勇者と魔王のお茶会《ティーパーティー》。
音佐りんご。
星の運命に導かれ
◆◆◇◆◆
魔王城、玉座の間の中央に設置された円卓に魔王四人が着席している。
魔女:みんな、準備はいいかしら?
筋肉:ああ。
少年:えぇ。
幼女:うん。
魔女:さて、今宵の『
魔王城、玉座の間の扉の前。
固く閉ざされた扉に勇者が話しかけている。
勇者:僕はこの世界に満ちた混沌と悲しみを晴らすためひらりと舞い降りた勇者ルーク・フロー・ライト。
星の運命に導かれこの場所に来たのは、人々の流す涙と憎しみの連鎖を今日で止めるためさ。さぁ固く閉ざされた扉よ! 僕のためにその縛めを解くがいい!
強制解錠『
勇者、扉の鍵をピッキングする。
勇者:さぁ魔王! 覚悟し――え?
筋肉:あん?
魔女:あら?
少年:うん?
幼女:ほにゃ?
勇者:な、何? 四人いるだって?!
魔女:この坊や、あんたの子供? アンドリュー?
筋肉:俺に子供はおらん。というか嫁もおらん。
魔女:そうだっけ? じゃあたしとする?
筋肉:せん。
魔女:あら、つれない。
魔女:なら、ハヤテの友達? 同い年くらいでしょ?
少年:いいえ、僕も知りませんね。それにアストリア。僕に同年代の友人はいません。
筋肉:どんまい!
魔女:どんまい!
幼女:どんまい!
少年:気にしてませんけど?
幼女:あはは~。
勇者:魔王が四人も? いや、まさかそんな。ははは。
魔女:え~? じゃ、あの子誰ぇ?
筋肉:さぁ、見当もつかん。何か知ってるかコーデリア?
幼女:私も知らないよ~? たぶん迷子じゃないかな~?
勇者:僕が迷子だって?! そんなわけ無いだろう! いいか? 僕は――
幼女:あはは! 迷子はみんなそう言うんだよねぇ~!
勇者:んな!?
筋肉:あぁ、確かにこの城は入り組んでるからなぁ。迷うのもやむなし。恥じることは無いぞ、少年。
勇者:だから迷子じゃ無くて!
少年:というかアンドリュー、君、鍵かけなかったんですか? 不用心では?
筋肉:え? いや、結構しっかり目に封印魔法で鍵かけた筈なんだが……。
勇者:ふっふっふ! あの程度の封印、解除することなど僕にとっては造作も無いのさ!
幼女:……だって? 言われてるよアンドリュ~?
筋肉:いや、でも確かに鍵は掛けてたのだから俺は悪く無いんじゃ……。
少年:はぁ。まったく情けないですよアンドリュー。何のために扉に鍵を掛けると思っているのですか君は?
筋肉:そりゃぁ、邪魔が入らないように……。
少年:だったら、ちゃんとしましょう? 入ってるじゃ無いですか今。
筋肉:それは……。
少年:現に鍵は開いてるんです。
筋肉:いや、しかし……。
勇者:なんかめっちゃ怒られてる……。
少年:しかもあんな子供のイタズラで開けられるなんて。
勇者:な!? 子供のイタズラだって?! お前だって子供じゃ――!
幼女:子供じゃ無いんだから、鍵くらいちゃんとかけてよアンドリュ~。
少年:コーデリアの言う通りですよ。城主である君には僕らのひとときを守る義務があるというのに。
魔女:ほんとよね。もう! 城主なんだからしっかりしてよあんた!
幼女:だよね~、あ~あ、折角の楽しいパーティーだったのに~。
勇者:お前らさっきから僕の話を――!
筋肉:話を聞いてくれ! 俺にだって言い分はあるんだ!
少年:何ですか?
