第12話 再会の日⑤
「ごちそうさまでした」
遊斗がご飯を食べ終わったのは四人の中で三番目。
一番は美結、二番は心々乃。
そして、未だご飯を食べているのは、レモンステーキの和食セットと、おろし唐揚げ定食と、ミックスサラダを頼んだ長女で——。
「——ちょっ、そんなに急いで食べなくて大丈夫だよ!?」
カツカツとお箸の当たる音を聞いて頭を上げれば、口にたくさんのご飯を詰めて両頬をぷっくりさせている真白がいた。
『待たせてはいけない!』なんて責任感からの行動だろうが、急ぐ必要はない。
「ゆっくりでいいからね」
当然今の状態で喋ることはできないが、遊斗の言葉に首を縦に振って『わかりました。ありがとうございます』と伝えてくる。
「ね、遊斗兄ぃ。みんながご飯食べ終わったらどうしよっか。予定じゃ解散ってなってるけど……」
「そうだねー。ちなみにみんなは予定なにも入ってないの?」
「うん……」
総括して答えるのは心々乃。
「それじゃあ服屋さんとか見て回ったりする? この周辺は賑わってるから、趣味に合った服も見つけられそうだし」
「いやいや、バイト終わりで疲れてるのに、そんな歩くようなことさせられないって」
「あはは、自分のことは気にしなくて大丈夫なのに」
確かにバイト疲れはあるが、動けないということはない。
むしろ三人と過ごせるのなら喜んで歩く。今の時間はそれくらいに大切なもので、楽しいもの。
「ちなみにみんなはどこに行きたいとか候補はある?」
「ゆ、遊斗お兄……ちゃんのお家」
「お! って俺の家!?」
唐突なぶっ込み。
遊斗同様に驚いているのは口に食べ物を含んでいる長女と、口に飲み物を含んだ次女である。
真白に関しては『なんて迷惑なことを言うの!』との気持ち。
美結に関しては——先ほど心々乃とこんな作戦を練ったのだ。
『遊斗兄ぃの住所知りたくない……? 今まで十何年と会ってなかったんだから、いろいろ関わっていきたいじゃん』
『うん……』
『じゃあタイミングを計ってそんな風に流すから、援護してくれる?』
『わかった』と。
『
「まあせっかくだしね? もちろん無理にとは言わないけどさ」
「うーん……。自分の家でも特に問題ないんだけど、遊べるものがないし、ここから電車で20分くらいかかるよ?」
「そのくらいなら全然平気だよね、心々乃。移動中もお部屋でもいっぱい喋ればいいし」
「平気」
「そ、そう……? それでも大丈夫なら自分の家で過ごす?」
「過ごす過ごす!」
「やった……」
「真白さんもそれで大丈夫?」
——コ、コク。
美結と心々乃。この二人が協力関係にあったことを会話から悟り、呆然としていた真白は、もぐもくを再び始めながら頷いた。
「じゃあそんな予定でよろしく。っと、自分はお手洗い行ってくるね」
「はーい」
「わかった」
予定を組んだところで席を立つ遊斗だった。
* * * *
「いえーい」
「ん、いえい」
遊斗がお手洗いに向かっている最中。
美結と心々乃は二人でハイタッチをしていた。作戦が成功したと言わんばかりの光景で、その様子をジト目で見つめる真白は、お茶を飲んでようやく喋れる状態になる。
「そうやってご迷惑をかけるようなことをして……。あとでお母さんにも怒ってもらうからね」
立場を弁えた長女らしい言い分。だが、立派なのは言い分だけである。
美結と心々乃はさらなるジト目に変えて言い返すのだ。
「とか言ってめちゃくちゃ嬉しそうじゃん。真白
「……遊斗お兄ちゃんに手作りのご飯作れたらって顔してる」
「そ、そんなことはありませんっ!!」
図星を突かれたように丁寧な言葉になる真白。
「だ、大体……遊斗お兄さんのお家じゃなくて、私たちのお家に呼ぶのが筋でしょう?」
「それはもちろん考えたよ? 考えたんだけど、遊斗兄ぃの住んでるところ知りたいし、見られたらヤバいの
「……えっ?」
「……?」
二人してなにがなんだかわかっていない顔。
『はあ』とため息を吐く美結は、顔を背けながらボソリと言った。
「——オモチャとか」
「っ!?」
「っ!!」
「確かに一つは資料用だけど、絶対自分用も持ってるでしょ。アレ買ってから、中身わからない荷物が何回か届いたし」
「も、持ってないよっ!!」
「も、持つはずない……」
顔を真っ赤にする真白と、あからさまに動揺する心々乃。
「せめてもっと上手な誤魔化し方しなよ……。まあそれを含めてだけど、三人住みとは言ってもいい家に住んでるんだから、遊斗兄ぃに聞かれるじゃん。『なにかバイトとかしてるの?』って。そう言われた時に『みんなでエッチなイラストも描いたりー』とか言える? 十数年ぶりに会った人にさ。しかも義兄にだよ?」
「……」
「……」
「はい、反論なし。以上」
パンと手を叩き、終決。
口論の強さを見せる美結である。
そして、そんなタイミングで戻ってくる。
「ごめんね、待たせちゃって。って……なにかあった?」
「なっ、なんでもないですよっ!」
「う、うん……」
この状況から逃げるようにご飯を頬張る真白と、次女のコップに手を伸ばす心々乃。
それを含めて顔が赤くなっている様子を不思議そうに見つめる遊斗。
この三人を冷静に見る美結は心の中でため息を吐く。
『だからもっと上手に誤魔化しなって……』そんな思いを言葉に乗せるように言うのだ。
「遊斗兄ぃのお部屋、可愛いぬいぐるみありそうって話してた」
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