あたたかな雨

Tempp @ぷかぷか

第1話

 温かい雨がしとしとと紫陽花を濡らす。

 構えたカメラをパチリとならす。液晶モニタに固定された画面は、今見ている紫陽花とはどこか、やはり少しだけ印象が異なった。不思議だなと思いながら、クリップに留めていた君彦きみひこが撮影した写真と見て比べる。

 やっぱり少し違う。同じカメラなのにね。


 君彦は写真が趣味だった。

 君彦はこのカメラだけ残して去年、突然いなくなった。どうしてと思って長い間泣き暮れていて、先月頭にこの縁側でぼんやりしていたときに、不意に雲間から一筋の光が射しこんだ。その時、君彦が見せてくれた一枚の写真を思い出した。だから急いで棚の奥底に閉まっていたカメラを探して思わず、シャッターを押した。

 君彦が撮った写真の中にこんな風景があったから。


 けれどもそこには君彦の写真となんだか違う、私の写真があった。どこが違うかはよくわからない。でも確かに何かが違うのだ。

 でも、だからこそ君彦がそこにいたんだと感じられた。そしていなくなってしまったことも。


 私と君彦の写真は違っていも、同じ風景で繋がっている。君彦がいたこの世界を縫い止めたい。君彦が好きだった世界。それから私は君彦が撮った写真を追いかけている。君彦が撮ったのとおなじアングルで今日もパチリと写真を撮る。

 そう思って空を見上げると雨が、晴れた。


Fin.

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