筋肉:さっきは謙遜して敢えて『しっかり目』と表現したが、実はこの玉座の間には、歴代魔王から受け継いできた遺産、例えば国が滅んでも世に出してはいけない厄ネタが書かれた歴史書や手記、禁術の魔導書、曰く付きの武具、宝飾品の他、危険な呪いを内包したダンベルや殺人腹筋ローラーといった禁断のトレーニンググッズがいくつもある!
勇者:え?
魔女:なにそれ初耳なんだけど。
幼女:てか言って良いの?
魔王:だからそう簡単にはこじ開けられないようにあの鍵は扉ごと特注なんだ!
少年:特注の扉、ですか?
筋肉:ああ、クローギオ王朝系古式魔術と近ゼネファス紀頃の超古代呪法を融合させた技術を用いて馴染みの職人に特別に作らせた神秘とも言える封印的アボスを持つ扉だ! 廃人級のアボストレペカも解錠には音を上げるだろう逸品なんだぜ! あんな小僧に開けられる訳が無い!
勇者:……すんなり開いたけどなぁ。
筋肉:どうだ! 俺は悪くない!
少年:はぁ。僕には君が何を言っているのかさっぱりですが……、ようはそれただの言い訳ですよね?
筋肉:うっ……!
少年:特注? 神秘? 音を上げる? 自信満々でセキュリティ万全です! って言ってそれであっさり破られて想定外だからと言い訳。あの、魔王として恥ずかしくないんですか? いえ。それ以前に、自慢の扉かなんか知りませんが、子供にあっさり開けられて負けを認めないとか。大人げないですよアンドリュー。
魔女:大人げないわぁアンドリュー。
幼女:大人げないぞぉアンドリュ~!
筋肉:うぬぅ……。
少年:はっきり言いますが、これは君の落ち度ですよ、アンドリュー?
筋肉:うぬぅ……。
少年:いつも詰めが甘いんですよ、君は。
筋肉:うぬぅ……、かたじけない。
少年:かたじけない。じゃなくて、どう責任を取るつもりなんですか? 君は。
筋肉:その……罰として……。
少年:罰として?
筋肉:腕立て百回します……。
少年:おや? 桁が二つほど少ないのではありませんか?
筋肉:いっ、一万回やります!
少年:猶予は一時間です。
筋肉:はい!
少年:よろしい。
筋肉:うぉぉぉぉぉぉ!
魔女:うわぁ。
幼女:うわぁ。
少年:うわぁ。
筋肉:ふん! ふん! ふん!
筋肉、腕立てを始める。
勇者:……はっや。
少年:さて。それで? 君は何ですか?
勇者:っふ! やっと僕の話を聞く気になったか!
少年:ええ、
幼女:やっぱ弄ってたんだぁ~。
魔女:まぁ彼、弄り甲斐はあるものねぇ。
勇者:ふふふ! 僕は! この世界に満ちた混沌と悲しみを晴らすためひらりと舞い降りた勇者ルーク・フロー・ライト!
幼女:こっちも弄り甲斐ありそ~。
魔女:そうねぇ。
勇者:疾風とか言ったか?
少年:ああ、僕は疾風・翡翠と申します。以後お見知りおきを?
勇者:さっきのやりとり、見ていたぞ。お前が、魔王だな!?
少年:……? ええ、僕は魔王ですが。
勇者:やはりそうか! お前は部下を従えているタイプの魔王だな!
少年:部下?
筋肉:うぉぉぉぉぉぉ!
幼女:アレのことじゃない?
魔女:あぁ。確かにそう見えるわねぇ。
少年:ふーん、なるほどね。
勇者:ふっふっふ! まぁ良い! この程度の障害『傑作の勇者』である僕ならばさして問題にならないさ!
幼女:ねぇ聞いたぁ~アストリア~? 『傑作の勇者』だってぇ~。へんなの~。
魔女:っし! 笑ったら可哀想よ、コーデリア。クソダサい通り名が一周回ってかっこいいタイプの勇者っていう線もあるんだから。
少年:それで、傑作の勇者君。僕達に何の用ですか?
