第13話 再会の日⑥
「あっ、最後にみんなで写真撮っていかない?」
全員でご飯を食べ終え、『そろそろ会計をしようか』となった時のこと。
陽気な美結からこんな提案をされる。
「十数年ぶりに再会した場所ってことで、なにか形にしときたいなって思って。遊斗兄ぃは嫌?」
「ううん、もちろん大丈夫」
「うし! じゃああたしが撮っちゃうね!」
真白と心々乃に確認を取っていないのは、『いいね!』という気持ちが以心伝心しているからだろう。
美結は内カメラにしたスマホで慣れたように距離を測り、全員が画面に収まるように調整する。
「じゃあ掛け声いくね? 小声で」
「美結、ゆっくりだからね」
「ゆっくり……ね」
「了解! じゃあいきまーす。ハイ——」
——パシャ。
「えっ!?」
「え」
「え……」
「——チーズ!」
パシャ。
計二回のシャッター音が鳴り、写真を撮っていたスマホが下される。
「今二枚撮ったよね!?」
と、当然のツッコミをするのは真白。
「にひひ、ごめんごめん、つい押し間違えちゃって。でも変わらずいい写真が撮れたよ。ほら」
美結が全員に見せるのは、全員が笑顔で写真映りのよい一枚。
三人が素の表情で驚いている中、自分だけニンマリした二枚目の写真はそっと誤魔化すのだ。
生きた表情が映った大好きな写真は、あとでスマホのホーム画面に……。
そんな独占の気持ちを抱きながら、美結は遊斗に視線を飛ばす。
「ね、これ
「あはは、その点も気にしないからご自由にどうぞ」
「ありがと! いろいろ甘えてごめんね。めっちゃ楽しい時間だからみんなに自慢したくって」
「もぅ……。うちの美結がごめんなさい、遊斗お兄さん」
「……ごめんなさい」
「うん? 本当に気にしないから大丈夫だよ」
喜んで許可を出したが、真白と心々乃に謝られる。
今度は強調して返すが、謝られた理由を遊斗は知らなかった。
『超
日常のことしか呟いていないアカウントだが、2万人以上のフォロワーがいる。
大学に入ってからフォロワーがさらに急増したそのアカウントに、自慢の投稿を完了させるのだった。
* * * *
ファミレスを出た後。
電車を使い、遊斗の自宅から最寄りのコンビニの中でのこと。
「これも……。これも……。これも……遊斗さん食べられる?」
「あ、あったら食べるかな」
「わかった」
買い物カゴを持つ遊斗。そのカゴの中にチョコレート、ポテトチップス、クッキー。さまざまな商品をバッサバッサ入れていく心々乃がいた。
「ファミレスでは奢ってもらったので、コンビニでは私たちが奢りますね! 残ったものは遊斗お兄さんが食べちゃってくださいっ」
「ああ、う、うん……。ありがとう」
その様子を見ているはずの真白だが、妹の行動になにも驚いていない。
むしろ『どんどん入れちゃってねっ』なんて気持ちすら感じる。
「ねえねえ、遊斗兄ぃの冷蔵庫ってどのくらい空いてる?」
そんな時に登場するのは、飲み物コーナーにいた美結である。
「冷蔵庫はたくさん空いてるよ」
「じゃあ飲み物たくさん入れちゃおっかね。遊斗兄ぃの好きな飲み物ってなんだっけ?」
「お茶とコーヒーかな」
「コーヒーは微糖?」
「うん、微糖が好き」
「おっけ。じゃあ6本くらい持ってくるよ」
「ありがとう。……え?」
自然に言うばかりにその本数に気づけなかった。
聞き返した時にはドリンクコーナーのドアを開け、両手に飲み物を抱え始めた美結がいる。
「遊斗お兄さん、アイスはどうですかっ? こっちにあるのは新発売だそうです!」
「え、えっと……こんなにたくさん買うからアイスは大丈夫……かな」
「……遠慮しないで、お兄ちゃん」
「——うっわ、もうカゴ満杯じゃん。予想してたけどバコバコ入れすぎなんだって」
グイグイとくる真白と心々乃。
さらには両手でたくさんの飲み物を抱え、こっちに近づきながらバコバコ入れようとしている美結を見て遊斗は悟る。
敵わない、と。
「じゃ、新しいカゴ持ってくる」
ファミレスではそんなことを微塵も思わなかったが、この三姉妹が協力した時にはもう抵抗できなくなる相手に変幻することを体験する。
「って、遊斗兄ぃアイス選んでなくない? なにが好きなの?」
美結が新しくカゴを持ってくれば、さっきと同じような要領で聞いてくる。
「えっと……チョコレート系かな」
「いいね、あたしもチョコ好きだよ。じゃあここら辺の全部攻めてみよっか」
「せ、攻めないよ!? じ、じゃあこれを奢ってもらおうかな……」
「うんうん! 遠慮しなくていいかんね〜」
遠慮した動きがあったことを見抜かれ、結果的にこんな風になってしまう。
「遊斗お兄ちゃん、こっちも見よう?」
「は……はーい」
ほぼ一対三の状況。
忙しくなる遊斗は、心々乃に裾を引っ張られて次のコーナーに移動する。
義兄の後ろ姿を張り付くようについていくのは、物静かな心々乃。
少しずつ独占欲が芽生えていることに本人はまだ気づいていなかった。
そして、お会計の時間。
値段はもちろん張ったが、少しして遊斗は気づく。ファミレスで奢った代金とできるだけ釣り合うようにしてくれたのだと。
相談しているような素ぶりもなかったことから、一人一人の考えが一致した上での行動だったのだろう。
さすがは三つ子の三姉妹だという他ない連携である。
「たくさん奢ってくれて本当にありがとうね」
「いえいえ、お気になさらず」
「ファミレスで全員分奢ってくれたんだから、このくらいどうってことないよ」
「うん……」
そんなやり取りをしながら自宅に向かっている最中。
——ピロン。
ポケットに入れた遊斗のスマホがLAINの通知音を鳴らした。
「あ、ごめん。ちょっと確認させてね」
バイト先からの連絡かもしれない。
すぐに確認すれば、入っていた。
『オマエ゛、コロス』
「……え?」
殺気立った物騒なメッセージがなぜか友達から。
「遊斗お兄さん……?」
「い、いや……あはは……。うん、なんでもないよ」
今見たものは気のせいだろう。幻覚だろう。
通知欄をスライドさせて、とりあえずそのメッセージを削除した遊斗である。
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