《11》運命の出逢いは威圧感のある先生と?

「文人良かったじゃん! 夏蓮ちゃんと同じクラスなんて~ もしかしてこれが運命の出逢いとかだったりして!? これを機に高校デビューでもしちゃう?」

 

 茜ちゃんは『運命の出逢い』とこう言った。


 私と大沢くんが『運命の出逢い』だなんて……何ていい響きなんだろう。


 これまで私は運命というのをどちらかというとにくんできた。

 だって大沢くんと茜ちゃんは出逢うのが私よりも遥かに早く、そのため過ごした時間も比べることが出来ないくらい長く、私が入り込むすきなんて全くなかったからだ。


 二人が別れてからも大沢くんは茜ちゃんの事を常に気にしているような気がして、私が茜ちゃんの代わりになれるなんて自信がなかった。


 もちろん、今もそうだ。

 

 この過去に戻ってきた世界で私と大沢くんは同じクラスになった。

 その代わりに大沢くんと茜ちゃんは離ればなれのクラスになるという。

 私はこの結果がチャンスだと前向きにとらえつつ、茜ちゃんの代わりをになえるのかという不安にもかられていた。


「う、うん。俺……一組なんだ……へぇ……」


 大沢くんやっぱりなんだか様子がおかしい……。


 大沢くんじゃない。


 私は1年生から大沢くんと同じクラスになれた期待と不安に胸を膨らませながら振り分けられたクラスの教室へと歩みを進めていた。


 教室に向かってる間は茜ちゃん、大沢くんとの三人の時間だったけど急いでいたこともあり、特に会話をすることもなくあっという間に教室前までたどり着いた。


「それじゃあ文人、また後でね」


 まず最初に茜ちゃんが大沢くんに対して言葉を発した。


「うん。また」


「夏蓮ちゃんもまた」


 そして、私にも返してくれて私もり気無く返事をした。


「はい。また」


 そして茜ちゃんは何事もなかったかのように自身の教室へと入って行った。


 茜ちゃんはやっぱり余裕あるなぁ……。

 

 私から見れば羨ましいほどの凛とした立ち振舞いだった。

 私が大沢くんと同じクラスになったのに対して何も意識していないような、これが『幼馴染みなんだ』と思わされるようなそういった感じがした。

 

 私が茜ちゃんに圧倒されたところで、これまでなかった私たちの不思議な時間は終わりを告げた。


「俺たちも入ろうか」


 そう、大沢くんが教室の扉に手を掛けようとしていた時だった。


「大沢くん! あの……もうちょっとだけいいですか?」


 私は彼が教室に入るのを止めた。


 あの茜ちゃんと対抗するにはもっと、もっ~と攻めないと!

 攻めて、攻めて攻めまくらないと!!


 私は焦っていた。

 余裕なんてこれっぽっちもないほどに。

 

「……うん。いいよ」


 眉毛をピクンと動かし少し驚いた様子を見せてこっちを振り返りつつ、すぐに私のもとへと近付いてきてくれた。


「えっと……ですね」


 あ~勢いで声を掛けてみたのは良いものの……なに話そう?

 そんなに時間もないしなぁ……。


「……茜ちゃんとクラス離れちゃってやっぱり寂しいですか?」


 あっ……いきなり何聞いちゃったんだろう私~

 いくらなんでもストレートすぎるでしょ……。


「……えっ、いや別に……いつか離れるだろうしねぇ」


「そうですか? 私には何か寂しそうな表情に見えたもので」


 私はさっきの事もあり、これまでと違ってグイグイと彼に攻めることが出来ていた。

 『これが二度目のチャンスがやってきた勢い』なのかと言わないばかりに。

 

 この調子なら茜ちゃんにも……きっと。


「そんなこと本当にないよ……さっき茜が言ってたみたいにと一緒で良かったなぁって思ってるぐらい……」


「……えっ」


 彼は少し頬を赤らめながら照れくさそうに話していた。


 それが大沢くんの優しさで話しているのか、もしかして本当に私の事を――いや、今の私が彼の心の中を知り得るには、まだまだ一緒に過ごした時間など色々なものが足りないように思えた。


「本当ですか……! 本当に私と一緒の――」


 そう、私が意を決して彼に問い掛けようとしたその時だった。


『ガラッガラッ』と私たちのすぐ後ろの扉が開き、これから――色々な意味で――お世話になることになる担任の中山耕作なかやまこうさく先生が姿を現した。


「いつまでも教室の前で何してるんや! 早よ入って席に座らな式が始まるぞ」


 そう勢いのある関西弁を話す中山先生はまさに威圧感の固まりであった。

 中年の体育教師であり自分が一番偉いと思っているような立ち振舞いをいつもしていて、私含めた女子相手には目立った害は無かったけど、大沢くんなどの一部の相手には相性が悪く、それと同時に私の中山先生に対してのイメージも良いものではなかった。


「は、はい!すいません。今いきます」


 率先して私をかばうように答えてくれたのはもちろん大沢くんだ。

 他の女子からは頼りないや地味だとの声も多く聞かれるけど私は知ってる。

 彼は誰よりも優しい人間なんだから。

 私はそんな彼をこの3年間ずっと見てきた。

 よりも多く。


『ほら、早く入らんかい』と言わないばかりにドアを開けて私たちを睨み付けている中山先生の横をすり抜けるように、足早に教室へと入った私たち。


 そんな教室の中には、もちろん私の一年だった頃のクラスメイトの全員が座っており、その中で1人この中に長澤さんの姿も見られた。


 長澤さんは私たち2人が入ってくる姿を少し驚いたような表情で見詰めていたように思えた。

 そんな長澤さんの目をくぐるように私は自分の席へと座った。


 こうして、憧れだった大沢くん、そして大沢くんと幼馴染みでもある長澤さんがクラスメイトとして始まった新たな高校生活。


 この二度目の高校生活こそは、絶対に彼の『命を救い』そして彼の『ハート』も射止めて見せると強く誓っていた私だった。

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