【ノルン - 1】 少女は旅に出る

※2 少女は夜逃げする から続くノルンの昔話です。【ノルン - 13】まであります。



「さようなら、父様、母様、みんな……」


 振り返りもせずただただ公都を背にノルンはひたすら歩き続けた。

 もう歩いてどれくらいの時間が経っただろうか?

 公都で祭が燈す光りも届かないくらいには歩いただろうか?


 リリシュタイン大公国内そのものが城壁で覆われている為に魔獣の類を見かけることは稀だ。

 特別これといった名産もない国だが街道は舗装され、夜でも商人の馬車が行き交う商業国だ。所々に集落があり警備兵が巡回するくらいには治安が良い。

 国の奥に行けば魔の大森林と呼ばれる不穏なエリアはあるがそれを除けばこんな安全な国は他にはないだろう。


 彼女は月が照らす街道を1人歩く。

 時折、風を浴び、見上げれば星の海。

 

 内心少し怖いな……なんて思っていたが外に出てみれば、なんてことない、こんなものか、と拍子抜けしていた。

 家にも縛られない、婚約など考えることもない。

 1人ただただ夜道を歩いた。

 夜道を歩き一番大きい街まで今日は進みたいな。


 ひゃっほー!!


「お祭りだったからかな〜?警備兵も多い気がするし人の往来も結構あるのね」


 街道の至るところに警備兵がいる気がするし、振り向けば何人かの警備兵が常にいる。


「こんな夜道の街道でも安全に進めるのは警備兵のおかげなのね……お父様も君主としては立派なのよね」


 ノルンは今まで見たことない国の一面に感心し、偶に街道沿いに立っている警備兵に会釈をしたりしていた。

 休憩で椅子を出して座ってると警備兵が3人たまたま近くで休憩らしく、せっかくなので「ご苦労さまです」のノリでお茶を差し入れなどした。今までのノルンであればそんなことはしない。前世の記憶や治安の良さに感動した手前そんなノリが生まれたのかもしれない。

 外套のフードを深めに被ってるしドレスも来ていない、どこからどうみても冒険者な自分がノルンとはバレないだろう。と彼女は普段しない行動をする。


「皆さん、警備ご苦労さま。皆さんのおかげで夜道も安全に歩けるのよね〜。お茶と私特製のレーションどうぞ〜。」


 この世界のご飯も保存食もとにかく不味い!

 ノルンは家出を決めてから夜な夜な台所に忍び込み、前世知識作った固形レーションである。ナッツ類を小麦粉やカラメルで香ばしく甘く焼いて固めたブロックタイプである。


「「「…………」」」


(反応が……警備兵って話かけちゃだめ!?)


「「「恐悦至極に存じます!」」」

 警備兵達は拳を握り胸に手をあてる


(あらあら冒険者にしかみえない私にも丁寧なのね……って女の子?)


 暗がりにゴツい金属製の鎧なのもあって自分よりも明らかに背が高い為に性別がわからなかったのだが、どうやら女性の様だ。

 警備兵って革鎧じゃなかったっけ?とは一瞬思ったが細かい所までノルンはよく知らない為に、まあいっかとなった。


 辺りには香ばしく甘い匂いが漂う。

 無我夢中でレーションを食べる警備兵の女の子達。


「ボリボリ……甘い……おいし……」


(でしょ!?でしょ!?でしょ!?この世界のクソマズレーションとは違うでしょ!?)


「ノ……え〜と、冒険者の御方……こちらはどちらでお買いになられたのでしょうか?」

「ふふ〜ん!これは私が作ったの!美味しいでしょ!?」

 暗がりでフードも深く被っているし表情は見えないがノルンは恐らく得意げな表情をしてそうな声色だ。所謂ドヤ顔だ


「大変美味しゅうございます!こ、これをノ……いえ冒険者殿が……」

「こ、この他に何か美味しい物は……?」

「こ、こらオリヴィア!ノ……冒険者殿……申し訳ございません」


 随分と腰の低い警備兵だなとノルンは思ったが、そう教育されているのかもしれない。

 それよりも――

「やっぱり気になる〜?他のも気になるよね〜?」

 前世の知識で作った物をひけらかしたいノルンは調子にのり、ノリノリとなる。

 実家で前世の知識無双が出来なかった彼女は溜まっていた。ノルンは知識無双をしてみたかった。

 

 マジックバックから調理器具と食材を取り出した。

 彼女が作ろうとしてるのはなんてことないパンケーキだ。パンケーキは色々あるが今回はホットケーキに近い。ベーキングパウダーなんて凝った物はこの世界に無いが錬金術もとい化学がそこそこ発展したこの世界には重曹がある。

 台所からくすねた小麦粉、水、卵、重曹、ノルン特製豆乳、砂糖、塩少々をよく混ぜる。

 エーテルコンロに火を入れフライパンにバターを引き中火で熱す。あとはおなじみの焼き方でふわふわにするだけだ。

 地球人であれば誰でも作れるただのホットケーキ寄りパンケーキだ。

 だがしかし、甘味など薄味のクッキーや果物を砂糖煮するなどくらいしかバリエーションがないこの世界。


 ぜったいドヤ顔出来る!

