第8話 再会

「何それ、夢?」


 怪訝な顔で霞は言う。部活の練習に参加するため霞と共に学校へ向かう途中で昨日の出来事を簡潔に話した。霞は最後まで聞いてくれたが、さすがに信じてはいないらしい。


 当然だ。俺も同じ立場なら信じていないだろう。


「いや…やっぱ何でもない。夢の話だよ」


 霞はそっか、と言って前を向く。霞の家を一緒に出発してから10分くらい歩いた。

 そろそろいつも自転車で通る見覚えのある道が見えてくるはずだ。





「「こんにちは」」

 

 二人同時に道場の入口で挨拶をすると、道場内にいる人たちからバラバラに挨拶が返ってくる。霞が先に入る。まだ全員来てはいないみたいだ。




 道場に入ってから着替えを済ませて部活前の準備について霞と2年の先輩に教えてえもらった。そしてある程度準備が終わり、顧問である佐藤先生が部員を集合させ半円形に並ばせ始めた。


「では今日から練習に参加する新部員に自己紹介をしていただきます。」


 そういって俺に手を伸ばし、手招きをする。


 俺は2、3歩前に出て部員たちの方に向く。


「一年三組、黒宮 彼方です。中学の時は東中で弓道やってました。よろしくお願します」


 軽いが紹介を済ませて佐藤先生の方を向くと、俺の方を見ていた先生は部員たちの方に向き直し。


「では我々も自己紹介をしましょう。簡単に学年と名前くらいでよいので」


 そういって先生は再び俺の方を向いて、


佐藤さとう 峰孝みねたかです。2、3年の物理を担当しています。」


 ゆっくりとした口調で紹介される。続いて学年順に並んでいた半円形の列の一番右の男子先輩が少し咳払いをし話始める。





 それから部員一人ひとりが自己紹介をしていき最後に列の一番左の霞が自己紹介して終わった。


「さて、では整列しましょう」


 佐藤先生が部員に呼びかける。すると部長が整列、と全員に聞こえるように呼び掛ける。部員は神棚に向かい合う形で整列していった。弓道では練習の始めと終わりに集まって挨拶することが多い。全員そろって挨拶を済ませる。


「今日も1日目標を持って練習していきましょう」


 佐藤先生が一言据えて、始まりの挨拶を終える。


 練習が始まって、初心者である1年女子3人は道場の外で射法八節(弓道における基本的な型)を学ぶ。俺と霞は実力を見るために部活の先輩が一人ついて、そばで見てもらうことになった。俺には三年の高崎という先輩、霞には斎藤という先輩に指導してもらうことになった。


「うん、すごくきれいだ。これなら指導なしでもいいね」


「ありがとうございます」


 高崎先輩は一射引き終わると俺の弓の引き方をほめてくれた。それに対して感謝しておく。


 霞は何か話しているが会話の内容は聞こえてこない。






 その後3時間ほど練習は続き、今日の練習は午前中に終了した。


「ありがとうございました」


 全員で正座しながら神棚に向けて一礼する。これで部活が終わり、あとは片付けや掃除を分担して行うだけである。


「じゃあAチームが片付け、Bチームが掃除、Cチームが記録ね」


 女子の副部長が全員に声をかけ、それぞれ割り振られたチームで分かれていく。俺はAチームなので的などの片付けに向かうため外に出る。外にはすでに何人か先輩が待っていた。


「じゃあ、じゃんけんで片付けの分担をしよう」


 三年の副部長が提案し、じゃんけんをする。Aチームは全員で6人いるので2人ずつに分かれて片付けを行う。俺は二年の先輩と組むことになった。


「久しぶり、彼方」


「そうですね涼風先輩」


 俺に話しかけてきたのは月城東中学校で弓道部の先輩だった。涼風すずかぜ 楓花ふうか先輩だ。中学時代、いろいろとお世話になった先輩である。2年前この高校を受験すると言っていたのでこの高校にいること自体は知っていたが。

 

