バンド名

「べース買うまでにイメトレをしておいてもらいます」

「だよな。給料出るまで何もしないじゃ時間もったいないもんな」

「よろしくお願いしますよ」

 俺と響は、それぞれ家の近所のコンビニでアルバイトすることになった。順調に稼げれば数か月でベースまで手が届く。

「楽器以外にも色々いるんだな」

「チューナーとアンプ、メトロノームは持ってるぜ。学校にもあるし」

 俺は「ベース 初心者」と検索し、初歩の初歩から学ぶことにした。

「俺は、その間自主練しとくな。後は曲だけど……」

「響は即興曲作れるから、それを楽譜に書いてくれればいいんじゃね?」

「作詞作曲なら、姉さんも出来ます! 僕も作詞なら! より良いものを作るためなら、僕達にやらせるべきでしょう」

「俺以外は曲作りに参加できる訳か」

「そうです。ベースもまだ持ってない梅村さんは戦力外です」

「お、おい、言い方」

「いいよ、その通りだ」


 俺のベースがない間も、三人は音楽準備室で練習をしていた。

 俺はその間、図書館で借りたベース初心者の本を読みながら、練習風景を見ていた。


 ある日のこと。

「大事なことをまだ決めてないだろ」

「何だ?」

「俺達のバンド名だよ」

「ああ! そうだった!」

「大丈夫ですよ! 姉さんに素晴らしいアイデアがあるので!」

「うん。バンド名、考えてある」

「それは……」

「ことりノート」

「へ?」

「ことりノート」

「お、おう」 

 予想外のメルヘンな名前に面食らってしまった。

「小鳥遊さんの「ことり」、姉さんと僕の「音」から「ことりのおと」→ことりノート」

「おい、俺は」

「梅村さんはロゴにいますよ」

「ロゴ?」

「もう作ってある」

 奏音ちゃんはノートの隅に描いてあるものを指差す。「ことりノート」の文字に小鳥と桜と梅がくっついている。

「お~、何か可愛い」


 バンド名も決まり、そして、ついに、俺はベースを手に入れる日になった。

「店長! お金貯まりましたよ!」

「お~、梅村君! 待ってたよ!」


 こうして、結成から数か月「ことりノート」は本格的に始動したのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る