勇者:勇者がこんな
幼女:あはは! 辺鄙だって~! アンドリュ~? 言われてるよぉ?
筋肉:俺は! 別に! 気に! しない! 圧倒的! 事実! だか! ら!(腕立てしながら)
幼女:確かに~。
魔女:暑苦しいわね、あんた。換気しなきゃ。
勇者:魔王! 僕はお前を倒す為にここまで来た!
少年:へぇ、魔王を倒す? 一人で?
勇者:生憎僕に仲間は居ない。
魔女:なんだ、疾風と一緒ねぇ。
少年:ほっといて下さい、アストリア。
幼女:勇者君は友達いないの~?
勇者:いいや、友達なら、もちろん居るさ。けど、傷つくのは僕一人で十分だからね!
魔女:あらぁ残念、一緒じゃ無かったわねぇ、疾風。
少年:うるさいですよ! 僕は気にしてません!
幼女:あはは! 気にしてるやつはみんなそう言うんだよねぇ~!
少年:コーデリア!
幼女:ごめんねぇ疾風~? ほんとのこと言っちゃって~。
少年:あぁ! 本当に君という子は……!
魔女:やめときなさいな、疾風。
筋肉:そう! だ! 疾風! コーデリア! は! そういう! やつだ! 気にする! な!(腕立てしながら)
少年:ええ、分かってますよ、
筋肉:友達は! そのうち! 出来る!(腕立てしながら)
少年:だから気にしてませんって!
筋肉:ふー! はっ! はっ! はっ! はっ! はっ!(腕立てしながら)
少年:はぁ……。
筋肉:ちなみに! お前も! コーデリアと! そん! なに! 変わらん! が! 千!(腕立てしながら)
少年:余計なお世話ですよ、全く。
魔女:ていうかもう千? めちゃくちゃ早いわね。
筋肉:鍛えてる! からぁ!
幼女:はやすぎてきも~い。
少年:はぁ。ただ、そうですね、ルーク君?
勇者:なんだ? 命乞いなら聞かないぞ!
少年:ふふ、面白いことを言いますね。流石は傑作の。
勇者:面白い?
少年:たった一人でここまで辿り着き、アンドリューご自慢の鍵も容易く解いた。それは素晴らしい。道化振りもなかなか堂に入っていますしねぇ。
幼女:ねーねー今道化と堂で韻踏んだ~?
筋肉:それは! どう! かな! ふん!(腕立てしながら)
魔女:どうだろうねぇ?
少年:ちょっと外野うるさいですよ!
幼女:えへへ、ごめんね~。
少年:失礼。
勇者:いや、
少年:ええ、褒めて差し上げます。しかし――。
勇者:しかし?
少年:舐めすぎではありませんか? 魔王を。
魔女:余裕ぶるのは可愛いけど、ちょっとムカつくわぁ。
筋肉:まったく! だな!(腕立てしながら)
幼女:だよね~。その点はいただけない。
少年:えぇ、いただけませんねぇ。
勇者:っは! 僕はあの有名な傑作の勇者だぞ?
幼女:有名かは知らんけど~!
勇者:そっちこそ! あまり舐めないで欲しいね! 勇者が魔王一人倒せなくてどうする!
少年:え、
間。
玉座の間に静寂と腕立ての音が満ちる。
筋肉:三千!(腕立てしながら)
幼女:はや~い!
勇者:あの……? え、って何?
少年:いや、だって、
勇者:だって、何だ?
少年:僕には魔王を一人倒せたら良いというように聞こえましたから。
勇者:ああ、確かにそうだな。僕は星の運命に導かれこの場所に来たけれど、それは人々の流す涙と憎しみの連鎖を止めるためであって、究極的には魔王一人だけ倒せたらいいさ。
少年:ふむ。
幼女:魔王一人だけかぁ~。
魔女:これはたぶんあれよねぇ?
少年:……もう一度聞きますが、倒すのは魔王一人だけで良いんですね?
