《12》果敢に攻めた結果

 ―本当に一年生の時とは何も変わらない教室の雰囲気。

 

 ただ、大きく違うとすれば私、小花夏蓮おばなかれんの目の前に大沢くんの席があり、少し離れたところに長澤さんの席があるということ。

 

 一年生の時から目の前に大沢くんがいるなんて……何だが夢みたい……。


 もちろんこの状況が初めてではなかった。

 

 三年生の春も大沢くんは私の目の前の席にいた。


 長澤さんも、相馬くんも、そして……も。


 でも、その時の私は何も出来なかった……。


 そんな私にとっては茜ちゃんがクラスメイトと言うこの状況だけで大きなチャンスだった。

 

 この好機を逃すわけにはいかない……。


 ―私は強く誓っていた。


 そして、早くもそのチャンスは訪れた。


「ほら、早く廊下に並べよ」


 私たちが席に着いてほどなくして、中山先生の誘導が始まり、私たち一組の生徒たちが廊下に並び始める。

 

 席から移動するのと同時に周囲の同級生たちは『ザワザワ』と話し声を響かせはじめていた。

 

 その流れに乗るように私も思いきって大沢くんにもう一度声を掛けてみることにした。


 男子にしては小柄だけどやっぱり女子と比べたら、ガッチリとしている大沢くんの背中を見ていると、いつの間にか人差し指で『ツンツン』とつついていた。

 

 うわっ……。何やってるんだろう。私は~。


 好きな人に対してよく分からない行動を取っているということは理解しつつ、この場面で彼を振り向かせるにはこのやり方しか浮かばなかった。


 最初の『ツンツン』では彼はびくともせず。


 ……あれ?気付いてないのかな。

 もう少し強めにやらないといけないのかな。

 

 えいっ!


 そう思って目をグッとつぶりながら自分の指を、彼の背中に突き刺すようにつついた。


「うんっ?」


 当然のように彼は驚いた表情でこっちを振り向いてくれた。

 彼からの視線をそらそうと、もう一度目をつぶりそうになるのを必死にこらえながら私はこう言った。


「あ、あの急につついたりしてごめんなさい」


 私はまずは自分のした行動に謝罪をした。


「あっ、全然そんなの大丈夫」


 そう言いながら彼は手を左右に振って分かりやすくアピールしてくれる。

 私は一安心しつつ、この流れを止めないようにと話しを続けた。


「それなら良かったです。あの、話し掛けた理由なんですけど。さっ、さっきの話しの続きもしたいですし……放課後よ、よければ……私と一緒に帰りませんか!」


 話しの続きなんて大したことではなかったのは分かっていた。

 

 ただ。


 ただ何かしらの理由が欲しかった。


 彼と少しでも長く居られる理由が。


「う、うん。もちろんいいよ」


 彼は即答でオッケーをしてくれた。


 やった~!!!

 なに話そう?

 2人っきりでちゃんと話せるかなぁ?


 入学式の前なのに私は浮かれていた。


 心の中で何度も跳び跳ねているそんな自分がいて、頬が緩んでニヤケそうになるのを必死にこらえていた。


 そんな私は中山先生含めた一組のみんなと共に入学式の行う体育館へと向かうのだった。


 私たちが体育館に到着した際は、まだ隣のクラスの二組は到着していなかったので、茜ちゃんの姿ももちろんまだ見当たらなかった。


 それから着席して間も無く茜ちゃんのいる二組も到着し、全クラスが勢揃いすることに。


 それと同時に私にとっては人生の入学式が開始した。


 放課後、彼と一緒に帰るという特別な時間を心待ちにして……。

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