第14話 再会の日⑦

 まだ一時間と経っていないとあるSNSの投稿に関するコメント。


『えっ、その人彼氏!? めっちゃイケてるじゃん!』

『えっぐい優しそうな雰囲気してる(笑)』

『めちゃくちゃ楽しそうでいいね!』

『相変わらずみんな仲良さそうでよかった!!』

『んえ? 美結ちゃん彼氏できたの!?』

 地元の友達からはそんなコメントが。


『え?』

『デート……? 嘘だろ?』

『その男、なんでそんなに溶け込めてるんだ?』

『さ、さすがに3人の彼氏ってことはないよな!?』

『ソイツ誰だよ!?』

 旧白埼しらさき大学に通っているフォロワーからはこんなコメントがずらずらと届いていた。

 その反響は群を抜くもので、注目の浴び方も拡散のされ方も凄いものだった。


『美結ちゃんが男の人の写真出したの初めて見た!』

 そのコメント通り……異性に初めて触れた美結の投稿だからこそ、ワーワーなるのだ。

(これガチもんじゃね!?)と。


 そして、そのような状況になっているなど知る由もない男は——。

「うえーい」

「わ〜」

 美結と心々乃がベッドにダイブする姿を見て、優しい笑顔を浮かべていた。


「こらぁっ! 人様のベッドでなんてことしてるのっ! 早く起きなさいっ!!」

「あはは」

 コンビニから自宅に着いた現在、遊斗の寝室では賑やかなやり取りが繰り広げられていた。

 両手を腰に当てて怒っている真白だが、この二人にはなにも効いていない。

 こんなにもぷりぷり怒っているが、その姿が可愛く見えるせいだろう。

 こればかりは容姿のせいである。


「まあまあ。遊斗兄ぃが『いいよ』って言ったんだし」

「えっ!? そうだったんですか!?」

「特に困ることもないからね」

 なぜか小声で確認を取ってきた美結と心々乃だが、長女を驚かせるためだったのだろう。


「これいいベッドだよマジで。真白姉ぇもおいでよ」

「うん、気持ちいい……」

「……で、でも、その……」

 さすがは三姉妹。やりたい気持ちは同じなのだろうが、注意した手前、なかなか行動に移せない様子。

 上目遣いで遊斗を見て、ベッドに寝転ぶ二人を羨ましそうな目で見て、また遊斗を見る。

 どうしてこんなにも感情が伝わってくるのだろうか、小動物のような動きを見せる真白に微笑みながら頷けば——。

「っ!」

 一瞬で、にぱあっと明るい顔になる。

 それからは両手を上げて、ボフッと空いたスペースにダイブした。

 一番のまとめ役でしっかりしている真白だが、こうしたところは年相応と言えるのか、少し見た目相応にも思える。


「それにしても遊斗兄ぃの部屋ってめっちゃ綺麗だね。失礼だけど男の部屋ってもっとゴチャゴチャだと思ってた」

 男の部屋に一度も入ったことのないようなセリフを言う美結は言葉を続ける。


「まあ女をいつでも連れ込めるように的な? てか連れ込んでるでしょ」

「そんなこと一度もしたことないからね!?」

「ほん……と?」

「本当ですか?」

「そ、そんなみんなで疑わなくても……」

 モテていそうだと思ってくれるのは嬉しいことだが、遊斗は本当のことを言っているだけ。

 必要最低限の物しか部屋に置いていないため、散らかることがなく、掃除も楽。というのが部屋が綺麗になっている理由である。


「っと、気が利かなくてごめんね。奢ってもらった自分がこんなことを言うのはなんだけど、みんな飲み物はなにがいい? 注いでくるよ」

「あ、じゃああたしが遊斗兄ぃの手伝いするよ」

「ううん、わたしが遊斗お兄ちゃんのお手伝いする……」

「ここはお姉ちゃんの私がしますっ」

「……ふっ」

 ベッドの上でリラックスをしていた三姉妹だが、この流れになった瞬間——一人ずつ、リズムよく上半身を起こしていく。

