第16話 Third night
一旦図書館の外のコンビニに昼食を買いに行き、図書館の談話スペースで食事を済ませた。食後で血糖値が上昇している状態なので若干の眠気が襲ってくる。何とか眠気を覚ますために少し歩き回る。
一階に降りて、小説のコーナーに立ち寄る。有名な作家の本がずらりと並んでいる。何か面白そうな本がないか背表紙を流し見る。
「おっ」
最近アニメ化した小説も置いてある。まだアニメは見たことないが、評判はとても良いと聞いている。
「……ん?」
その小説を通り過ぎてさらに左の方を見る。棚の左側、下から二番目の段にある本がある。周りの本は黒や茶色などの落ち着いた色の本が多い中、一冊だけ白いため、目を引いた。
作者は
タイトルは「
裏の表紙も見てみると、あらすじが書いてある。
自殺で姉を亡くした高校生
かなり面白そうだが、なかなかに重そうな内容なので少し迷ってしまう。とりあえず手に取り、中を覗いてみる。すると…
「黒宮?」
自分の名前を呼ばれたような気がして周りをキョロキョロと見まわす。するとすぐ左、おそらく向こう側の本棚から回ってきたのであろう少女がいた。
胸元まで伸びた黒髪とくっきりとした目や鼻の整った顔がこちらを覗いていた。…
「あっ」
図書館の中なので限りなくボリュームを落とした声しか出せないが、それでも驚きの声は少し大きすぎるため、周りにいた人たちがこちらをチラッと見てくる。
「…こんにちは」
「う…うん」
あまりしゃべったことのない人と偶然出会ってしまったことでかなり気まずい空気が流れる。
「…勉強しに来たの?」
向こうが話題を振ってくれた。図書館内なので聞きとれる声で、極力音量を抑えて返事をする。
「ああ、課題をやりに…」
「…そうなんだ。じゃあね」
そういってスタスタと歩いて行ってしまった。同じクラスではないので雨宮がどのくらい勉強できるか分からないが、なんとなく勉強できそうな雰囲気がある。
気まずさで眠気などいつの間にか吹き飛んでいた。持っていた本を元の場所に戻して他の場所に行く。医療・医学のコーナーに立ち寄る。
「……」
二重人格や人格解離などに関する本を手に取って、中身を確認してみる。どの本にも医師のカウンセリングを受けるべきだとか、原因はストレスなどによる…とか書いてある。実際に二重人格になった人に関するインタビュー記事なんかも載っている。
「はぁ~」
軽い溜息をついて、持っていた本を本棚に戻して二階の自習席に戻るために階段を上っていく。
自分の席に戻る途中にある心霊・超常現象のコーナーにも立ち寄ったが、手がかりを手に入れることは出来なかった。都市伝説が最近の流行らしい。ドッペルゲンガーの記事が表紙を飾っている。
どれもこれも幽霊だの宇宙人だのと言っているがこっちは現実で幽霊みたいな人と遭遇してんだよ。
課題も終わり、やることもなくなったので帰ることにした。机の上に広げていた問題集や参考書、ノートを鞄にしまい番号札を手に持ってカウンターに向かう。
カウンターに向かう途中で周りを見たが雨宮の姿はなかったので帰ったのだろう。
「すいません、ありがとうございました」
「はい、ご利用ありがとうございます」
丁寧な対応で、図書館に来た時とは違う職員が番号札を受け取る。俺はそのまま図書館の出口の方に向かう。
スマホの画面の時計は16時を過ぎたところだった。外の空気は図書館の中より少しだけ暖かかった。
家に帰ってきたが特にやることもない。とりあえず横になりながら、スマホの動画サイトで動画を見る。
「はい、どうも皆さんこんにちは。マサトシチャンネルのマサトシです。今回は…」
「皆さ~ん、どうもこんみや~、猫系vtuberの…」
「あ~、窒素の音~」
「はぁ~」
動画を見ていると時々思ってしまう。
「…こんな事してていいのかな」
将来何の役にも立たない動画を見て時間を浪費していると、だんだん不安になってきてしまう。
時計を見ると、19時近くになっていたので夕食の準備をしようとベッドから立ち上がり台所に向かう。食材を冷蔵庫から取り出す。
今日は野菜炒めを作ろうと思っている。キャベツやもやしなどの野菜と安くなっていた豚肉を食べやすいサイズに包丁で切っていく。フライパンに油をひいて野菜から炒めていく。ある程度火が通ったら肉を入れてさらに炒める。最後に野菜炒めの元を入れて、混ぜれば出来上がり。
冷凍していたご飯を解凍して茶碗によそって夕食が完成する。
「うまっ」
一人暮らしを始めてまだ3か月も経ってないが、この野菜炒めはもうすでに10回以上作っている。そのせいか最初よりもかなりおいしく作れるようになった。
「ふ~、食った~」
食器を流し台に置き、再びスマホを眺める。トレンドニュースはネットの炎上動画やサッカーの試合が上位に来ている。しかし、そのトレンドランキングの下の方に気になるものを発見する。
#ドッペルゲンガー
それをタップして投稿されている物を見ると。
「最近、友達がマジで似てる人とばっかり会うんだって。
ドッペルゲンガーかよ。」
「ドッペルゲンガーって実在するんかな?」
などの投稿がされている。
部屋にテレビがないので確かめられないが、テレビで都市伝説に関する番組でもやっていたのか。こういった投稿が多い。
「ドッペルゲンガーね~」
前までの俺なら信じていなかっただろう。怖い話は好きだが、それはあくまで物語としての話だ。ノンフィクションだからこそ楽しめるということであって、実際にそういったことが起きてほしくはないと思っていた。
しかし、今ではこういったものも信じてしまいそうになる。なぜなら、実際に自分自身が超常現象に出会ってしまったから。
「♪」
ビクッと体が跳ねる。突然インターホンが鳴らされて部屋に音が響く。
「はぁ、誰だよ?」
時計を見るとまだ九時前だった。すぐにインターホンの画面を確認するがそこには誰もいない。
「ん?」
急いでドアを開けて外を確認したが、そこには明かりのついた廊下だけがあった。
幽霊は実在するのだろうか?
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