《3》待ち遠しい私

 ここで待っていたら……彼は来てくれる。彼に会える。

 

 スゴい……こんなにドキドキしてるの生まれて初めてかも……今でも信じられないけど、間違いない。私は三年前に戻ってるんだから。私の知ってる通りだと、もうすぐしたら大沢君がこの駅で定期券を落として、探し始めるはず……その時によそ見して歩いていたら、彼にぶつかる。つ・ま・り、それまでここにいて、人が歩いて来たら、ぶつかれば良いってわけだよね! あっ、もうすぐ電車が到着するし……人が降りてくるかも……。


 そして、電車が駅に到着をして、私の方にも人が歩いてきた。


 ……誰かこっちにくる……。私も下を向いて……。


 痛っ! ……ぶつかった……。


「キャッ!」


 これで彼が頭を上げて、私に謝って良い感じに……ってスーツ……?


「あぁ、すみません。スマホばっかり見てまして。お怪我とかされてないですか?」


「え……。」


 誰この人~!? 大沢君どころか学生でもないし……。 この駅ってスーツの人も降りるんだ。――もしかして先生? いやこんな先生みたことないのだけど……――やっぱりまだ時間が早いのかな……? 大沢君ったら焦らすなぁ……早く会いたいのに~


「あのー? 大丈夫ですか? 何か顔が赤くなってるような……」


「えっ? 噓っ!? なってます!? いやだ、どうしよう~」


 私は両手で顔を覆いながら話していた。そんな私の様子を見て、スラッとしたスーツの男性は『きょとん』とした顔で、突っ立っていた。


「じゃないですね。すみません。私もよそ見してて。私は全然大丈夫なんで。ご心配ありがとうございます。そちらも大丈夫ですか?」


「あぁ、僕は大丈夫。お互いに気をつけようね」


 そう言って、ぶつかったスーツの男性は涼しげに去っていた。


 大人な感じ。あの人から見たら私なんて、ただの子供なんだろうな……しかも見た目は高一まで戻っちゃったし……。


 ――いたっ!ってまたぶつかった? その場で突っ立って、考え事をしていた私は、また誰かとぶつかってしまった。

 

 今度こそ大沢君かな!? 私の運命の出逢いが…………



「あーれ。お嬢さんごめんね。わたし目が悪いから、止まってるものがよく見えなくて……怪我はないかね~」


 私の運命の出逢いは、腰が曲がって杖を付いて歩くお婆さんだった。


 ――大変! お年寄りの方って骨が折れやすいとかって言うよね!? 大丈夫なのかな……


「――私は全然。それよりも大丈夫ですか? ぶつかった衝撃でどこかを痛めたりとか……」




 お婆さんの腰をさすりながら、私は慌てて聞いた。


「こんな格好だけど、身体は丈夫だから大丈夫だよ~心配してくれてありがとう。しかし、あんたは可愛い顔してるね……これはモテるでしょ」



「えっ? そんなこと全然ないですよ……むしろ好きな人に振り向いてもらえないぐらいです」


 私は目の見えずらい、お婆さんにも分かるようにと、全力で手首を左右に振って否定した。


「そうなのか? そんなことはないとは思うけど……わたしはね目が悪くても、はまだ効くから、がある人は分かるんだよ」


 えっ…………?


 私たちは一瞬の間沈黙した。


「……ってお嬢さん、そこは笑うとこだからね」


「あっ……! すみません。顔の鼻と華やかさの華ですよね」そう言いながら私は苦笑いした。

 


「今の子には難しかったかね……まぁそんなことはどうでもいいけど、可愛い顔してるのは間違いないから。自身持っていったらあんたは大切にされる。頑張るんだよ~」


「ありがとうございます。お気をつけて」


 穏やかでお茶目な雰囲気のお婆さんは、初めて会った私に対して温かいエールを送って、よぼよぼと去っていった。

 

 『自身持っていったら大切にされる』か。そうだよね……こんな状況なんて奇跡のようなものなんだし、割り切って頑張ろう!


 ――ってそろそろ大沢君来ちゃう時間かな~今度こそ……三度目の正直きちゃう!?


 そう思っていた私は、やっぱりまた誰かとぶつかってしまった。


「キャッ!」


 再び私は高い声を出して悲鳴を上げたのだけど……今度は同じような声も同時に聞こえた気がした。  


 

「……えっ」


「……………………。」


 ――私は驚いて声は出なかったけど……想定できないことではないよね……これって。



「…………夏蓮ちゃん?」


 

 た、たかやまさん~!?? どうして高山さんがって……おんなじ学校だから当然か…………。それよりもって呼んでるってことは…………やっぱり彼女もタイムリープしてるってこと!? ってなると手強いよね…………。てか何か喋らないと!


「…………茜ちゃん?」


 彼女は三年後の、長い綺麗な髪をなびかせていた姿とはまた違って、その長い髪をツインテールに結んで、より一層可愛らしさが増した姿に戻っていた。


 やっぱり強敵だなぁ……。私の方を『じっ』と見てるってことはやっぱり……。


 

「おーい! 茜~! 早く行くわよ~!」     

 

「ほら、文人から連絡返ってきたぞ!」



 遠くでスマホを掲げている男子と、大きく手を振っているポニーテールの女子が、彼女のことを呼んでいた。


 ――あれは間違いなく相馬君と長澤さんの声だ。彼女たち一年の時から仲良かったもんね。って大沢君を置いて先に来ちゃうなんて……大沢君も一緒に行きたかったんじゃ……――あっ、でも一緒に来てたら私との出逢いの機会が無くなっちゃう……。



「ごめん。また後でゆっくり」


「はい。また後で」


 

 彼女は、相馬君たちの方を一度振り向いた後、私に短い言葉を残して学校へと向かった。


 彼女が見てたのは私じゃないよね……。間違いなくこのアクセサリーだよね……。


 私の鞄(かばん)には、エメラルドグリーンの色をしたクローバーのアクセサリーが、キラキラと輝きを放って揺れていた。


 ……そう。


 この日に戻る直前に、私たちを包み込んだ光を放った、あのアクセサリー。私にもよく分からないけど、本来ならこの場面では私の手元にないこのアクセサリーが、この世界で目覚めた時には既に手の平で握り締めてあった。

 おそらく、光に包まれた時に『彼女に取られないように』と咄嗟とっさに握り締めていたのが、手元に残ってくれたんだと思う。


 そんなアクセサリーを、私は迷わずに自分のかばんに付けた。彼女はアクセサリーはいつも首もとに着けて、制服の中に隠しているのは知っていた。だから私はあえて、目立つであろう学校に持っていくかばんに付けた。それに私はしっかりと覚えている。彼がこの時、かばんに同じアクセサリーを……。


 ――ってちょっと待って!?? 私が持ってるアクセサリーって、もともとは大沢君が鞄に付けてたやつだよね……。それが私の鞄に付いてるってことは大沢君の鞄には何も付いてないってこと!!? そんな……せっかくの初めてのお揃いだったのに…………。


「キャッ!」



 また、また誰かにぶつかってしまった。今日はこれで何度目だろうか……彼のことになると、考え込んでしまうのは悪い癖だなぁと思いつつ顔を上げると…………


「すいません! 大丈夫ですか??」


 スーツの人に、お婆さんに茜ちゃん、じゃあ次はおばさん? おじさん? 私はそうやって予想しながら、ぶつかった相手の方を向いた。


「私は大丈夫ですよ! ちょっとビックリして大声は出してしまいましたけど……」


 ………………って………………。


 私は、ようやく…………待ち望んでいたを迎えるのであった。

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