第2話 三姉妹のやり取り
「え? マジの方で遊斗
「……遊斗お兄ちゃん、いるの?」
「うんっ! わからないことがあれば頼ってもいいようにお願いしてるだって! 遊斗お兄さんはあの大学の2年生だから」
母親との電話が終わり、すぐに始まる三姉妹の会話。
大学に進学してまだ3日目の彼女らは、大学内の施設を利用したり目的の教室に行くだけでも四苦八苦する。
しっかり者であるが方向音痴の長女、真白はすでに両手で数えるくらいに迷ってしまっているほど。
「で、でもさ、今さら会うのとか
「……美結お姉ちゃんは会うの一番恥ずかしいのはわかる。遊斗お兄ちゃんと毎日お風呂入ってた記憶、わたしある」
「……い、いや、一緒に入ってないんだけど」
人差し指で金の髪をくるくる回しながら口を尖らせる美結。強がった態度の彼女に追撃をかけるのは真白である。
「う〜ん。一緒にお風呂に入ってたって言うよりも、美結が自分から突撃してなかった?」
「……あ、そうだった。遊斗お兄ちゃんに甘えて頭と体を洗わせてた」
「だっ、だからそんなことしてないしマジで!」
当時の記憶があるように顔を真っ赤にする美結は、勢いのままに話を変える。
「てか! 心々乃は遊斗
「っ」
「ほら図星。顔が赤くなってさ」
「赤くなんか、なってない……」
「はいはい。あんただって会うの恥ずいくせに」
「……美結お姉ちゃんより恥ずかしくない」
「同じくらいでしょ!」
「添い寝とお風呂は全然違う」
ガーガーと言い合いする次女と三女。
その様子を微笑ましく見つめる長女は、余裕ありげに口を突っ込む。
「美結と心々乃は遊斗お兄さんにたくさん甘えてたもんね。お別れする時はたくさん泣いてた記憶があるな〜。懐かしいなあ」
「いやいや、一番泣いてたのは真白
「わたしも同じ意見。あの時に一番泣いてエネルギーを使ったから……そうなった」
「——へ?」
小柄すぎる体に視線を向けて言う心々乃だが、それは絶対にしてはいけないこと。
「ねえねえ、『そうなった』って、一体何に対してそうなったって言ったのかな。多分だけどそれは身長に関係ないよね。美結もちょっと頷いたよね」
「……」
「……」
二人が罰の悪そうに視線を逸らせば、拗ねてしまう。
「二人がそんなに大きいから、まだまだ私だって身長伸びる可能性あるんだもん……。成長が遅いだけだもん……。いつか絶対からかってあげるんだから……」
——ボソボソ。
「あんたのせいで巻き添え食らったじゃん。ほら、早く謝って」
「ごめんなざぃ゛……」
これが次女と三女の差である。
隣に座る美結から頬を
小さな背中から『ゴゴゴゴゴ!』とラスボスのようなオーラを溢れさせていた真白は、この謝罪を聞いて圧を消した。
「……ちなみになんだけど、二人は遊斗
「それでも私は会いたいな……。この機会を逃したら、もう会えないと思うから」
「真白お姉ちゃんが会うなら、わたしも会う」
「え、二人ともめちゃくちゃ乗る気じゃん」
心々乃もこっち側だと思っていた美結は、呆気に取られた様子。
「さっきも言ったけど、遊斗
「それはお母さんに伝えれば大丈夫だって。多分だけど、遊斗お兄さんのお父さんと連絡を取って調整をするんじゃないかな」
「ふーん」
「美結も会おう、ね?」
「べ、別に二人が会うなら、あたしも会うけどさ? せっかくだし……」
美結もまたボソボソと。
正直な気持ちを引き出させた真白はさすがの長女だろう。
「まさかこんな機会が巡ってくるとは思わなかったね。遊斗お兄さんもあの大学に通っていたなんて」
「うん。もう一生会えないかと思ってた」
「偶然すぎて怖いくらいじゃない?」
「うんうん、本当にすごい偶然だよ〜」
椅子に座り、床につかない足をプラプラ揺らす真白は本当にご機嫌である。
「ふふふっ」
「真白お姉ちゃんとても嬉しそう」
「デザート食べてる時と同じ顔してんじゃん」
「だって遊斗お兄さんに会えるんだよっ? それもみんなで!」
語尾に音符をつけるような声でルンルン気分の真白は、小さな両手を合わせながらニマニマ。
「遊斗お兄さんとどんなお話をしようかなあ〜。どんな風になってるかな!?」
ふわふわした雰囲気がリビングを包んでいく。
その場にいるだけで微笑ましさを感じるような空気が充満していく。
しかし、心々乃の言葉によってソレは崩壊を辿るのだ。
「遊斗お兄ちゃんに彼女さんいるか聞いてみないとだね」
「えっ?」
「真白お姉ちゃんの初恋の人じゃなかった……?」
「っ! 違うよ!?」
心々乃から真白へ。
「え、えっとその、美結の初恋の相手が遊斗お兄さんだよね?」
「は!? 全然違うし!!」
次は口撃を受けた真白から美結へ。
「あ、あれじゃん。心々乃の初恋の人」
「ち、違う……」
最後は口撃を受けた美結から心々乃へ。
三つ子だけあってか、息が合うようなやり取りが繰り出される。
「ま、まあそもそも初恋だろうがなんだろうが今は関係ないでしょ? どんな顔してたのかも微妙だし、今の姿を見てもわかんないだろうし」
「そ、それもそう……かな?」
「うん。それもそう」
なんて話を完結させる三人だが、物心がついた時からそれぞれ気づいていることがあった。
それは、好きな男の人のタイプが全く同じだということ。
そして、この三姉妹は知る由もない。
母親の仲介なく、顔も忘れた彼とそれぞれ出会いを果たすことを——。
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