《4》初恋の再現
えっ~!?!?? まっまって…………!? これは夢?? 夢なの!? 幽霊じゃ……ないよね……? 生きてるよね!?? 本物だよね!? ちょちょっと……心の準備が全然出来てない……。 まずい…… また泣けてきちゃう……。ここで泣いたら変な人に思われちゃう……ここの想い出は変えなくて良いんだから……三年前の私って、この後なんて言ったっけ? どうだったっけ……。あっ、そうだ。定期券の話しだ。そうだ。そうだった……。
今、私の目の前には、これまでずっと想いを寄せてきた人が立っていた。彼は、これまで私がずっと目で追い続けていた、穏やかで、良くも悪くも闘争心のない、優しげな雰囲気を変わらず漂わせていてくれている。
こうなることが分かっていたとは言え、いざこうして彼が生きている姿を見ると、言葉にならない程に、私の中で色々な気持ちが溢れでて来ていた。
「あ、あ、あわあわ、ててたみたいですけど、どうかしたんですか?」
「……えっ」
ああっ~! なんでこんな言い方してるんだ私~! あわあわって何よ~! 慌ててるの私じゃない!! ちゃんと冷静にならなくちゃ……落ち着け私。演劇部の実力を発揮するんだ……。
「え、えっと……定期を無くしちゃったみたいで。カバンの中を探してたんたけど見つからなくて……それでホームに落ちてないかと探していて」
あれ? 大沢君も何か動揺してる?? もしかして私の動揺が移っちゃったのかな。
不安げに話す彼の様子を見ていると、不思議と私の緊張のようなものも落ち着いてきていた。
「そうだったんですね。私も電車を降りてからここまで歩いてきましたけど、落ちているような気配はしなかったですし、乗ってきた駅か、電車の中で落としたのかも。駅員さんに聞いてみましょ!」
確かこんな感じで大沢君に言って、駅員さんの所に行くんだよね。
私は自分にとっての三年前の記憶を必死に思い出しなから、一つ一つ確実に当時の再現をしていった。
私が人生でもっとも大切にしている……あのシーンをもう一度再現するために。
「すいません。ありがとうございます。ぶつかっておきながら、駅員さんに確認するのにも着いてきてもらって」
そうそう。大沢君はこうやって、丁寧にお礼を言ってくれるんだよね。本当に優しいな。
駅員さんに確認した私たちだったが、もちろん定期が見つかることはなかった。
「いえいえ! それより結局見つからなかったですし……改札を出るお金とかは持っているんですか……?」
こうやって私が大沢君に聞いて……
「それは大丈夫ですよ! 確かここに入れた気が……!」
大沢君が自信満々に言うけど……
「あれ……おかしいなぁ? いつもならこの辺にあるんだけど……」
……大沢君。今日はないんだよ……
大沢君は三年前と同様に、私の目の前に座り込み、鞄の中から筆箱などの文房具や、ノートなどを自身の周りに広げ、財布を探していた。
そんな大沢君は、言わなくても分かるくらいに焦っている様子だった。
そうやって、分かりやすく大沢君が焦っているのを、私はやっぱり見ていられなかった。早く助けてあげたいと
「大沢くん? もしかして財布も……」
家に忘れて来ちゃったんだよね……。
「あっ!? やばい……もうこんな時間!」
ふと駅にある時計に目をやって、叫んだのは大沢君だった。今の時間から逆算すると、急いで走ったとしても、入学式の開始までギリギリの時間となっていた。
「えっと、俺のことは良いから先に行って!」
……大沢君。私はあなたに、何度そう言われようと……あなたを置いて先に行けないんだよ。だから……あなたも私を置いてどこにも――
「で、でも! それじゃあ、大沢君はどうやって改札から出るの?」
「最悪見つからなかったとしても、もうすぐ親が来るから何とかしてもらうよ」
そういう問題じゃないよ……。
「でも……それじゃ式に間に合わないんじゃ……」
一生に一度のこの日を……。
私はあなたと一緒に出たい。
「少し手を出してもらってもいいですか?」
この時の私は、私が初めて恋をした『あのシーンを再現』することなんてすっかり忘れて、彼を入学式に間に合わせることだけを考えて行動をしていた。
「えっ?」
彼は驚きながらも、鞄に突っ込んでいた手を取り出して、私の目の前に大きく開いた手のひらを差し出した。
「どうぞ! 式に間に合わなくなるんでこれを使って下さい!」
その様子を見た私は、素早く自分の鞄から財布を取り出し、彼の大きく開いた手のひらに『ポン』と500円玉を置いた。
「えっ?」
大沢君! 今は驚いてる場合じゃないんだよ。私たちの高校生活……ちゃんと始めて、今度こそちゃんと終わらせよ……。
「早く行きますよ! 一緒に入学式に出ましょう!!」
そう言って、私は座り込んでいる彼に手を差し伸べた。その時、春のまだ暖かい穏やかで心地よい風が吹き抜け、私たちの周りには、綺麗な桜の花びらが舞い散っていた。そんな私の姿を見つめる、彼の表情にはうっすらと赤みを帯びているような……そんな気がした。
「ありがとう! 必ずこのお金は返すから!」
彼は照れているのか、私の方から目線を反らすようにして、私の手を掴んで立ち上がった。
こっち見てなくて良かった……今の表情なんて見られたりしたら……
……その直後だった。
「えっ!?」
私の口から思わず声が漏れた。
それは、立ち上がった彼が私の頭の上に手を触れたからだった。
不意に来ちゃった~!!? いや、私がすっかり雰囲気に呑まれて、この展開になるのを意識してなかったから……。あっ~久しぶりの彼のこの感触……。温かくてなんか落ち着く……。やっぱりこれが最初で最後になるなんて嫌だ……。もっと彼に触れて欲しい。もっと彼に優しく撫でて欲しい!
この時、私が改めて彼への強い想いを、再認識した瞬間でもあった。
「ご、ごめん! 頭の上に桜の花びらが付いてて! って、だからって触れるのはおかしいよね……本当にごめん!」
大沢君にならいくらでも! ってかもう一枚花びら乗せようかな~って……ふざけている場合じゃないよね。
「あっ、そうだったんですね! わざわざ、ありがとうございます」
私は溢れる笑みを押さえきれないまま、彼にお礼を言った。
こうして桜の花びらが舞い散る春の日。
私は彼に恋をした。
そして、私たちは二人で学校まで走っていく……
予定だった。
これまでは……三年前と全く同じだった。
この時までは……
「文人~!! もう! こんな所で何やってるの!?」
私はこの聞き覚えのある声を……
この何度も彼を呼んでいた、同じみのイントネーションを耳にした時に、鳥肌が立った。
私が恐る恐ると声の聞こえた方へ目を向けると……。
……どうして……。この時、ここには居なかったはずなのに……どうして戻ってきたの……茜ちゃん……。
私たちを見つめる彼女は、彼を想う私にとって、越えなければならない最大の壁でもあった。
【後書き】
皆さん、今回のお話しも読んで頂きありがとうございます。
今回のお話しでは、主に前作【最高の青春を求めて】の『(12)思いがけない再会』をベースにして描かせて頂きました。
セリフなどは出来るだけ当時のままに、描写を書き加えて作成させて頂きました。
その為、比較して読んで頂いても楽しめるかとも思いますので、お時間があれば一度試して頂けたらと思います。
また、今後も続編ならではの前作のエピソードを――数は少ないですが――使ったお話しを描いていけたらと思いますので、楽しみにしていただけたらと思います。
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