第22話 真白④
たい焼き、クレープ、お団子、次にソフトクリーム。
そんな順番で駅周辺を回った二人。
今はベンチに座って(口元につかないように)ちびちびとソフトクリームを食べている真白を見ながら、遊斗もソフトクリームを食べていた。
「あ、あの……遊斗お兄さん」
「うん?」
「私の口元にアイスがつくかどうか、楽しんで見ていません……? なんかそんな視線を感じます」
「み、見てないよ? うん」
そんなつもりはなかったが、責めの声を聞いてしまい変に動揺してしまう。
「今のうちに言っておきます。もうあんなに情けない姿は見せませんからねっ!」
「あははっ、わかってるよ」
本来の人なら怖さを感じてもいいはずの忠告だが、全然怖くないのが彼女であり、思わず笑みを浮かべてしまう。
「ちなみに。そんな目で見てたわけでもないよ? 」
「本当ですか? では……どんな目で見ていたんですか」
丸くて大きな目を持っている彼女であるばかりに、ジト目になればまた別の可愛さがある。
ちなみに眉も動かして冗談めかしている。
そんな表情豊かな義妹に遊斗は本心を口にするのだ。
「しみじみした感じになっちゃうんだけど、本当に懐かしいな……って。昨日も顔を合わせたけど、十数年と会ってなかったからこの感覚がなかなか抜けなくて」
「あっ、昨日と違って今日は
「うん」
強調したことを聞こうとすれば、先に口を開かれる。
「……な、なんだか今さら緊張してきました」
「ええっ!?」
「や、やっぱり今の発言は冗談です……」
「ほう? それは本当かなあ?」
覗き込むように上半身を動かせば、ぷいっと大胆に体を背けられる。
自分の口から『二人きり』と強調したことで、なにか感じる部分があったのだろう。
「……そ、それにしても! 遊斗お兄さんはここ周辺のこと詳しいですね?」
「まあ自然に詳しくなるよ。あの大学の二年生だし、バイト先は駅の中だから」
『方向音痴を持っているから、意外に思うのだろうか?』なんて思いながら答えるも、その予想は外れる遊斗である。
「いろいろな女性とこの周辺を回った結果、詳しくなったり……とか」
「ッ! ごほっこほっ。そんなわけないでしょ!?」
「でも、すごくリードしてくれますもん……。慣れていないとこんなことはできないと思います」
「真白さんは甘いもの好きって記憶があったからだよ? それは」
遊斗は事実を言っている。あの記憶がなかったら、食べ歩きをするという案は出なかった。
「それに昨日も言ったけど……自分は全然モテないんだから。彼女もいないし」
「……正直、意味がわかりません」
「そう言われる意味もわかりません」
真顔で言い合う二人。
『モテてるだろおまえぇ〜』
『モテねえんだよぉ〜』
こんなことことで相反する二人である。
「だって……遊斗お兄さんすごく優しいじゃないですか」
「大人になればみんなこんな感じだよ? 実際」
「とっっってもってくらいに気遣ってくれます」
「ん? 家族なんだから当然でしょ?」
「……そういうところを言ってます」
「へ?」
当たり前の顔で、さらには即答して言うところ。
『家族だった』なんて過去形や、『元家族』なんて言わないところ。
確かにこれは真白の言う通りだろう。
「その他にも……身長が高いです」
「ま、まあ確かに身長は大きい方だけど……」
「足のサイズも大きですよね」
「うーん。この身長だったら普通くらいだと思うよ? 27cmあるかないかだし」
「にっ、27cmですか!?」
「う、うん……」
「それは……モテますよね」
「いやいや……」
周りの空気が歪んで見えるほど真剣な表情で疑り深そうに聞いてくるが、ここは完全に彼女のコンプレックスゾーンに踏み込んでいるからだろう。
足が大きければモテる、なんて話は聞いたことない。
「……だって、手も大きいです」
「確かに手は大きいって言われるかも。20cmくらいだから。物測る時に便利だから知ってるんだよね」
「あっ、そうですよね……! って、ににに20cmですか!?」
「あははっ、すごいでしょ?」
「あ、あの……その……嫌でなければ、ちょっと私と重ねてもらってもいいですか?」
「うん、そのくらいなら全然。嫌でもないよ」
アイスクリームを持っている手とは逆の手のひらを真白に見せれば、すぐに(小さな)手を合わせてくる。
「……へっ、私の手……遊斗お兄さんの第二関節にも届いてないじゃないですか!」
「そ、そうみたいだね?」
「さすがにそんなはず……そんなはずは……」
むーんと手を広げて伸ばそうとしているが、そんなことをしても限度がある。
彼女の柔らかい手の感触がさらに伝わってくる。
「こ、こんなに私は小さくなんか……」
「……」
一生懸命頑張っているも、数十秒後には悟ったのだろう。
最終的には手首の位置をズラして第二関節に合わせてきて——なんとか自身を納得させようとしている。
そんな中、遊斗は我慢の限界を迎えていた。
ただ手を合わせるだけならまだしも、にぎにぎとするような動きを真白がしたためである。
手を繋ぐようなことに耐性がない分、顔を朱色に変化させながら伝えるのだ。
「ま、真白さん? その……そ、その辺で?」
「あっ、す、すみません……! 本当にすみませんっ!!」
手を合わせた状態で目が合った瞬間、パッと手を離してくれる。
顔を赤らめるのは彼女も同じで、手を繋ぐ行為に等しいことをしていると理解したのだろう。
「……」
「……」
急に気まずくなり、無言になる。
少し責任を感じたのか、この静寂を破ったのは……真白だった。
「あ、あの……」
「なっ、なに?」
「遊斗お兄さんのおてて、すごく大きかった……です……」
「そ、そんな感想言わなくていいよ!? って、ああっ!」
真っ赤にしながら伝えてくる真白に、さらに照れてしまう遊斗に悲劇が襲う。
ずっと手に持っていたソフトクリームが溶け、手に垂れてきたのだ。
「あ、はは……。こんな経験は久々だよ」
「で、でもアイスクリーム買っててよかったですね」
「ま、まあね」
ハンカチで手を拭き、お互いにアイスを食べながら火照った体を冷ましていく。
それでも手に残るあの感触とあの体温だけは……双方とも消えることのないものだった。
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