勇者:ああ、何ならその他の奴は見逃してやっても構わない。僕は無駄な殺生は好きじゃ無いんだ。
少年:ふふふふふ。じゃあ、もう一つ質問です。傑作の勇者ルーク・フロー・ライト。
勇者:なんだ?
少年:この中の誰を倒すつもりですか?
勇者:……? だから魔王だが?
少年:ああ、じゃあ言い方を変えます。この中の――
四人同時に。
少年:どの魔王を倒すつもりですか?
筋肉:どの魔王を倒すつもりなんだ?
魔女:どの魔王を倒すつもりかしら?
幼女:どの魔王を倒すつもりかなぁ?
間。
勇者:…………え?
魔女:ほーら? 腕立てがお留守よぉ、魔王アンドリュー?
勇者:え?
筋肉:っは! ……ふん! っは! ふん! っは! すまない! 魔王! アストリア!(腕立てしながら)
勇者:ええ?
幼女:あはははは! 見て見てぇ~? 魔王疾風ぇ~? 勇者くん今す~っごく、いい顔してるよ~?
勇者:えええ?
少年:ふふふふふ。そうですねぇ魔王コーデリア。
勇者:ええええ?!
少年:おや? どうなさいました? 傑作の勇者?
勇者:もしかして、全員魔王?
少年:さて、君はどう思いますか?
勇者:あっはっは! そんな馬鹿な! 魔王が四人もいてたまるか!
筋肉:それは! どう! だろうな!(腕立てしながら)
勇者:いや! ないない!
魔女:あらどうしてぇ?
少年:彼らは魔王じゃないと?
勇者:お前とゴリマッチョとTHE・魔女はともかく、
筋肉:ゴリマッチョ!
魔女:THE・魔女はひどくなぁい?
勇者:そっちの幼女は絶対に魔王じゃないだろう!
幼女:えぇ~? 私魔王だよ~?
勇者:幼女が魔王な訳ないだろう!
幼女:ショタの疾風は魔王なのにぃ~?
勇者:それを言ったら、僕だって勇者だし、魔王もありえるかなって。其れに何より言動が如何にもラスボスっぽい。
幼女:えぇ~?
少年:ふふん。
筋肉:コーデリアには! 風格が! 無いの! かもな!(腕立てしながら)
幼女:なにそれぇ~! 私だってちゃんと魔王だもん~!
魔女:まぁまぁ。コーデリアは可愛いから魔王に見えないのかもしれないわぁ?
幼女:えへへ~、それなら仕方ないなぁ~! 許してあげる~!
勇者:……っは! そうか!
魔女:どうしたのかしらぁ?
勇者:ブラフで戦意を喪失させるつもりだな!?
筋肉:ふん! ブラフ!(腕立てしながら)
勇者:つまり魔王らしく卑怯な戦術!
少年:やれやれ。
勇者:っは! そんな嘘でこの僕を騙せると思わないことだ!
幼女:可哀想に~、あまりの絶望に現実を受け入れられないんだねぇ~。
勇者:ふっふっふ! 魔王が絡め手か! まぁそれも無理はないな! 何せこの僕は歴代勇者の中でも特に傑出した才能を持ち人々から『傑作の勇者』と讃えられる存在なのだから!
幼女:私は面白いから良いと思うけど~、ほんとにこれが傑作で良いのかなぁ~?
魔女:きっと勇者も人材不足なのよ。
筋肉:勇者に! 限らず! な!(腕立てしながら)
少年:ええ、本当に頭の痛い話ですよ。
幼女:それで~、頭のイタい勇者はどうするの~?
魔女:どうすると言ってもねぇ?
勇者:多勢に無勢! そして安い虚仮威しの戦術で恐怖を紛らわそうとするのもまた道理!
筋肉:都合のいい! 解釈を! 始めた! ぞ!(腕立てしながら)
魔女:あんたいつまで腕立てしてるつもりなの?