 そう考えていた。


 皿に重ねたパンケーキにバターを乗せ、砂糖を煮詰めて作ったカラメルソースに蜂蜜で風味を整え上から垂らす。知識無双はこれで十分なのだ。


 そもそも蜂蜜や砂糖が高級品ではあり冒険者が持ち歩く様な物ではなく、旅で食べるとすれば定番の干し肉にクソマズレーションくらいなのだ。でもこんな街道でなにもない場所、今までに嗅いだことが無い、砂糖を焦がした極上に甘い香ばしい香りが辺りに漂う。警備兵?の彼女達は、今までに無い甘美な刺激を与えられていた。


「ふふふ〜ん、しっかり味わってくれたまえ」

 ドヤもドヤ顔で彼女は人数分分け与えた。


「「「至極恐悦に存じます〜〜!」」」


「お肉みたいにフォークとナイフで食べるのよ〜」

「おいしいれふ〜」

「この仕事やっててよかった」

「リリシュタイン大公国に生まれて良かった」

「でしょ!?でしょ!?でしょ〜!?」

 とウザいくらいにドヤしながら自分も甘味を楽しんでいた。


「ドヤったノルン様かわいい(ボソッ)」

「ん?いまなんて?」

「いえ、なにも……本当においしゅうございました。」

 まあ、一期一会だしこのぐらいならいいよね。なんてノルンは思っていた。


「ふあ〜眠くなっちゃった……この辺でそのまま野営しようかな……警備兵その辺にいっぱいいるし大丈夫よね」


 マジックバックからコテージを取り出し寝る準備をした。警備兵もいっぱいいるし最上級の結界魔道具も使わなくて良さそうだ。

 

 そもそも、警備兵は街道の至るところに普段はいない


「御身は我々が命に替えても守ります故、どうぞごゆっくりお休みになられてください」


(え……餌付けしたくらいで跪くなんて……少し引くんだけど、まあでも安心かな)


「あ、ありがと……これ私が植物から作ったミルクだから良かったら警備兵の皆さんで飲んでね、じゃあおやすみ」


 そもそもこの3人は警備兵ではなく騎士だ。

 そんなことをわざわざ考えたりもしないホンワカマイペース姫ノルン。慣れない10km近い本人にしては長距離徒歩で疲れたのかだだっ広いコテージのベットの上で意識を放した。




「ふぁ……6時くらい?」


 いつもと違う天井が視界に這入った。でも彼女はお決まりのセリフは発しない。

 コテージが思った以上に快適すぎてノルンは10時間ほど眠っていた。

 一人暮らしするなら別にコテージでも良いな、なんて考えていた。

 ひとまずコテージに常設してる魔道具シャワーで朝シャンし、さっぱりしたところでさて朝ご飯でも作るか〜とノルンは張り切っていた。

 前世ぶりの自炊である。昨日のはお菓子みたいなものだし1人じゃなかったしノーカンだ。彼女にとって自立して一人で食べてこそ自炊なのだ。

 

 干し肉を少し水で戻したなんちゃってベーコンエッグに、塩味にあうパンケーキでも焼くべーと、新生活に感極まりながら彼女はコテージを出た。


「あ、あれ……まだいたの?」


 コテージから出れば騎士娘2人がいて、いきなり跪いた。

 1人は警戒の為に少し離れている様だ。

 

 ノルンはフードを被らずに素顔を晒していた。そもそも社交の場にあんまり出なかったし警備兵なら私の顔しらんやろ、フード邪魔だし。と割と適当な理由で晒していた。


「なんでこっちみないの……?ねえちょっと……?こっち向いて」


 「ねえちょっと」が1回目の面をあげよに該当し、「こっち向いて」が促ながされたこととなり騎士娘は顔を上げた。


「お、おぉ〜〜……か、かわ……おはようございます!我が身は御身の為に……」


(は……?)


