鮮音日菜3話 憤怒と決裂

 敦己さんに彼女ができたと知ってから私はもぬけの殻だった。自分のことが嫌になった。知らなかったとはいえ、彼女持ちの男に告白をするなんて、私にとっては大罪だ。

 この先きっと敦己さんとは会えないだろうし、雪にも多分迷惑かけちゃったし…。いや、そうだよね。よくよく考えたらあんな優良物件に彼女がいないなんてあるわけがないもの。このこと彼女に言われて彼女さん怒ってたりするのかな。

 明日は出勤日。もう寝よう…。


 次の日、私は普通に会社に行って、先日の式の報告書を制作していた。もちろん皿が割れたことも、スタッフの怪我の件もしっかり書いた。あぁ、嫌なこと続きだ。

 報告書は午前中に書き終えて上司に提出した。まあ結局前回と同じようなことを言われてしまった。ほんとにやつれそう。

 お昼休憩、今日は近くのファミレスでオムライスを注文して食べていた。最近よくファミレスに来るようになった。なんでだろうと思ったけど、原因は職場の人達と一緒にいなくて済むからだろうと自分で気づいた。こんなはずじゃなかった…。なんて今更嘆いてももう遅い。結婚式を作るなんて、幸せの欠片も私にはないじゃない。

 そんな悲しい思想が胸の中で暴れている中で私は淡々と日々を過ごすようになった。私はどこかに大きな穴が空いたような、何かが欠けた空虚にからされながら道を歩くようになった。


 失恋してから大体3週間が経った。雪からLINEが届いた。私は無言でトーク欄を開いた。私は目を疑った。


 急なんだけど私、結婚します。1ヶ月後に日菜んとこのスコルブライタルで式あげることに決まったから、スタッフとしてじゃなくて友人として来てね!

 

 私は驚きながらも返信を書いた。


 え!いつの間に!?

 てか彼氏いたんだ!!知らなかった!

 どんな人なの?


 さすがにマシンガンすぎたかな。いや、でもこれが妥当よね。そもそもこんな大事なこと…、彼氏がいたことを私に言わないのもちょっとないわよ。

 秘密にされていた感じがして少しむすっとしていると雪から写真が送られて来た。「こちらが私の旦那さんになる人でーす」とメッセージ付きで送られてきた写真をみた。

 私は絶句した。

 幸せそうな雪の顔の隣に写っている顔は見覚えがあった。筋肉質でゴツゴツしていて、薄く焼けた小麦色の肌…。敦己さんだ。

 意味がわからない。敦己さんの彼女は雪?私の恋を応援してくれていたのも、雪?

…え??


 ちょっと待ってよ、どういうこと?これ敦己さんだよね。


 そうだよ?敦己さんは私と付き合ってて、この度結婚します。


 え、じゃあなんで、私が敦己さんのこと好きって言って…、応援してくれてたの?告白を促したの?意味わからないんだけど


 だっておもしろいもん笑


 私はとうとう泣き出した。信じていたものは敵だった。絶望した。私はその日は目が真っ赤に腫れあがるほどに涙を流した。雪のLINEには一言未読のメッセージが届いていた。


 私達の結婚式絶対に来てね!


 次の日、雪たちの結婚式のディレクターとスタッフ決めが行われた。私は全てにおいて関わりたくないと言った。当然理由を追及されて、私は観念してそのことを言及することにした。

 それでこの式は私の関与を無しにしてくれるかと期待したが、ありえなかった。星野さんが私をディレクターに任命した。上司もそれに賛成した。この2人はただ私が苦しいのが可笑しくて仕方ないんだと今確信した。

 よって私は雪と敦己さんの結婚式を担当することになった…。

 許せない…。誰も許せない。私は誰に怒ってるのだろう。自分?雪?クソ上司?敦己さん?きっと全部だ。

 きっと…、私は怒ることしかないんだ…。


 

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