第21話 真白③

「わあー!」

 右にあるお店を見て。


「わあーー!」

 次に進んだ先にある左のお店を見て。


「わああーーー!!」

「あははっ」

 その次にまた右にあるお店を見て。


 甘いものが大好きな真白の反応とても面白く、とても可愛らしいもの。

 目をキラキラさせて、一店舗一店舗見逃さないようにキョロキョロと首を動かしている姿を見るだけで、食べ歩きを選んでよかったと心の底から思えるくらいに嬉しく感じる。

 普段と比べて少し大人っぽさが欠けているのは、好物に当てられているということでご愛嬌だ。


「新鮮な反応をしてくれるなぁって思ったけど、時期的にも駅周辺を見て回る機会ってまだ少ないよね」

「そうなんですっ。最近まではちょっとスケジュールの関係でバタバタしていたので」

「なるほど。引越しとかあっただろうし、家具とか揃えたりしないとだもんね」

「……そ、そうですね!」

 少し検討外れなことを言ってしまったかのような間があったが、それ以外には考えられない。恐らく考えすぎだろうとの結論を出す遊斗。


「もう食べたいものが複数見つかったんですけど、遊斗さんはどれが食べたいですかっ?」

「そうだなぁ。じゃあまずはたい焼きが食べたいな」

「あっ、実は私も狙ってまして! 気が合いますね!!」

「そうだね」

 なんて微笑んで答える遊斗だが、『わああーーー!!』と真白の反応が一番大きかったお店を選んだのは……内緒。

 悟られないように、「じゃあ並ぼっか」と数人のお客さんが並んでいる列を指差して言う。


「ふんふん〜ふ〜ん」

 音符がつくような鼻歌が隣から聞こえてくる。

 素でこんなにご機嫌なのだろうが、だからこそ人を喜ばせるのが上手な真白。

 彼氏がいるか、いないのか。それは明確に聞けていないが、デートをする度にこんな姿を見せてくれるとなると、愛しい存在としてずっと映り続けるだろう。

 そんなことを思っていると、注文する順番となった。


「はいお客さん、ご注文をどうぞー?」

「遊斗さんはなににしますかっ?」

「自分は小豆あずきあんこで」

「それだけで大丈夫です?」

「……う、うんうん」

 たい焼きは一個でも十分お腹に溜まるものだと思うが、昨日のファミレスでの真白の食事量と、好物だということを考えるに、彼女からすれば少なく感じるのだろう。

 実際に不思議そうな顔で聞かれた。

 そして、この予想は正しかった。


「わかりましたっ! では小豆あんこが5つと、カスタードが3つ、抹茶を3つください!」

「はいよお!」

「あんこ3つは個別で、残りは箱に入れていただけると助かりますっ」

「かしこまりー! お会計が2200円になりまーす!」

 お魚さんが二桁焼かれることになってしまった。

 こんな量を一人で全部食べてしまうのかと思ったが……『3』という数で次女や三女の分まで入っていることを察した。

 それでも真白が食べるはずのたい焼きは合計で5つである。


「遊斗さん、これは妹の分も入っているので私が出しますね」

「じゃあ自分の注文分だけでも……」

「バッグのお礼もさせてください?」

「お礼されるようなことはしてないのになぁ」

「実は長女のプライドです」

「嘘つき」

「遊斗さんほどじゃないですもん」

「あはは」

 自白してしまったような言葉、さらにはむーと眉の形を変え、頬を膨らませたその表情を見て思わず笑ってしまう。

 正直なところ一本取られてしまったが、焼き立てのたい焼きを手に取ってからは、その鋭さが消えた真白だった。




「二人の分のたい焼きも買ってあげるところとか、さすがはお姉ちゃんだね」

「……これは内緒ですけど、もし残ったら私のものになるので得なんです」

「くふっ、なるほどね」

『お得』とは言えないことを超がつくほどの真顔で答えてくれる彼女は、「いただきます」と言ってたい焼きを大きく頬張った。


「美味しい?」

『コクコク』

 幸せそうに目を細め、もぐもぐ口を動かし、首を大きく縦に振って質問に答えてくれる姿は、まるで子ど……微笑ましい気持ちになる。

 遊斗も同じようにたい焼きを口に運び、真白の歩くペースに合わせてゆっくり足を進めていく。


「次はなにを食べよっか」

「……個人的にはいちご大福か、クレープを狙っています」

「おお……」

 本当に狙っていることがわかるような、すごい眼光の鋭さだ。

 ちなみに小豆あんこのたい焼きを二個持ちながら言っている真白でもある。

 もしこのたい焼きが剣道に使う竹刀しないだったら、猛者の雰囲気をプンプンに感じることだろう。


「いちご大福にもあんこが入ってるから、たい焼きを2個食べた後だとクレープの気持ちになってそうじゃない?」

「あっ、確かにそんな気がします」

「クレープだったら、ここを真っ直ぐ進めば確かあったはずだよ」

「それは嬉しい情報を聞けました。急いで食べないと……」

「ゆっくりで大丈夫だよ。時間にはまだまだ余裕があるから」

「そ、そう言ってもらえる助かります!」


 話の区切りがついたところで、再びたい焼きを頬張った真白。

 一口が大きいのはきっと幸せを噛み締めるためだろう。

「……」

 隣を見れば、右手に持っていたたい焼きが一個消えていた。

 まるでマジックをしているような速さには仰天であり、そんな中で彼女の口元を見て気づくことがあった。


「真白さん、ちょっとこっち向いて?」

『はい?』

 もぐもぐしたまま、首を傾げてこちらを見てくる。

 やっぱりついていた。

 歩きながら小さなお口で頬張ればそうもなってしまうだろう。


「ちょっとごめんね」

 ポケットからハンカチを取り出し、その箇所を優しく拭き取っていく。

 無抵抗……いや、固まっているだけに、その処理はすごくやりやすかった。


「懐かしいなぁ……。こんなこと昔もしてたっけ」

「……は、はぃ……」

 綺麗になった顔になったところでそう問いかければ、消え入りそうな声をあげて目を伏せる真白がいた。

 耳まで真っ赤になっている彼女だが、それは髪のおかげでしっかり隠せている。


「……で、でも、今のはわざとです……から」

「え?」

「く、口についていたのは、わざとです……。わ、私はもう成長したんですからぁ……」

「おっ、じゃあ自分の目を見てもう一回?」

 そんな挑発に乗ったのか、紅葉に染まった顔で目を合わせてくる。


「……」

「……」

 一秒、二秒、三秒。


「い、今のは、その……その……」

「そのー?」

「うぅぅ……。もう意地悪しないでくださぃ……」

 とうに限界は迎えているようだった。

 頭からぷしゅーとした音を漏らすような真白は、手頃だったのか、手に持ったたい焼きと、空いた片手を使って顔を隠し始めた。


「み、美結と心々乃には内緒ですからね……」

「あははっ、それはもちろん」

 遊斗とのお出かけが本当に楽しい。そんな気持ちに身を任せた結果、こうなってしまった真白だった。


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