筋肉:あと! 五千! 回!(腕立てしながら)
魔女:あっそ、頑張ってねぇ。というか喋るときだけ、ゆっくりになるのね?
筋肉:舌を! 噛むから! な!(腕立てしながら)
魔女:じゃあ、ずっと黙っとけば?
筋肉:っは! 確かに!(腕立てしながら)
魔女:あんた、やっぱりアホねぇ。
勇者:いや、恥じることは無いよ! だが見込みが甘い! この僕の力を見くびったことがお前達の敗因だ!
幼女:いつの間にか負けたことになってる~。
少年:やる気みたいですね。正直、僕は戦うつもりなんて無いのですが。面倒くさいですし。
幼女:右に同じ~。
魔女:あたしも無いわぁ。
筋肉:っふふふふふふふふふふふふふふふふんっ!(腕立て)
勇者:そっちの都合なんて知らない! 本物でも偽物でも魔王を名乗るというのなら僕はお前達を倒す! 傑作の勇者を侮ったこと後悔させてやる!
幼女:何でも良いけどぉ~、早くしてぇ~?
勇者:っは! ならばお望み通り最初から、全力で――行く!
魔女:あらあら。
勇者:勇者専用究極奥義『
玉座の間を閃光が染め上げ、煙幕が立ち込める。
勇者:…………っは! ははっ! やったか!? 魔王を倒すなんて、僕にとっては造作も無いことさ! そう! 傑作の勇者ならね!
少年:威勢が良いのは結構ですが。
勇者:何?!
魔女:もっと相手をよく見て欲しいものだわぁ?
勇者:無傷だと! そんな馬鹿な!
幼女:それとぉ~相手との実力差もねぇ~?
勇者:あり得ない! この僕の究極魔法だぞ!?
筋肉:っふふふふふふふふふふふふふふふふんっ! 甘いっ! 八千っ!(腕立て)
勇者:四人とも! しかも一人は腕立てを続けていたなんて!
少年:おや? どうしたのですか? 傑作の勇者ルーク・フロー・ライト君? 僕達を、魔王を倒すというのは、僕の聞き間違いでしたか?
幼女:ひゅ~煽るねぇ~?
魔女:どうせ暇つぶしよ、あの子の。
勇者:……ふ、ふふ、ふっふっふっふ! いやぁすまないなお前ら。
少年:ふふ、謝れば見逃すとでも? たとえ蚊に刺された程度の攻撃とはいえ、僕達に敵意を向けたことは事実。ですよね、アストリア?
魔女:んん? ……えぇ、まぁ、そうねぇ? あたし達のお楽しみを邪魔しただけで無く、ふざけた真似をしようというのならぁ、それ相応の覚悟はしてもらうことに……なるかしらぁ?
筋肉:ただで! 帰れると! 思わぬ! ことだ!(腕立て)
幼女:私もぉ~、幼女だからって見くびられたしぃ~? ちょっと詫び入れさせるのもいいかもぉ~?
勇者:はは! それはすまなかったな! 見くびっていたのは僕のようだ!
筋肉:っふふふふふふふふふふふふふふふふんっ! ラストスパートぉ!(腕立て)
勇者:だから次は、真の全力で――逝け!
勇者:勇者専用超究極最終奥義『
玉座の間を閃光が染め上げ、煙幕が立ち込める。
勇者:……っく! はぁっ、はぁ! っは! はは、はははははっ! これで流石に――!
筋肉:……っ!
勇者:……なんだ? この音?
筋肉:……っ! ……っ!
勇者:これは……、呼吸……? ……まさか――!?
筋肉:……っ! 一万っっっっっ!
勇者:な、なんだって?!
筋肉:ふぅ。いい汗かいたぁ!
勇者:しかも腕立て終わってる!!
魔女:アンドリュー、あんたよくやるわねぇ?
筋肉:鍛えてるからな!
少年:適当に言っただけですのに、まさか本当に達成するとは。流石の脳筋ですね、アンドリュー?
筋肉:鍛えてるからな!