 俺と涼風先輩は土がついた的を雑巾で拭きながら会話をする。


「弓道部だったんですね」


 俺が問いかけると、涼風先輩は的を拭きながら答える。


「うん。これくらいしか取り柄ないからね」


 そういって自虐の笑みを浮かべていた。


「いや、そんなことないですよ。先輩、勉強できるじゃないですか」


「弓道と勉強以外やることがなかっただけだよ」


 そういっているうちに使った的を拭き終わってしまった。俺と先輩は雑巾をかごにしまい。向かい合う。


「これからよろしく」


「よろしくお願します。先輩」




 片付けが終わり、道場に戻ってくる。中で記録の整理と道場の掃除をしていたBチームとCチームの部員たちはすでにほとんどが着替え終わり、制服姿で談笑していた。居残りで練習する何人かは袴姿のままだ。


「お疲れ様」


 霞がすでに道場の部室兼更衣室で着替え始めていた。部室には霞と霞を指導していた二年の先輩だけがいた。俺の後からAチームの3年の先輩が二人入ってきて部室が少し狭く感じた。そのまま着替えて荷物を持って部室を出て霞と雑談をする。


「先生は?」


 佐藤先生の姿がいつの間にか消えていたので霞に尋ねる。


「用事があるから職員室に行ってくるらしい」


「そうか」


 俺は返事をしてスマホを見る、昨日のメモアプリを開きながら、昨日のことについて考える。昨日先輩の昼間の記憶について解決する方法を思いつき、それを実行したのだが結果が出るのはかなり先になりそうだと思う。


 その方法とは簡単なものだ。しおりをカグヤ先輩が寝ている間にブレザーのポケットに入れた。世界に一つしかないオリジナルの四葉のクローバーを綴じたしおりで、見れば一目でわかる。そこに「これを見たら黒宮 彼方に連絡してください」というメッセージと電話番号を書いておいた。


 カグヤ先輩がこの学校にいるのは確かだが何組にいて何部に所属しているか分からないので探しようがない。


「何やってんの?」


「ちょっと謎解きしてる」


 はぁ。と言って霞はつまらなそうに弓道の道具を鞄に詰めて帰りの用意している。思考しながらも、そろそろ自分も帰りの用意をしようと思い使った道具を片付けようと道具を手に取る…


「あれ?」


「どうしたの?」


 近くにいた一年の女子。確か雨宮さんと夜野さんだ。夜野さんはブレザーのポケットに手を入れて中のものを隣にいた雨宮さんに見せている。


「これなんだろう?」



 手に持っていたのは四葉のクローバーを綴じたしおりだった。



___________________________________


月城第一高校 弓道部 


顧問 佐藤 峰孝 (さとう みねたか)男 教員


部長 渋沢 英二(しぶさわ えいじ)男 3年 A


副部長 志村 穂香(しむら ほのか)女 3年 B


副部長 海老沢 雄太(えびさわ ゆうた)男 3年  C


会計 市川 莉緒(いちかわ りお)女 3年 A


会計 三浦 佐奈 (みうら さな)女 3年 B


部員 高崎 慶悟 (たかさき けいご)男 3年 C


部員 戸塚 伊織 (とつか いおり)男 3年 A


部員 斎藤 唯人 (さいとう ゆいと)男 2年 B


部員 椎名 唯 (しいな ゆい)女 2年 C


部員 涼風 楓花  (すずかぜ ふうか)女 2年 A


部員 高橋 陽斗 (たかはし はると)男 2年 B


部員 遠島 良平 (とおじま りょうへい)男 2年 C


部員 水無瀬 由紀 (みなせ ゆき)女 2年 A


部員 雨宮 澪 (あまみや みお)女 1年 B


部員 上野 霞 (うえの かすみ)男 1年 C


部員 黒宮 彼方 (くろみや かなた)男 1年A


部員 成瀬 美咲 (なるせ みさき)女 1年 B


部員 夜野 遥 (よるの はるか)女 1年 C








 





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