鮮音日菜2話 最悪
近頃は休みの日だけが私の救いになってきている。仕事の日は疲弊して絶対にできない趣味の料理を3食全て自分で作って食べることができる。今日も朝からゆっくりトーストに目玉焼きとハムを乗っけて、ついでにコーンポタージュも自分で作れた。有意義な朝っていいな。
今日は昼からショッピングモールで買い物でもしようかな。そして溜めておいたドラマを消費しないと…。そして後は、、、
ピコン
スマホが鳴ったから確認すると友達の西川雪からLINEがきていた。
今日飲みの行かない?
一文目だけを見れば今日は行かないと返事をするはずだったが、二文目の敦己さんが来るというので私の気は変わった。
今日の夜に飲み会で行く西川雪は中学校からの友達で昔から私の悩みを聞いてくれたり、恋のサポートをしてくれたりと助けられている。まあ恋は叶った試しがないけれど。ちなみに雪は今、私立の高校で英語を教えている。
そしてもう1人の渡辺敦己という人は、雪と同じ学校で数学を教えている人で、何を隠そう私の好きな人だ。敦己さんとは半月前くらいに雪が飲みに誘ってくれた時に紹介された。筋肉質で優しい敦己さんのことをいつのまにか私は好きになっていて、今は雪に応援してもらっている。今回もきっと私のための飲み会を設定してくれたんだろう。
私は雪の優しさに感化されていると雪からまたLINEがきた。
今日さ、星がめちゃくちゃ綺麗に見えるらしいよ。
え、そうなんだ。急にどうしたの?
鈍いなぁ。そろそろいい頃合いだと思いませんか?
え、何が??
もう!告白に決まってるでしょ!
え!?そんな急に無理だよ!それに星とどう関係あるのよ。
私のリサーチによると敦己さんは、星空が大好きなのよ。星にも詳しいのよ。
え、そうなんだ。ちょっと意外。
てことは、今日の綺麗な星空を一緒に見て、星の名前を聞いたりしていいムードになって、そして告白しちゃうのよ!
成功率高いと思うよ!
私は2人になれるようにめっちゃ酔った風に見せて先に帰るからさ!日菜は酒強いから余裕でしょ。じゃあ、頑張って!
あーあ、これもうやるやつだ。雪は私と違ってプランを建ててそれを意地でも実行しようと結構強引に事を進める。でもまあ、私のために雪があれこれしてくれているから、嫌だなんて絶対言えない。むしろありがたいから。よし、頑張ろう!
私達の飲み会はいつも決まって、狼の涙という居酒屋で行われる。ここの焼き鳥が最高に旨い。
待ち合わせの場所で雪と敦己さんを待っていると敦己さんが黒色のジャージを着てやってきた。
「敦己さんこんばんは。部活終わりで疲れているはずなのに来てくれてありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそきてくれて嬉しいです。僕もこの3人で飲んでいる時がとても落ち着けて好きなので」
今日は学校は休みだが、敦己さんは陸上部の顧問でもあるらしくてその帰りらしい。たくましい身体についているシュッとして整った顔。薄く焼けた肌をしたっている汗はなんだろう、少し魅了されそうになる。この光景をまた見れるように今日勇気を振り絞らないと。
飲み会が始まって大体1時間が経った。雪はいつも通りハイペースで生ビールを飲み進める。酔った風に見せるって言ってるけど、もともとあまり強くないから“風“じゃない。
一方で苦味が苦手な敦己さんは度数の少ないレモンサワーを中心に飲んでいる。そしていつの間にか上のジャージは脱いでいて白いTシャツ姿になっていて自慢の筋肉が視界にずっと入っている状態だ。
性癖に刺さりまくる物が目の前にあるために私はいつもよりも余計に酒が進み、気がつけば生が3杯、ハイボール2杯で今は焼酎の水割りも2杯目に突入したところだ。
正直こうやって飲むと大体の人は引いたり、呆れたりする。職場の星野さんなんかは私に一生結婚できないとかいうハラスメント発言だってする。それなのに敦己さんは違う。