勇者:あ、あり得ない、僕の全てを込めた一撃が全然効いてないなんて!
幼女:……ふあぁ~。あぁ~もう終わり? 眠くなってきちゃったぁ~。
魔女:それはちょっと失礼じゃ無い? コーデリア?
幼女:だって退屈なんだもん~。
勇者:退屈……!? 僕の、最終奥義が……?
少年:おや? おしまいですか? 傑作の勇者ルーク・フロー・ライト君?
勇者:まさか本当に全員?! いや仮に四人ともが魔王で無くとも魔王相当の配下……!
魔女:呆れた。まだそんなこと言ってんの、あんた?
少年:ふむ、ならば今度は、
筋肉:魔王の力を目に物見せるために、
幼女:こっちから行っちゃおうかなぁ~?
勇者:――っ!? これは分が悪い! ならば!
魔女:あら?
勇者:あばよ!『
勇者、逃走しようとする。
幼女:させないけど~?『
勇者:な?!
勇者、逃走失敗。
勇者:発動しない?!
筋肉:『
勇者:一瞬で背後に!?
少年:ふふ、言いましたよね? 見逃さないって。ですよね、アストリア?
魔女:えぇ、そうねぇ? それ相応の覚悟、できたかしらぁ?
勇者:何故だ! この僕が! 傑作の勇者が! こんなところで!
幼女:あはは! 雑魚はみんなそう言うんだよねぇ~!
勇者:なんっ!?
幼女:いやぁ~、なんでってぇ~そりゃ~……テメェがクソ弱ぇからだろ? 駄作の勇者。
勇者:っ!!
少年:おやおや。
魔女:ほんとのこと言っちゃったわねぇ。
筋肉:あぁ、確かにお前は弱いが、俺達が強すぎるからなぁ。歯が立たぬのもやむなし。恥じることは無いぞ、少年。
少年:さて、君の処遇ですが、
勇者:……は、はは、ははははははははは! この僕が勝てないこの僕が勝てないこの僕が勝てないこの僕が勝てないこの僕が勝てないこの僕が勝てないこの僕が勝てない――!
筋肉:ど、どうしたんだ……?
魔女:こっわ。
幼女:壊れちゃったのかなぁ~?
魔女:まぁ無理ないわよねぇ。自慢の技が全く意味を成さなかったんだからぁ。
筋肉:可哀想にな。
幼女:アンドリューも人のこと言えないでしょぉ~?
魔女:確かに、封印やぶられてたのはウケるわぁ。
幼女:アンドリューに関してはぁ~一勝一敗だよねぇ~?
筋肉:ぐぬぬ……!
少年:むしろ、アンドリューの首なら差し出しても良いんじゃ無いでしょうか?
魔女:それありねぇ!
幼女:あり~!
筋肉:ちょっ!? 恐ろしいこと言うなよ!
少年:ふふふ。冗談ですよ。
筋肉:洒落になってないが……。
勇者:この僕が勝てない……っは! まぁ良いさ!
魔女:うん?
勇者:この僕が勝てない? っはっはっは! まぁ、たぶんそれも神の導き。そう要するにこれはそうだからつまりあははこれは……負けイベ!
幼女:負けイベぇ~? って~何~?
魔女:強制戦闘とかそういう感じのイベントの一種で、絶対に勝てないけど負けてもストーリーは進む的なやつよぉ?
幼女:へぇ~? そんな都合の良いイベントあるんだねぇ~? アストリア~。
筋肉:まぁそう高をくくって普通にゲームオーバーになることもあるがな!
少年:ちょうど今がそれですね。
幼女:あはは~間抜けの極みぃ~!
勇者:しかぁし!
魔女:あらびっくりした。急に何かしらぁ?
勇者:この僕に脅威を覚えこれだけの備えをし、この僕を見事退けたぞ魔王よ! それは誇って良いぞ!
魔女:備え?
