響の歌

適当な空き教室に入り、机等を片付け演奏スペースを作る。俺はその辺の椅子に座り、ギターを構える小鳥遊を見ていた。

「とりあえず聞いてみてくれ」

「はいはい、どうぞどうぞ」


 周りの空気が震えた。

 こいつのギターの演奏が上手いのかは正直俺には判断が出来ない。

 でも、小鳥遊の歌声には力があった。

 心を持っていかれるような、そんな気がした。


「で、どうだった?」

「………………」

「なあ、篤志!」

「……え、ああ、ごめん」

 圧倒された。

「どうだった、俺の歌?」

「……い、いいんじゃないか? エネルギーがあって」

 ついさっきまでバカにしていた相手の歌に、素直に凄かったというのは少し癪だったので、当たり障りのない答えで誤魔化す。

「どこが良かった? ギターとかちゃんと出来てた?」

「いや、ギターの技術とかは全然分かんないけど」

「そっかー」

「あ、そういえば、それ誰の曲なんだ? 初めて聞いたんだけど」

「誰のって、俺のだけど」

「は? え? それはつまり、お前が作詞作曲したってこと?」

「作詞作曲って、そんなにちゃんとしたもんじゃないぜ? だって、さっき思いついたやつだし、楽譜とかにも書いてないし」

「はあ⁉ 即興であの歌作ったってことか⁉」

 最初はバカな奴だと思っていたが、こと音楽に関しては天才なのか?

「うん、そう。即興だから、もう一度同じのやってって言われても無理」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る