「そ、そんなに美味しかったの?」

 

 食い意地張ってんな〜と思いながらも若い娘だし仕方ないか〜とノルンは一人で納得していた。肉体年齢で言えばノルンも永遠の15歳の若い娘だ。


 ちなみにノルンが警備兵だと思ってる騎士娘3人も食い意地ではなく、大公王の命で来ていた。


「それは天にも昇る心地……いえ、違います我らは……」


(あらあら本当に餌付けしちゃったかしら……)


 ノルンは彼女達が食い意地で残ってしまったと思っている。あながち間違いでもないのだが、彼女達の任務は警備ではなくノルンの護衛だ。彼女達はいわゆる上級近衛兵。エリートである。しかもバレない様に大動員された警備兵のうちの一組という設定だ。

 ずぼらなノルンは旅という名の家出計画を日記に書き起こし、そのままにしていた。うっかり見てしまった侍女により報告され元々家出はバレてしまっていた。

 ノルンの両親は彼女のことを愛しすぎていた。不老不死になり元々社交からも遠い我が子のことを考え家出という名の旅を黙認していたのだ。

 『可愛いい子には旅をさせろ』なんて言葉がこの世界にもある。ズレたコミュニケーションしかとれない過保護な親故にこれぐらいのことしか出来なかった。過保護故に警備兵や騎士を2000人動員してしまったのだが……ノルンは警備兵が沢山いて治安いいな〜くらいにしか思っていない。


「まあ、警備兵のシフトとかもあるわけでしょ?朝ごはん食べたら帰った方がいいよ?」


 ちなみに冒険者気分のノルンは前世の異世界小説知識で、なめられない様にとタメ語を使い始めていた。


「……しかし、よろしいのでしょうか?」


「いいのよいいのよ〜!食べていきなよ〜!それに硬っくるしい言葉使いやめようよ〜こんな一介の冒険者にさ〜」


「「!!!」」

「オリヴィアどうすれば……ボソッ」

「わかんない!ガーネット呼ぼう……ボソッ、ガーネット!!」

「どうしたマリー!?ノ……いや冒険者殿になにか!?」

「ゴニョゴニョ……」

「まじ……?」


(なになになんなの?この子達……私の悪口かしら……あ!なるほど?)


 職務中一般人には敬語で話さなきゃいけないのかもしれない、前世の警備員もそんな感じだっよなと考え一人で納得していた。


「あ、別にいいわよ〜、なにかあるんでしょうふふ」


 ノルンはなにかを察したような笑顔を向けた。だが騎士娘達には全てを見透かした様な笑顔に見えていた。しかも国の宝とも言われる絶世の美貌でだ。わかってるわよわかってるわよ〜とさえ聞こえてきそうだ。


 そこで彼女達は一つの答えに辿り着いた。

 

 恐らくノルン姫は自分達の正体に気付いている。それでも核心へ迫らず慈悲深い笑顔を向けてくださる。


「やさしいし、かわいい……女神か……」

「失礼ながら、我らは……貴女様へタメ語では話すことは出来ません……(不敬罪で)首が飛びます」


(タメ語使うと解雇クビなんだ……)


「ま、まあ大変な職場なんだね……なんかごめんね(うちの国が)……まあご飯出来たから食べなよ」


「「「至極恐悦に存じます!!」」」

「みんな元気だね〜」


 ズレたまま会話は繋がり皆で朝ごはんとなった。

 簡単な材料にみえて食べた事もない朝ごはんを食べ騎士娘達は涙を流していた。


(あらあら、これ以上の餌付けはマズいわね)


「じゃあそれ食べたらお別れね……私、次の街まで行くから」


「いえ、お待ちを!!」

「お供致します!!」

「私共は御身と共に参ります」


(そんなに美味しかったの?)


「仕事あるでしょ、大丈夫、大丈夫だって……」


 飯与えたら護衛になるんじゃね?とも少し考えたノルンだが仕事あるだろうと気を遣った。


「護衛も我らの仕事の内でして、私共は……そ、そうですね……ルーティーンに縛られない上級自由騎士なんです」


 なるほど?とノルンは思ったがまあ街まで護衛してくれるならしてもらおう、くらいでいた。だだ餌付けはほどほどにしようと考えていた。


「あら〜そうなの!まあ、じゃあよろしくね〜」


 ノルンと騎士娘のオリヴィア、ガーネット、マリーの4人で隣街までの旅が始まる。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ここまで読んでくださりありがとうございます!


ノルンがんばれ!強くいきて!

ノルンかわいい!


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