筋肉:不意打ちも良いところだったんだが……。
幼女:ていうか~、負けたくせにすっごく偉そう~。
勇者:でも忘れるな? 僕は何度でも蘇る! 次こそは必ずや……ふふふふふ!
少年:はぁみなさん、この勘違い勇者どうします?
筋肉:縛って捨てよう。可燃ゴミは明日だ。
魔女:燃やすんだったらぁ、あたしが燃やしても良いけどぉ?
筋肉:やめてくれアストリア。お前がやると城ごと灰になる。
魔女:うふふふふふ。
幼女:ねぇ~? そんなことより、お茶冷めちゃったよぉ~。
少年:本当ですね、せっかくアストリアがなかなか上等な銘柄を持ってきてくれたというのに。
魔女:あら、そんなのすぐ湧かすわよぉ? はい『
少年:どうして僕なんですか?
魔女:この筋肉達磨に出来ると思う?
少年:それは無理ですね。
筋肉:おい。プロテインなら淹れられるぞ?
幼女:私も無理かなぁ~?
少年:はぁ。仕方ありませんね。
勇者:おい! お前ら!
筋肉:あぁ?
幼女:まだ居たんだぁ~?
勇者:居るわ! 逃がしてくれなかったのはお前らだろ!
少年:あぁ、そういえばそうでしたね。
勇者:さっきからお前ら何の相談をしてるんだ?
魔女:相談?
勇者:お楽しみがどうとか言っていたが、まさか勇者であるこの僕の前でなにか良からぬことを企もうというんじゃ無いだろうな?
幼女:あはは~。こいつ口を開けば面白い妄想が飛び出してくるねぇ~? でもあんまりはしゃいでると氷漬けにしちゃうよぉ~?
魔女:コーデリアあんたイラついてるでしょ? 口悪くなってきてるわよぉ?
幼女:えへへ~。
筋肉:勇者さんよぉ、何か勘違いしてるようだが、お前のための準備なんてしてねぇぞ?
勇者:それはどういうことだ? だったら何のために集まって……。
少年:見て分かりませんか? お茶ですよ。『
勇者:お茶?
幼女:う~ん、良い香り~! さっすが疾風だねぇ~!
勇者:お、お茶会……? 魔王が? 僕を倒すために集まったんじゃなくて……?
筋肉:そうだ、冷蔵庫にケーキ入ってるから誰か取ってきてくれよ? コーデリア?
幼女:え~、なんで私なのぉ~? 今お茶飲んでるのぉ~。
筋肉:あぁん? 分けてやんねぇぞ?
幼女:行ってきます!
勇者:ほんとに、お茶……?
少年:さぁ、思わぬ邪魔は入りましたが、気を取り直して再開しましょうか。
勇者:そ、そんな馬鹿な! この僕を虚仮にしているのか!! 勇者であるこの僕を!
幼女:もう~、まだそんなこと言ってるのぉ~?
魔女:ほんと勇者って野暮よねぇ。人の話聞かないし。
少年:融通も利きませんからね。
幼女:おまけに気も利かない。
勇者:うるさい!
筋肉:はぁ。しゃあねぇな。
勇者:な、なんだ?!
筋肉、立ち上がり円卓に椅子を持ってくる。
筋肉:おら、こっち来いよ。
勇者:は? 何のつもりだ?
筋肉:何のつもりって、おめぇも来いって言ってんだ。分かんねぇか?
勇者:なに?
筋肉:言っただろう? ただで帰れると思わぬことだ、と。
勇者:そ、それが何だ!
筋肉:勇者とはいえ来客者をただで帰したとあっちゃぁ魔王の名折れだ。それに扉を破られた借りもあるからな。
幼女:まだ気にしてたんだぁ。
筋肉:まぁな。
勇者:っは! 僕に魔王と同じテーブルにつけと?
少年:同じ土俵で戦うよりは良いでしょう? さ、君の分も淹れましたよ。
勇者:そ、そんな誘いなんて!
魔女:ほーら! 早く来ないと冷めるわよぉ?
