8 小さな錬金術師は魔モノを倒す


「おねえちゃんシャロに乗せてもらったら?」

「あ、う〜んそうしようかしら。なんか調子悪いのよね」


 クーフィーにはノルンが調子悪い感じには見えなかった。これはノルンの身体能力の問題で足が遅いのを強がって調子悪いと言っているだけだった。

 ノルン達はシャルロッテに跨り、シャルロッテが言う現場に向かう事にした。


「……おねえちゃん無理しないでね」


 優しいクーフィーは姉を労り余計な事は口に出さない。


下っ端アンナ、シャロ、おねえちゃんを頼んだぞ。私は先に行ってる」


「あ、クーちゃんちょっと……!」


 クーフィーは駆け出した。

 彼女は魔獣と人間がいた場所に魔モノが現れたのを検知していた。ノルンも気付いているだろう。本気を出せばノルンもクーフィーと同じくらい、無理をすればクーフィー以上の身体能力は出せる。優しいクーフィーは姉に。体質故に可能だとしても、別の方法で出来る者がいるならば、それが自分ならば、自分がやるべき出だろう。それにシャロのスピードでは間に合わないかもしれない。そう考えたクーフィーは短背矮躯の身で駆け出す。


 1kmほど進むと前方には魔モノと対峙した猫3匹、魔モノと同タイプのトカゲに人間が2人。人間は倒れているようだが特段ケガはしていなそうだ。


 人間は恐慌状態でうまく動けないようだ。は手負いの様で、猫も恐らく分が悪いだろう。ちんたら話をしていても魔モノは待ってくれない。ここは自分が手を下すことにしよう――クーフィーはそう判断した。


「お前たち大丈夫か?これ、倒しちゃって良いのか?」


 恐らく介入しなければいけないのだが、助けたのに獲物を横取りしたと言いがかりをつける輩もいたりすることもある。

 マナーとしてクーフィーは人間に尋ねた。


「「????????」」


 地球に来て初めてみる人間達は外套のフード越しに首を傾げている様な反応だ。

 ダメなのだろうか?


 そもそもクーフィーの話している言語は日本語だ。姉が広めた惑星ノエル公用語=日本語の筈だが通じているのだろうか?クーフィーは不思議に思う。


 クーフィーも彼女達を真似て首をコテンと傾げた。


「「…………!!」」


「くぁ、くぁ……くぁわいい……くぁわいいんが過ぐぃいる」

 二人のうち1人は鼻血を元から流していたのだが、もう1人も鼻血を吹き出した。

 

 確かに同じ言語体系ではありそうだがなんか訛りがあるなあ、とは思った。だがギリギリ聞き取れそうな気はした。


「ひとまず猫達に精神パスつなぐか。お?テイムされてる?ならここに繋いで……これで聴こえるか?」『聴こえるか?』


『聴こえますにゃ!』『聴こえるよ!』『聴こえます!』


『え?なになに?これって念話ってやつ?』

『わ~超絶美少女、お姉さんと仲良くしよ!』


 精神パスを繋いだ通信なら意訳、翻訳を感情がしてくれるから違和感なく話せそうだ。クーフィーは安堵し、魔モノに指を差した。


『じゃああれ倒すぞ!』

『え、ちょっと待って待って!あぶないよ!』


 魔モノのドラゴンはクーフィーの乱入に戸惑っていた。本来は戸惑いなど感情の類は魔モノない。だがクーフィーのあまりにも小さな身体には似つかわしくない強大な力をし身体が動けないでいた。魔モノ特有の無鉄砲、脳のリミッターが外れている筈なのに動かない。

 あまりにもこの『小さき強大な者』は危険だ……!そんなプログラムの様な信号が魔モノに流れたのかもしれない。魔モノはターゲットを小さき強大な者に変更した。

 小さき強大な者は背を向けている。強張っていた筋肉は緩み今なら動けそうだ。


 魔モノは小さきものを踏みつけようとした。


「あんぶぬぁい!」『あぶない!』

 どストライク美少女の危機に綾乃は叫んだ!


