そうだと思っている。

 恐らくホームとアウェイの違いは大きい。


 そもそも話す言語も若干違う様でノルンからすれば訛りが酷い。恐らく自分の方が古い言葉を使っているのだろう。

 ただ1年前にはそれに気付いていた為に意訳翻訳を出来る錬金術式は開発してきていた。ちなみに錬金術の枠組みから外れていそうだが錬金術の延長上にある技術であり、彼女にとっては錬金術だ。


 さてどうすっぺな、と考え、ふと視界に入った施設があった。看板の文字も昔より角ばっている様な気もするが冒険者ギルドと書いてるのは読めるし言語としてはほとんど変わっていないのだろう。


「異世界といえばこれよね〜」


 冒険者ギルド自体はノルンが生まれる前から存在していたが、ノルンが登録したのは1100年程前だ。

 リリシュタイン大公国が周りの国を無血で取り込みになったころに登録したものだ。当時と変わってなければ下から二番目のDランクだ。

 

 ノルンは冒険者ギルドの受付ならばなんとなく話かける事が出来る気がして冒険者ギルドに入った。


「こ、ここここ!こんにちは!」


 冒険者ギルドに入り、受付の女の子に話かけていた。


「…………ヘルフォレスト冒険者ギルドへようこそ!本日はご依頼ですか?」

「へ、ヘルフォレスト?」


(地獄の森?)


「ふふふ、グス……あらこの街はヘルフォレストといいますが?知らずに来られたのですか?」


「あ、あ〜知ってましたよ?あれ?泣いてる?花粉症?」

 

 ノルンは田舎者丸出し感みたいな感じで恥ずかしかった。この街は別に都会ではないのだが恥ずかしかった。


「いえ、目にゴミが……グス……失礼しました。本日はどの様なご用件ですか?」


「あ……」


 流石に此処がリリシュタインという国なのか聞くのってやっぱり変かな?とノルンは思い始めたが、これでは冷やかしの様で気が引けた。


 そこでノルンは閃いた!


「あ、あ、あ、あ〜あの〜、素材の買い取りをお願い出来ないかなと……」


 素材買い取りの流れで情報を引き出そう作戦だ


「……!素材ですか?それはどういったものでしょうか?」

「あ、こここ、これらなんですけど」

「こ、これは!?それにこれも!?どちらで採取されたのですか?」

「え、あ……家の近くで……」


 ノルンが出したのブルースウィートベリーとスカーレットビターナッツだ。

 両方ともポーションの材料になりごく平凡な素材である。と、ノルンは思っている。


「あ、やっぱりみんな持って来てるでしょうし要らないですよね?なんかすいません」


「いえいえいえ!すいませんすいません!これはヘルフォレスト、あ、街ではなく大森林の方のヘルフォレストの中心に近いところにしか生えてないんですよ!それが自宅の近くに!?ってあ〜そっか……」


(あ、やべ)


 ヘルフォレストとは恐らくノルンが住んでる死の森とかデスフォレスト等と呼ばれていたあの大森林のことなのだろう。ノルンは嘘はいってないのだが説明が難しい。


「じゃあこれ希少なんですね?家の近くってのは冗談ですよやだなあ……森に探索しにいった時ですよ」


 ノルンは誤魔化すことにした


「え、もしかして名のある冒険者の方ですか〜?森の中心にいける方なんて……ぷふふ」


 言葉を返す度に墓穴をほっている事に気づきノルンは苦しくなってきた。

 それになんか受付のこの子、たまにニヤニヤしてるんだけど馬鹿にしてるのでは?と、都会怖!ならぬ人里怖!をノルンは感じていた。


(素材なんか出すんじゃなかった〜)


「あ、いや……フリーでして……あ、いや冒険者ライセンスは昔登録してたんですけど……あ、私これでも結構なおば……お姉さんなので……」


 なにを答えても墓穴を掘りそうなのに墓穴を掘り進めるノルン。

 1100年前にライセンスとったと伝えても信じて貰えないだろう。


「変わらないのですね……(ボソ)」


「あの……じゃあ……やっぱりいいです……」

「あ、お待ちを……余計な詮索をしてしまいました。気分を害してしまいましたら申し訳ございません。まだライセンスカードはお持ちですか?こういったカードなんですが……」