「鮮音さんってほんと酒強いですね。僕苦いの好きじゃないからこういうチューハイとかしか飲めないから鮮音さんの飲みっぷり見てるとすごい尊敬するし、なんか気分が晴れるんですよ」
こんな感じで私の酒豪っぷりを褒めてくれるし尊敬もしてくれる。こういう女だから控えめに…。みたいな感覚がなくて、誰に対してもどんなことでも敬意を示せる人って本当に私は素敵だと思う。
私がしみじみと敦己さんのことを想っていると雪がスマホで時間を見て言った。
「あ、ヤバいもう9時だぁ。そろそろ帰ろー?明日月曜だしぃ、二日酔いとかマジ勘弁だもーん」
あーあ、もうヘベレケだ…。明日二日酔い決定とみた。
「西川さん1時間目から授業ありますものね。じゃあ今日はお開きにしましょうか。すぐタクシー呼んどきますね」
タクシーという単語でハッと私は計画について思いでた。そして咄嗟に敦己さんを呼び止めた。
「敦己さん!今日この後近くの公園に行きませんか?」
「え、何かあるんですか?」
「えっと、実は今日は星がよく見えるみたいで、もしよかったら一緒にみたいなと思って」
今、星って言った時ちょっと反応した。本当に星が好きなんだな。
「あ、でも西川さん結構酔ってるので、流石に…」
「いいよいいよ〜、私は1人で帰るから2人でお星様楽しんどいで〜。インスタでストーリーあげといてくれたら見るからさぁ〜」
雪は相変わらず酔っているけど、ちゃんと作戦を覚えていた。ここまでバトンを繋いでくれたんだから私もベストを尽くしたい。ここは押すしかない。
「じゃあ、行きましょう!」
外は暗くて昼間のジトッとした暑さはなく爽快な風が吹いていた。そして空は予告通りの星空だった。
その下で私と敦己さんはペットボトルの水を飲みながら星空を見上げていた。
「あ、赤い。もしかしてあれがアンタレスですか?」
私は昼間に少しだけ調べたこの時期見れる星の中で1番印象に残っていた星を探してみた。
「そうそう、あれがアンタレス。綺麗なオレンジ色だよね。あ、ちなみにアンタレスのちょっとこっち側にある…、あった!あれが火星だよ」
「へえ、結構近いところにあるんですね」
「うん。アンタレスっていうのは火星に対抗するものって意味があって、ほらどっちも光が強いでしょ?まるでライバルみたいにお互いが光を競ってるみたいになってるんだ」
星の話をしている時、敦己さんはとても楽しそうでかっこいい。私には今の、趣味に真っ直ぐでキラキラしている敦己さんが尊敬できる。
と思うと私も敦己さんにつられて顔も和らいで笑顔になっていた。きっと今がいいムードなんだろうと、私は勇気を振り絞った。
「敦己さん!」
「え、どうしたの?」
私が高めのボリュームで読んだから敦己さんはビクッとした。
「あ、もしかして星の話ばっかでうんざりしちゃったかな。ごめんよくやっちゃって」
「あ、違うんです」
「え、じゃあどうしたの?」
とうとう告白の時、心臓の音がうるさいなんて少女漫画だけだと思っていたのに、本当にうるさいんだね。
「私はそうやって自分の好きなことを人にそうやって楽しそうに教えれるの、とっても素敵だと思います。そして私も尊敬できます!」
「え、嬉しいです。ありがとうございます」
「それと、敦己さんのことが好きです!私とお付き合いをしてくれませんか!」
言った。私の心臓の音を掻き消すように夢中に言葉を吐き出した。
敦己さんも敦己さんで緊張してたのか固唾を飲んだ。そしてゆっくり口を開いた。
「ありがとうございます」
え!もしかして…、
「でもごめんなさい」
「え…」
「僕、彼女いるんです」
「あ…」
終わった。知らなかったとは言え…、彼女持ちの男に、告白をしてしまった…。最悪だ…。
結局その後はお互い苦しく笑いながら別れた。私がその後家で浴びるほどの酒を飲み直したのはいうまでもない。
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