第7話 再会まで
小学生のような見た目の大学生に、物静かそうな大学生、ギャルっぽい大学生と関わった日から3日が過ぎた日のこと。
「おーい?」
「……」
「おーい、遊斗ー?」
「ッ!?」
講義待ちの教室。
グーの形にした手を長机に置き、銅像になったように天井を見上げていた矢先だった。
ポンっと肩に触れられ、ビクッと反応する遊斗がいた。
「おいおい、なにぼーっとしてるんだよ。
「あ、あはは……。ごめんごめん」
眉を八の字にして声をかけてきたのは、弟か妹が欲しかったがためにこの大学を受験した男友達である。
「もしかしなくてもバイト疲れか? お前週5で働いてるもんなあ……。栄養ドリンク買ってきてやろうか?」
「ありがとう。でも大丈夫。それとはちょっと違くて」
「ん? そうなのか」
「うん」
バイト疲れがないと言えば嘘になるが、もう一年近くあのカフェで働いているのだ。
大学生に入ってからの一人暮らしはまだまだ大変なことも多いが、仕事環境には慣れているおかげで、そこまで辛いというわけでもない。
友達の優しい気遣いに触れ、遊斗は微笑を浮かべながら正直に話すのだ。
「これは前に話したことなんだけど、自分に生き別れた妹がいるって話……覚えてる?」
「ああ、可愛い三姉妹のことだろ?」
「そ、そうだね」
前に話した時は『可愛い』とは言っていなかったような気がするが、当時はたくさん構ってあげて可愛がった記憶がある。
「その妹たちとさ、明後日に顔を合わせることが決まって」
「は、はあ!? お前キッモ! 羨ますぎんだろ!」
「ははは……」
さっき見せてくれた優しさはどこへ行ったのか、嫉妬の炎を燃え上がらせて罵声を浴びせてくる。
無論、本気で言っているわけではないだろう。……多分。
「こんな機会に巡り会えたのは本当に嬉しいことなんだけど、十数年も会えていなかったから、さすがに緊張がすごくて……。ほら、これ見て」
苦笑いを作って握りこぶしをパーの形に変えれば、手がブルブル震えている様子が露わになる。
「これ演技だろ?」
「演技だったらどれだけよかったか……」
「いやいや、いくらなんでもそりゃ緊張しすぎだろうよ。そんなんじゃ明後日まで持たねえぞ?」
「自分もそう思ってできるだけ考えないようにしてるんだけど、無意識に考えちゃって」
義妹の名前を忘れていたものの、その存在は大切な記憶として残っている。心に刻まれている。
そんな大切な相手との再会が間近に迫っているのだ。平常心でいられるわけもない。
「ちゃんと話せるかな……。気まずい空気になったりしないかな……」
「お互いに距離を測りながらになるだろうから、誰かが会話をリードしなきゃ空気が死ぬだろうな」
「……」
遊斗が一番恐れていることは、正しくそれ。
『こんなことなら会わなければよかった』なんて思われるようなことだけは絶対に避けたいのだ。
「ま、まあお前の気持ちはわからんでもないが、相手も会いたいって思ったから成立したことだろ? 一方通行じゃないんだから、少しくらい気を楽にしろよな。余裕を持ってないといい方向には転がらないぜ?」
「あ、ありがとう。確かにその通りだね」
言われてみればそうだ。
今回のことは無理やり取り次いでもらったことではない。むしろ相手側から提案してもらったこと。
ほんのり肩の荷が下りる発言だった。
「てか、お前の妹って大学一年の三姉妹って話だったよな?」
「うん。本当に偶然なんだけど、大学に通ってるらしくて、『なにか困った時に手を貸せるように』って目的での顔合わせでもあって」
「あのよ、うちの大学の新入生で三姉妹って言や、クソ可愛いってずっと噂されてたあの子らしかいなくね?」
「え? …………ま、まさか」
目を大きくして、少しの間を空け、片手を振りながら否定する。
その三姉妹の噂は本当にすごいのだ。
去年の夏。この大学のオープンキャンパスに参加した際から噂されていた。
『もしかしたらめちゃくちゃ可愛い三姉妹が入学してくるかも!』と。
そして今年の3月。大学の合格発表時。
『おいおい! あの三姉妹合格してたぞ!!』
ということまで噂され、入学式では——。
『やべえ、マジで可愛い……』
『顔整いすぎてね?』
『三人で揃ってる時のインパクトヤバイな』
なんて話題で大いに盛り上がっていたほど。
まだ入学して数日だが、あの三姉妹ほど有名な在校生はこの大学にいないだろう。
そんな彼女らが、生き別れの三姉妹なんて信じられることではない。
「でも、三姉妹なんだろ? それも一つ下で」
「う、うん。この記憶が正しいのは間違いないよ」
「じゃあ確定じゃね? 冗談抜きで」
「いや、だからまさかそんな……」
「ちなみにお前の義妹があの三姉妹だったら、オレがお前を殺す」
「なんでそうなるの……」
「羨ましいからに決まってるだろ!」
「いや、だからそう決まったわけじゃ……」
この答え合わせは二日後。
そして、緊張の当日を迎えることになる。
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