 少し前まで弱っていた筈の綾乃の気迫のピーキー差にクーフィーは少しびっくりする。


 今にも踏み潰されそうなクーフィー、しかしクーフィーはゆっくりと横にズレて躱す。

 綾乃と玲は脳がバグったかの様な感覚を味わった。

 魔モノはすかさず逆の足でふみ抜こうとしてスピードは明らかに間に合っている筈だが、クーフィーはゆっくりひらりと躱す。

 まるで踊っているかの様だ。


「お、やっぱり結構速いな!こっちだ、こっちへこい!」


 踏み抜いて踏み抜いて、爪も振るうが全てひらりと躱された。気づけば洞窟からだいぶ離れたことに魔物は気づく。


「このぐらい離れてるなら大丈夫か?」


 クーフィーは周りに木々がない拓けた場所に誘導していた。自身の攻撃で周りの生物を傷付ける可能性が僅かにあったからた。普段であれば場所など気にしなくても良いが普段いた惑星ノエルとの魔素フラッピングエーテルの質の差を懸念しての行動だった。その魔素フラッピングエーテルの質の差がどれだけ身体能力に影響があるのかわからない。

 魔モノは魔モノで拉致があかないと判断、いや判定したのだろう。自身の口の前に魔素フラッピングエーテルを集め魔力を練り収縮させていく。魔法陣や術式紋にみえなくもない光が広がり、やがて小さく圧縮された。


 魔モノはブレスを吐こうとしていた。


 その刹那、光は消え魔力は魔素フラッピングエーテルとなり雲散した。


 魔モノの身体は首から上がズレ落ち、身体だけが立っていた。


「あ、まずいこのままだと筋肉硬くて食べられないや。このトカゲのここと、ここと……ここをついて。これで大丈夫かな?」


 魔モノの身体は糸の切れた人形の様に崩れ落ち倒れた。クーフィーはひとまず回収しとくかと異空間収納に魔モノの死体を収納する。


「え?いんうまどゆぁってぁの?いゆぁいゔぁってょ〜?」

『え?いまどうやったの?居合い抜刀?』

「斬っただけだぞ」『斬っただけだぞ』


 綾乃と玲が猫の背にもたれかかりながらクーフィーに近づき話しかけてくる。


 やはり訛りが酷い……。そう聴こえていた。


 クーフィーは精神パスの通信だけで話すことにする。


『大丈夫か?お前ら?ぐったりしてるけど。言葉訛り酷いから精神パスだけで話すぞ』

『うん大丈夫、本当にありがとう。君が来てくれ無かったら私達多分死んでたかも』

『本当にありがとう』


『そうかもなあ』


 彼女達は外套のフードやマスクで顔が見えない。でも安堵した表情をしてそうな雰囲気だ。クーフィーは急いで走って来て良かったと思った。第一村人ならぬ第一地球人である。

 クーフィーは静かに喜ぶ。尻尾はないが尻尾があるかの様に腰を僅かにふりふりしていた。ノルンでなければ見逃してしまうほどに僅かに。


『私は月詠玲』

『私は綾乃だよ、美少女ちゃん!君小学生?』


 綾乃はクーフィーがどストライクだった。


『ユキです』『茜だニャ』『皐月だよ』


『私はクーフィーだ』

 二人からみれば小学生低学年くらいの超絶世の美少女。そんな子が尊大な言い方をしてどこか誇らしげに自己紹介をしてフフンと鼻を鳴らす。その姿は絵になった。綾乃はまた鼻血を噴出した。


『娘にしたい、どうしたら娘になってくれる?今のスチルは保存できないの?』

『綾乃さん、これいわゆる念話だから少し間違えると思考だだもれだからね……』


 結構な頻度で似たような事を言われ慣れてるクーフィーは、特段綾乃の発言を気にすることはなかった。


 それより――

『あのトカゲはどうしたんだ?こっちにこないけど……あ、ケガしてるのか』

 クーフィーは龍が気になった。

 

 猫が呼びにいったようだかケガをしてる。ならこちらから近づこう。そもそも龍の彼女はケガを理由に近かなかったわけではなく、単に臆病な性格なだけだった。


 クーフィーは龍まで駆けだした。


「あ!ヴぃせうじゅおちゅあん!つぅおっと!」『あ!美少女ちゃん!ちょっと!』


 綾乃も何故か元気になり謎の美少女ことクーフィーの後を追い駆けだした!


