楽器屋にて

練習は高校の空き教室を使うことにした。

「てゆーか、篤志ベースないじゃん」

「そうなんだよ。買わないと」

「詩音も、ドラムない」

「ああ、確かドラムは音楽準備室にあったぞ」

「では、しばらく、それを使わせてもらいましょう」

「私も、ピアノはあるけど、キーボードじゃない」

「確かに、まずは楽器調達からだな」

「とりあえず楽器屋、行ってみようぜ」


幸いなことに、駅前に楽器屋はあった。

「いらっしゃいませ」

 店員は一人、中年のおじさんだ。

「け●おんで見たやつとかあるかな」

「5万、10万、30万」

「たっか!」

「俺はお年玉貯金が少しあるから、5万のやつなら買えるけど、もっと高いやつのがいいのかな。音の違いとか」

 親に買ってもらうことも考えたが、うちの親がバンド活動に賛成するとは思えなかった。元々、高校受験も、自分の怠慢で失敗したのだ。これでバンドやったから成績が落ちたら……。

「楽器は大事」

 奏音ちゃんが5万のベースと10万のベースを軽く触ってみている。

「奏音ちゃんってベースも出来るの?」

「一応、簡単に弾くくらいは」

「さすが姉さんでしょう。さあ褒め称えなさい」

「奏音ちゃん、すげぇ!」

「はい、もっともっと!」

「奏音ちゃん、超すげぇ!」

「迷惑だから、やめとけ」

「君達、バンドを組んでいるのかい?」

 楽器屋の店員さんが話しかけてくれた。

「あ、はい」

「学生さんなら学割にしてあげるよ」

「え、いいんですか⁉」

「ああ」

「「ありがとうございます!」」

「どの楽器を探してるんだい?」

「ベースです。このモデルってありますか?」

 俺はけ●おんの画像を見せた。

「ああ、け●おんだね! 流行ったから、うちでも仕入れたよ!」

「そうなんですか!」

「澪が使ってるのは左利きだけど、お客さんは?」

「右です」

「じゃあ、それで。大体10万するけど、学割で、8万でいいよ」

「2万も、いいんですか⁉」

「ああ。俺も澪推しなんだ!」

「店員さん!」

 その後、意気投合した俺と店員さん(店長さんだと分かった)は、け●おんの話で大盛り上がり、他の三人を置いてけぼりにしていた。

 結局、まだベースは買えないので、店長さんに取り置きをしてもらうことになった。


「バイトでもやるか」

「そうですね。あなた方が馬車馬のように働いて下さい」

「私は」

「姉さんに働かせる訳にはいきませんので」

「そっか。篤志、何やる?」

「普通にコンビニとかでいいだろ」

「だな」

「後で求人広告出してるとこ探しとくわ」

「さんきゅー」

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