第36話 サプライズ
カーテンから夕焼けの光が差し込む時間。
「お、そろそろ真白姉ぇ帰ってくるんだって。今最寄り駅に着いたって連絡きた」
「もうそんな時間……」
「あはは、確かに早いね」
リビングで
自宅にゲーム機がない遊斗は、スマブラというゲームで二人に完敗したが、ギスギスすることもなく楽しめていた。
そして、煽り合いをしながら戦う美結と心々乃を微笑ましく見ていた遊斗でもある。
「あ、美結お姉ちゃん。優斗お兄ちゃんがお家いること、ちゃんと伝えたの?」
「伝えてないよ? サプライズ的な感じの方がいいかなって」
「自分がサプライズになる……かな? それ」
プレゼント品ならまだしも、『人』である。
役不足だと捉える遊斗だが、二人は同意することなかった。
「ちゃんとサプライズにはなる」
「だよねー。また会いたい的なこと言ってたし。真白姉ぇ」
「それ本当!? 実はぬか喜びさせようとしてたり……」
喜びの声を瞬間的に帰る遊斗。
そのまま冗談混じりに疑りの目を向ければ、すぐに否定をしてくれる美結がいる。
「いやいや、マジだって。そんなタチの悪いことしないって」
「美結お姉ちゃんは見た目が派手だから、そう誤解されても仕方ない」
「うわ、さっきのゲームであたしに負けたこと根に持ってるやつだ」
「……そんなことはない。でも、寝る前にもう一回勝負して」
さすがは姉妹と言えるのか、この返事で悔しがっていることを遊斗も悟る。
「別にいいけど、次あたしが勝ったら下の自販機でジュース一本ね」
「わかった。美結お姉ちゃんが負けたら、わたしのジュース買って」
「3本でもいいよ」
「じゃあわたしも3本でいい」
「にひひ、強気じゃん」
話がまとまったようだ。
何気ない日常でもこんなにワイワイしている二人。ここに真白が合流すればもっと賑やかな空間になることだろう。
この中に溶け込んでいると、一人で住んでいる家に帰ることが寂しくも感じてしまう遊斗でもある。
「っと、それじゃあ、真白姉ぇの出迎えは遊斗兄ぃにしてもらっていい? 玄関に立ってもらってさ」
「もちろん大丈夫だよ。今から準備してた方がいい?」
「うーん。メールの送信時間と今使った時間を計算するに……あと8分後に待機で大丈夫そう」
「真白お姉ちゃんは歩幅が小さいから、お家に着くまで時間がかかるの」
「あっ、はは。なるほど」
『ちょっと遅いような』なんて表情を見破った心々乃が丁寧に説明を入れてくれる。
「納得したところ真白姉ぇに聞かれてたら、普通にプンプン怒られてただろうねぇ。あと心々乃の説明も」
「美結お姉ちゃんだって、否定してなかったから怒られる」
「……」
カウンターを食らったように目を丸くする美結。
遊斗は理不尽なところもあるが、各々怒られることを悟った三人でもある。
「ま、まあさっきのやり取りは忘れることにして、よし! 残りの時間はあっち向いてホイで時間潰そ。3人で計10回当てられたら負け」
「よしやろう!」
「遊斗お兄ちゃん乗る気……。意外」
「さっきゲームでボコボコにされたからね。ここでやり返しておこうと」
「いいねぇ、じゃあやろっか!」
「……多分、遊斗お兄ちゃんが負けると思う」
「——え?」
そうして時間潰しで始まる勝負。
この時、遊斗はまだ知る由もなかった。
じゃんけんをする時、美結と心々乃の出し手がほとんど同じになることを。二人から同時に指をさされてしまうことを。
結果、合計で勝敗が決まるこのあっち向いてホイでもボロボロにされることを……。
その8分後である。
「
「もうちょっと前の方がいいと思う……」
「そう? じゃあここで!」
呼び名を変えられる今。
左腕を美結が、右腕を心々乃が掴んで入念な立ち位置の調整が玄関で行われていた。
「じゃああと3分もすれば帰ってくると思うからよろしく! あたしはどんな反応するかこっそり見とくから」
「わたしも見る」
「あはは、多分期待してるような反応は帰ってこないと思うよ?」
「いや、真白姉ぇのことだから絶対驚くって」
「ん」
今までのやり取りから出迎えをすることも多いのだろうと思う遊斗は、笑みを浮かべながら洗面所に入っていく二人に返事をする。
そして、待っていた時はすぐに訪れる。
ペタペタと小さい歩幅の足音が聞こえてくるのだ。
これだけでその人物がわかってしまうのは、なかなかにないことだろう。
遊斗は姿勢を正して出迎えの準備を整えると、鍵を穴に差し込む音が聞こえてくる。
次に『ガチャ』っと解錠音が鳴り、ドアノブが下りる。
そして、ドアがゆっくり開いていく。
「みんなただいまーっ!」
「——おかえり、真白さん」
笑顔で帰宅した彼女に、遊斗は当たり前の表情で出迎えた。
途端のこと。
「……」
「……」
動きが、表情が、全て石のように固まる真白が生まれる。
半歩だけ玄関に入り込んだまま、口を開けたままの真白がいる。
「…………」
「…………」
目を合わせたまま十数秒の無言。
正直、こんなにも固まっているのは予想外の反応。
パチパチとまばたきしながら様子を窺っていたが、もうこれ以上は限界である。
「真白さ——」
と、口にした瞬間だった。
「ぁ、ぁ……あっ!!」
「ま、真白さんッ!!?」
『ガチャン』と、玄関ドアが勢いよく閉まったのだ。玄関に入るわけではなく、外に出た真白に。
「ちょっ、なんで。真白さん逃げないで!?」
「ぷっ、ぷははっ」
「ふふ……」
玄関ドアを急いで開けにいく遊斗は、背後から二人の笑い声を聞くことにもなるのだった。
大学入学時から噂されていた美少女三姉妹、生き別れていた義妹だった。 夏乃実(旧)濃縮還元ぶどうちゃん @Budoutyann
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