第17話 Side三姉妹 帰宅後
時刻は22時過ぎ。
電車を使って帰宅した三姉妹。
そのお部屋の中はこんな風になっていた。
「——うんうんっ! 遊斗お兄さんと会えたの! 昔と同じですごく優しかった! あとね、私のお料理も美味しそうに食べてくれたの!!」
リビングでピョンピョン跳ねながら、ぱぁぁああとした顔で今日のことを母親に電話している真白。
そんな長女を邪魔しないように、仕事部屋には二つの影があった。
「うわ、もうラフ絵描き始めてるし」
「ん、今のうちに描きたかったから」
白色のアーロンチェアに座り、イラストを描く機材の液晶タブレットに向かい合っているのは心々乃。
デスクの上にはプリントアウトされたファミレスでの集合写真が置かれている。
「これ、もしかしなくても遊斗兄ぃを男役に使おうとしてるでしょ? って、よりにもよって頭撫でてもらう構図だし」
「……ダ、ダメ?」
「いやいや、ダメでもないし文句もないけど、そんなにしてほしかったならそう言えばよかったのにって。正直言えたでしょ? あんなに優しい雰囲気持ってたんだから」
「……うるさい」
「別にうるさくはないと思うけどねぇ」
小さな頃はよく頭を撫でられていた心々乃。本人もそのことを覚えているからこそ、この構図を描こうとしているのだろう。
「『可愛い』って褒められた時でしょ? そう思ったの」
「……教えない」
「にひひっ」
否定しないあたりが図星である。
「心々乃がその手のやつ描くなら、あたしも真似して投稿しようかな。一つ描きたい構図あるんだよね」
「どんな感じ……?」
「背徳感系。二人の姉妹にはバレてない感じでこっそりやり取りしてる的な」
「……もうわかった」
声を落としてジトーとした目を向ける心々乃。
遊斗の連絡先を(こっそり)もらっていたことは本人から教えてもらったのだ。
『背徳感』と言えば、そこくらいしかない。
「もちろんシチュエーションは変えるけど、秘密の関係的なところ押し出せば、大当たりしそうじゃない?」
「大当たりしたら、えっちなのも……描く?」
「はっ!? モデルがモデルなんだから無理でしょ」
「……」
当たり前のツッコミに、バツが悪そうに視線を逸らす心々乃である。
「ま、まあ……心々乃の立場になれば仕方がないんだろうけどさ? 全部ソッチを期待されてるわけだし」
「……ファンの人、本当にえっちな人ばかりで困る……」
表情を変えずに心の底から放つ三女だが、ここでも『はあ? なに言ってんだ』となる次女である。
「いや、あんたがむっつりスケベだから同志が集まってくるんじゃん」
「ち、違うもん……」
「違くないし」
「そ、そんなこと言う美結お姉ちゃんも、最近えっちなのよく更新してるくせに……」
「よく更新してたところで、心々乃とは桁が違うんだけど」
「っ……」
そんな言い合いを繰り広げていた矢先だった。
ペタペタペタペタと廊下を走ってくるような足音が近づいてくる。
「——け、喧嘩!? 喧嘩はダメだからね!」
母親との電話が終わったのだろう。目を大きくさせて前のめりになる真白が登場した。
ドアの真ん中に立っていることで、長女のちっちゃさはより目立ってしまっている。
「いや、喧嘩なんかしてないって。ただのじゃれあい」
「うん……」
「それならよかった! って、心々乃もう始めてるの!?」
「始めてる」
美結と同じ反応をする真白。本当に似た者同士で……この部屋にはようやく三人の“プロ”が集った。
PN、みっゆ。
Twittoのフォロワー数は241,813人。月額のメンバーシップには30,713人。
PN、こっこの。
Twittoのフォロワー数は204,951人。月額のメンバーシップには66,381人。
三姉妹で活動していることはプロフィールで公表していることで、それぞれが20万人以上のフォロワーを持っている業界でも有名なイラストレーターである。
そして、メンバーシップにこれだけの差がある理由は——R-18の投稿数の違い。
「あっ、もしかして遊斗お兄さんを素材にして描こうとしてる?」
「真白お姉ちゃんも?」
「うん! わたしも遊斗お兄ちゃんとの一幕を描こうとしてて!」
「へえー。ちなみにあたしも描くつもりだから、インプレッション上げるためにみんなで投稿時間合わせてフォロワーに誘導しない? 『生き別れの兄と再会した①、②、③』的な感じでさ」
「いいねっ!」
「……賛成」
20万人越えのイラストレーター3人での誘導。こんなやり方が簡単に取れるのが、三姉妹の強いところ。
「まあ、それからはエロ描きたかったらエロ描けばいいし」
「へっ!? 遊斗お兄さんを素材にするのに、え、えっちなの描くの!?」
「心々乃の場合はそうじゃないと需要に答えられなくない? もちろんそれ考えると似せ方は考えないとだけど」
「あ……」
「……」
ニの句が継げないような真白の返事を聞き、顔を伏せて耳まで真っ赤になってしまう三女。
「で、でも! でもだよ!? もし遊斗お兄さんにバレちゃったらとんでもないことになるよ!?」
「バレなければいい……。過去絵を見られたら、どのみちダメ……」
「てかさ、プロフィールにそれぞれのID公開してるから、一人バレたら全員バレるじゃん? これだけはマジで気をつけてこ」
「そ、それは絶対だね!」
「ん……」
健全なものだけを描いていれば、堂々と教えられただろう。
しかし、収入や幅を広げるために足を踏み入れたコンテンツがコンテンツ。
バレた瞬間、顔を合わせられなくなるようなイラストを描いている三人なのだ。
「そ、そう言えば美結お姉ちゃん……」
「ん?」
「
恥ずかしい話題であるばかりに話題を逸らす。
「
反響はどうか、ということだろう。
ポケットからスマホを取り出してアプリを開く次女。
「は?」
「……み、美結?」
「どうしたの……?」
長女と三女が見るのは、目を擦って画面を見て、また目を擦って再び画面を見る美結である。
「あ、あのさ……? なんかとんでもないくらいにバズってるんだけど、これ大丈夫よね……?」
「……」
「……」
「で、でもさ、遊斗兄ぃが自由にしていいって言ったじゃん?」
スマホを二人に向けた瞬間、目を丸くして顔を青白くする長女と三女。
二人が見たのは、異常なコメント数と異常ないいねの多さ。
「え、えっと……悪ふざけな題名にするのはわかってたけど、『デート♡』にするとは思わなかったな……お姉ちゃん」
「こ、このコメント見て。遊斗お兄ちゃんが三股してることになってる……」
「
「なんか明日の大学ヤバそーだね……? 特に遊斗兄ぃが」
同意見だというように顔を合わせる三姉妹。
『三股』というのは、遊斗と付き合っていなければ成り立たないこと。
『
この手のコメントになにもツッコミを入れず、違和感すら感じていない三姉妹は気づいていなかった。
それだけ義兄に対して好感を得ているということに。
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