大学祭

サポート

大学に入学して半年が過ぎた。

 90分授業にも身体が慣れてきて、バンドとの両立も出来ていると思う。

 春学期終わりのレポート地獄も何とか乗り越え、長い夏休みを迎えようとしていた。

「なあ、梅村ってバンドやってるんだろ?」

 英語のテスト終わり、同じクラスの生駒が話しかけてきた。

「うん。やってるけど、どうした?」

 俺がバンドをやっていることは、最初の授業の自己紹介コーナーでクラス皆が知っていた。

「軽音部で文化祭出るんだけど、最近ベースの奴が部活辞めてさ、メンバー足りなくて困ってるんだよね」

「ああ、それで俺にサポート頼みたいってこと?」

「うん、そう」

「どうするかな、一回バンドメンバーに聞いてみるわ」

「頼むよ」


 ことりノートハウスに帰宅して、すぐに俺は軽音部のサポートについて話した。

「いいじゃん、サポート受けてみろよ」

「他のバンドと演奏してる篤志、見てみたい」

 意外にも響と奏音ちゃんは、サポート受けることをすんなり許してくれた。

「正気ですか、お二人とも。梅村さんがサポートしてる間、僕達の方の活動がストップするんですよ。梅村さんには、ことりノートを一番に考えてもらわないと困ります」

「そうだよな。詩音の言うことも、ごもっともだ」

「でも、たまには気分転換もいいんじゃないか? 大学の友達との交流も大事だと思うぜ」

「その間、私達は充電期間にしよう」

「うう、姉さんがそう言うなら……」

 詩音はまだ納得していないようだが、俺はサポートを受けることになった。

 そのことを生駒にラインで教えると、お礼の言葉が返ってきた。


 次の日。

 俺は軽音部の部室に来ていた。

「待ってたぜ、梅村~」

 生駒が部活のメンバーに俺を紹介してくれる。

「もう何回もステージに立ってるなんて尊敬するっす!」

 ドラムの土屋が俺に尊敬の目を向けてくる。

 今回、俺がサポートを受けることになったバンドは「エメラルド」といって、この春結成したとのことだ。メンバーはギターボーカルの生駒、ドラムの土屋、キーボードの福原の三人。

「俺達なんて梅村に比べれば皆、初心者だよなあ。梅村に教わることの方が多いかなあ。まあ、ゆるゆるとやってるから、気楽に頼むよ」

「そんな、俺は他の楽器のことで教えられることなんてねえぞ」

「いや、ステージの心構えとかさあ」

「俺達、文化祭が初ステージなんだよ。今から緊張してる」

「初ステージかあ……」

 俺は高一の夏、ライブハウス・スターダストでやったライブのことを思い出していた。

「俺も緊張したけど、何とかなったな。ステージ上で何回かミスったけど、何とか止めずにやり切った」

「へえ、すごいっす! 俺、ステージ上でミスったら止めちゃいそうです」

「止めたら観客にバレるから、何とか音楽を止めずにやるんだよ」

「音楽を止めるなってか」

「そうそう」


「で、文化祭でやる曲は決まってるのか?」

「ああ、うん」

 エメラルドがやる曲は、どれも既存の曲で、誰も作詞作曲できる人がいなかったから、そうするしかないとのことだった。

「ま、ぶっちゃけ文化祭なんて皆が知ってる既存曲の方が盛り上がるよな。俺達も高校の文化祭ではバンプとかボカロとか既存曲でいったわ」

「じゃあ曲は、この三曲で決まりってことだな」

「ああ、うん。これ梅村の分の楽譜な」

 生駒から受け取った楽譜にざっと目を通す。

「ありがとな。じゃあサポート頑張るわ」

 その日は初回ということもあって、簡単に合わせただけで帰宅した。


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