 打ち合わせしていたような行動に思わず笑いが込み上げてしまうが、これが三人にとっては当たり前なのだろう。


「いやいや、ここはあたしに任せなって! 一番最初に言ったのあたしだし!」

「それでも……一番下の妹がやるべき」

「一番のお姉ちゃんがするべきですっ」

 なにやら言い合いが始まった。

 面白いのがギスギスを感じないというもの。それぞれ違った性格を持っているからか、微笑ましい気持ちで見ていられる。


「しばらく見ていない間に本当に立派になったね、みんなは」

「えっ?」

「え?」

「え……」

「そうやって率先して動こうとしてるところとか」

 遊斗が口を挟めば、長女、次女、三女の順で首がこっちに向く。


「だって、普通なら言い合いするようなことにはならないでしょ?」

 三姉妹はベッドでゆっくりしていたのだ。体を動かすのは面倒くさいはずなのに、全員がサボろうとしない結果が今である。

 みんながみんなのことを思い遣っている証拠で、円滑な生活を送っていることがわかる。


「え、えっと……確かにそうかもしれませんねっ」

「ま、まあね?」

「う、うん……」

 ニッコリとした表情で言う遊斗を見て、なぜか気まずそうに顔を逸らす三人である。


「じゃあここは年上の自分がみんなの分を持ってくるね。確かトレーもあったと思うから」

「そっ、それはさすがに申し訳ないので、自分の分は自分で注ぎますっ! ねっ?」

「そだね。それが一番スマート」

「それがいい……」

「あはは、それならみんなで移動しよっか」


 * * * *


「遊斗お兄ちゃん、夜ご飯はどうする……?」

 リビングに移動後。

 ソファーに座る三姉妹と、お菓子が並んだテーブルを挟んで一人用の椅子に座る遊斗は、心々乃からの質問を受けていた。


「外食するのがいいかなぁって思うんだけど、みんなはどうかな?」

「ほら真白姉ぇ。パスしてくれたよ」

「っ! あのっ! も、もしご迷惑でなければ私がお料理を作っても大丈夫でしゅか!?」

 緊張の発言だったのか、思いっきり噛んだ。

 途端に頭が下がった。


「えっ、真白さんお料理作れるの?」

「うん……。お料理担当は真白お姉ちゃんなの」

「もうずっと遊斗兄ぃに『手料理食べさせたい』ってそわそわしてたから、ここは花持たせてくれたら嬉しいなーなんて」

「ど、どうでしょうか……?」

 顔を真っ赤にして、もじもじしながら再び確認を取ってくる真白。

 目を潤ませて不安そうな様子だが、こんなに嬉しいことを言ってくれているのだから否定するはずがない。


「むしろそれならこっちからお願いしたいくらいだよ」

「真白お姉ちゃんよかったね……」

「だってさ」

「ありがとうございますっ!!」

 ホッとしたような二人と、ぱああと明るい表情になる長女。

 次女、三女から本当に慕われていることがわかる光景だ。


「本当に申し訳ないのは、材料がないから買い出しに行くことになるんだけど……大丈夫かな?」

「もちろん構いませんっ!」

「ありがとね。じゃあ頃合いを見て買い出しに」

「はいっ!!」

 本当に手料理を作りたかったのだろう、目の輝きが凄いことになっている。


「真白お姉ちゃんは手料理食べてもらえるから……買い出しに行く時は、わたしが遊斗お兄ちゃんのお隣……だからね……」

「じゃああたしもー」

「なっ、うぅ……」

 さっきは協力してくれた妹たちであるからこそ、左右を取られても強く言えなくなっている長女。


 昔より何倍も仲良くなってるかも……? そんな風に見つめている遊斗に、こそこそ視線を送っているのは心々乃。

『わたしと隣で嫌じゃない?』そんな確認をしているようで、なにかを汲み取ったように嬉しそうに目を細めていた。

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