 クーフィーはに近づき精神パスを繋ぐ。


『おい、聴こえるか?痛くないか?』

『……』


 返答がない。なら勝手に傷の具合を診よう。クーフィーはそう考え玲が治療として貼った外套即席絆創膏を剥がした。

「お?もう治りかけてるな。流石にトカ……龍なら再生能力も早いな」


 ついついトカゲと言いそうになってしまったが拗ねる者もいたためにクーフィーは即座に龍と言い直した。

「治すぞ」


 薬をつかえば早いが、この世界の生物の細胞構造にうまく作用するかはわからない。クーフィーは魔素の流れを刺激して治癒力を高める方法を選択した。


『あ、ああ……熱い……です。強大な御方。』


『治癒能力を最大限に高める術式だ。しっかり休め。また後で診るからな』


『ありがとうございます……』


『お前だけテイムされてないのか?』


『あの……まあ私は……猫さん達みたいに他人には慣れていないので……』


 クーフィーは知っていた。惑星ノエルでも魔獣の龍はだいたいが臆病でビビりちらしていた。実際は単にクーフィーにビビっていただけだが置いておこう。ましてやアンナの話が正しければ龍に連なるもの、爬虫類か両性類が魔素フラッピングエーテルの活性化で適応し姿ということなのだろう。自分の眷属猫シャルロッテが良い例だ。

 この龍も地球ステータスシステムで眷属にすれば進化するかもしれない。でもシャルロッテの場合はシャルロッテが眷属になりたかったから眷属になった。年齢でいえばシャルロッテより低い可能性だってある。

 魔モノで怖い思いをしただろう、面倒みてあげたいがそれでも自分から眷属を無理強いするクーフィーではなかった。


『そうか』


 姉やシャルロッテ、ついでに下っ端アンナまで来る。ちょっといいとこ見せて褒めてもらいたいな、なんて密かに考えているクーフィーは龍をさすり腰を僅かに、尻尾のようにふりふりさせていた。もちろんクーフィーはなので尻尾はないが姉でなければ見逃すくらいにはふりふりしていた。



「くーちゃーん!!ちょっと速いよ~!」

「おねーちゃん!」

「魔モノの気配がないわね、くーちゃんがやってくれたの?」

「うん、私がしっかり片づけておいた。あと龍も治療して宥めてた。」

「龍……ドラゴン……凄い強そうな子ね……敵はこの子の魔モノだったのかしら?シャロに道中聞いたらドラゴンっぽいのよね」

「うん、なんか割と速かったから強いほうだと思う。標準の野良ベヒーモス換算だと50倍くらい強いと思う」

「ふふクーちゃんベヒーモスをよく基準に使うわね。」

「うん、私あいつきらい」

「そっか、でも偉いわね~くーちゃんが動いてくれたおかげでお姉ちゃん楽できたわ~」

「えへへ~」


 ノルンはよしよしとクーフィーをしっかり撫でて褒めた。 

 さて、とノルンは呟いた。振り返り第一村人ならぬ第一地球人とご対面……と行きたいところだが……さっきからノルンとクーフィーにキラキラした視線を送るものがいる。

 チラ見すれば外套とフードとマスクで目以外は見えない。背丈はノルンと同じくらいの女の子の様だ。

 もう一人いるみたいだがアンナが話かけている。


「わぁあ!わぁあ!ヴぃせうじゅおちゅあん!おんぬぇすあん!?ぜっといおんぬぇすあん!ぬあら、わんたすいのおんぬぇすあん!いや、わんたすいがおんぬぇすあん!」


 な、なんて!?ノルンは困惑した




〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ここまで読んでくださりありがとうございます!


ノルンとクーフィーの活躍をもっと見たいぞ!

ノルンかわいい!クーフィーかわいい!


という方は

★評価とフォロー、♡ください!



猫耳少女のドヤ顔聖女譚というものを書き始めました。

https://kakuyomu.jp/my/works/16817330654620419684

一応、惑星ノエルが舞台なのでノルンやクーフィーがいた世界での出来事です。

でもスピンオフ扱いとはではなく単体の作品です。

語尾にニャを付ける女の子が書きたかった……

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