ランニング

数日後。ライブハウス、スターダスト。

「君達にソロライブをやって欲しいって声が多く来ててね」

「えっ、ソロライブ⁉」

 願ってもない話だ。でも俺達に出来るのか? もっと経験を積んでからの方がいいんじゃないのか?

「やりたい!」

 俺の迷いなんて、お構いなしに響は即答していた。

「お、おい、俺達にはまだ……」

「やれるって! 俺達なら!」

 響の根拠のない自信は、何処から来るんだ?

「まあ、そろそろ時期だと思ってましたよ」

「私も、やってみたい……!」

「奏音ちゃん、詩音……」

「どうする? 後はあんたの勇気だけさ」

「お、俺は……」

「大丈夫だって!」

「分かった、やるよ!」

「決まりだ。日にちは2月14日バレンタインデー! チョコより美味いステージを期待してるよ!」


「あ~~、どうするんだよ~、ソロライブ!」

 練習終わり、俺はトゥイッターとインスタの更新をしながら唸っていた。

「ここで告知しちまうと、もう逃げられない……」

「何迷ってんだよ! ほら告知告知!」

「ああああ~~~」 

 俺はもうヤケクソでソロライブの告知をした。

「で、どうするんだよ、曲」

「曲目もですが、MCもですよね。対バンの時よりも長くなりますし、体力も必要ですよね」

「走り込みの量増やすか~」

「え、お前、走り込みとかしてんの?」

「あれ、言ってなかったっけ」

「初耳だぞ、おい」

「ボーカルやるには体力いるって思ったから、けっこう前から始めてたんだけど」

「そうか。なら俺もやる」

「え? 篤志も?」

「まあ何事にも体力はいるだろ。だから俺も走り込み始めるわ」

「よし、なら一緒にやろうぜ! 明日の朝、俺ん家の前集合ね」

「お前ん家からスタートかよ。まあいいや、やろうぜ」


 次の日、朝6時。

 俺は10分前に響の家に到着した。

 響の家はデカい。8人兄弟なのだから当然か。

「おはよう、篤志」

 家から出て来たのは二人だった。

「誰その子? 弟?」

「ああ、うん。怜(れい)って言うんだ。ほら挨拶」

「……おはよう、ございます」

「ああ、おはよう」

「怜は今、小6で、フィギュアスケートのスクールに通ってるんだ。大会にも出てて中々いい成績残してるんだぜ」

「へえ、すげえな」

 そう言うと怜君は、少し照れくさそうに響の後ろに隠れた。

「ああ、そうだ。俺の名前……。俺は梅村篤志、よろしく」

「……よろしく、お願い、します」

 何だかぽけーっとした子だな。

「怜のペースに合わせて走るから、少し物足りねえかもしれないけど」

「それは別にいいよ」

「じゃあ早速、走るか」

 そう言ってランニングはスタートした。

 怜君のペースに合わせるといっても、普段から体育以外で運動していない俺にとっては中々キツかった。

「はあ、はあ……」

「大丈夫か、篤志?」

「ああ、うん、けっこうキツイな」

「そうか? 運動不足だな」

「ああ、実感してる。多分、俺より怜君の方が体力あるよ」

 小6に負けるのは情けないが。

 

 それから俺の朝のルーティーンにランニングが加わった。



「ライブのセトリどうする?」

「ソロライブだから10曲くらいやるよな」

「新曲も出来てる」

「最初はやっぱ盛り上がる曲で……、ヤンデレゾーンを挟んで、最後は『ディスカバリー』で締めとか」

「色々考えることあるよな。やるからには満員御礼にしたいし!」

「だな!」

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