勇者:っく! 魔王と一緒にお茶だって? こ、この僕が……!
幼女:は~い、ケーキ持ってきたよぉ~?
筋肉:お! さんきゅーコーデリア。疾風、アレたのむわ。
少年:やれやれ。『
魔女:おー! 綺麗な五等分ねぇ。
少年:当然です。
幼女:ねぇ~? 来ないのぉ~?
勇者:僕は勇者で……!
幼女:あ、食べないんだったらぁ~、私もらってい~い、アンドリュ~?
筋肉:まぁ、あいつが食べないんなら、いいぞ? 勿体ないしな。
幼女:やったぁ~!
勇者:……! 待って!
魔女:あら? どうしたのかしらぁ?
筋肉:席に着く気になったか?
幼女:ケーキ、どうするのぉ~?
少年:呑みますか? お茶。
勇者:くっ! そんなもの……、そんなもの……!
間。
勇者:……呑むに決まってるだろう!
筋肉:チョロいな。
少年:チョロいですね。
幼女:チョロいなぁ~。
魔女:チョロいわぁ。
勇者:う、うるさい!
魔女:ふふ、じゃあ、気を取り直して始めましょうか? みんな、準備はいいかしら?
筋肉:ああ。
少年:えぇ。
幼女:うん。
勇者:ふん。
魔女:さて今宵の『
筋肉:地の魔王アンドリュー・レイ・ダイアモンド!
魔女:炎の魔王アストリア・ディクス・エイド・ルビー!
少年:風の魔王疾風・翡翠。
幼女:水の魔王コーデリア・ニア・ブルック・ラピスラズリ~!
魔女:そして特別ゲストは?
勇者:光の勇者ルーク・フロー・ライト。
魔女:以上四名の魔王と勇者一名で『
五人同時。
筋肉:乾杯!
少年:乾杯。
幼女:かんぱ~い!
魔女:乾杯!
勇者:……乾杯。
少年:でも、お茶で乾杯は違うんじゃありませんか?
筋肉:固いこと言いっこなしだぜ。
幼女:そ~そ~、こういうのは~ぁ適当でいいんだよぉ~。
魔女:良いこと言うじゃなぁい? コーデリア。
幼女:えへへ~。
少年:あなたは適当すぎますけどね。
勇者:……適当、か。
幼女:そんなこと無いよ~。
勇者:まぁ、たまにはこういうのも……。
筋肉:おいおい、茶がすすんでないぜ? ルーク?
勇者:え?
少年:お替わり、ありますからねルーク。
勇者:あ、ありがとう。
幼女:なぁに~やっぱり食欲無い~? あ~! ケーキ食べてあげよっかぁ? ルーク~!
勇者:だ、だめだよ!?
幼女:冗談だって~! まぁ~分けてくれても良いけどねぇ~?
魔女:あんまりぼーっとしてると、持ってかれるよぉあんた。あたし達のお茶会は戦いなんだからねぇ、ルーク?
少年:戦い、ですか。ふふふ、そうですね。
勇者:よーし! 呑むぞぉ! 勇者の生き様見せてやる! うぉぉぉぉぉぉ!
筋肉:よっ! 良い飲みっぷりだなぁっ!
魔女:なかなか良いわねぇ!
幼女:なぁ~んだ、結構楽しんでるじゃん?
少年:それお茶なんですが。
勇者:ふっふっふ!
勇者:(M)僕はこの世界に満ちた混沌と悲しみを晴らすためひらりと舞い降りた勇者ルーク・フロー・ライト。星の運命に導かれこの場所に来たのは、人々の流す涙と憎しみの連鎖を今日で止めるため。けれど、僕のために注がれる香り高いお茶と、魔王達からの親しげな言葉は、何だか僕の縛めを解いてくれるような気がして――。
勇者:悪くない、かな。
勇者と魔王のお茶会《ティーパーティー》。 音佐りんご。 @ringo_otosa
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