「あ!いや……こちらこそすみませんでした……」


 受付の女の子が見せたカードはそもそも商会にいた時に偽造防止機構をノルンが開発し付与したものと同じだった。カードをこっそり解析すれば、いま自分の持ってるカードと内部構造や仕組みは同じだ。ということはデータベースも同じで自分の登録も残ってる筈だ。ちなみに自身の歳はギルドも照会出来ない様にしたのは開発者特権だ。


 ごそごそごそごそ、マジックバッグの中を漁る。ごそごそ、ライセンスカードが中々みつからず焦る。


「あれ?どこ〜?あれ?奥かな〜?あ!あった!はい!私のライセンスカードです」

「ふふふ、では拝見致します……ノルン様ですね?魔力称号も緑色に光りましたので本人確認もできました。」

「はい、ノルンです!!」


 ノルンは過去の自分の遺産が使われていることが少し嬉しくて声を少し張り上げてしまった。


「ふふふ、カードをお返しします。お持ちいただいた素材は希少な物でして、人の目もあります。査定も含めて応接室で対応させていただいて宜しいですか?」

「は、はい」

「それでは、私、が担当します。宜しくお願いしますね」


 ここの国の名前を聞くためだけに随分と遠回りをしてしまったノルン。人とコミュニケーションをなるべく取るようにしないとなあと反省した。

 国だけでなく情勢も聞きたかった。

 ノルンとしてはスムーズに売ってその流れで聞けたかは微妙だなと思い始めていて、この対応はありがたかった。そのうち聞けるだろう。


「ではこちらでお待ちください。」


 出されたお茶をすすりながら「ほっとする味ね」などと呟き呑気に待っていた。


 ノルンは気付いていなかった。

 ギルドの受付は基本的に、冒険者ライセンスを持つもの、冒険者に対しては「さん」付けをし、「様」付けはしない。他の受付窓では他の冒険者は「さん」付けで呼ばれていたのだがノルンは特に気にしていなかった。地球の知識や価値観をもっている故に様付けに違和感を持たなかったこともある。商会同士の商談や高級店では使われるがギルドでは使わない敬称だった。

 

 ノルンは知らなかった。

 自身が創設した商会ヴァルキュリアの傘下に冒険者ギルドが加わっていたことを。


 ノルンは更に気づかず見逃していたことがあった。

 受付の女の子の名前がオリヴィアであるということだ。


「あら意外とこのお茶請けおいしいわね、もぐもぐ」


 前世からの癖で口いっぱいにお菓子を詰め込んでもぐもぐしていた。

 コンコンとドアを叩く音がした


「失礼します。ノルン様、査定の前にお話が……」

「もぐもぐ……ひょっふぉふぁっふぇ(ちょっと待って)……」

「変わらないですね……かわいい(ボソ)」

「ごめんね……」

「いえいえ、今ギルマスも来ますのでお話はそれからです。今お茶お替り入れますね。」

「ギルマス!?」

「大丈夫ですよ!ノルン様!ここのギルドはヴァルキュリア直営なので。」


「あ、そう、なら安心ねええええええ!?」


「ふふふ、お久しぶりですね〜ノルン様。私もひとつ食べよ。」


 職員なのにつまみ食いをするオリヴィア。


「……」


 どこか懐かしい空気を感じていた。


「ノルン様、私のスキルって【永続転生】なんですよ。まあ不老不死じゃないので死ぬと転生して赤ちゃんからですけどね」


 それは十分にチートだ。


「貴女……」


 もう答は出ていた。


「はい、初代オリヴィアと八代目オリヴィアと十数回のオリヴィアを経て現オリヴィアです。改めて宜しくお願いしますねノルン様」


「ほえ〜すご〜い……エルヴィア八代目オリヴィアもお前かよ〜〜!!!」


 予想外のカミングアウトに錬金術師は叫ぶ


〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ここまで読んでくださりありがとうございます!


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ノルンがんばれ!強くいきて!

ノルンかわいい!

オリヴィアもっと出せ!


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