11月(4)
ばあちゃんから返されたノートを手に部屋に戻った。
他に何かないだろうか。
もう一度本棚を見てみるが、もう何もない。元々整理する予定だったから、パラパラとめくりながら本を戻していく。読んでない本の間に何か挟まっていないかと期待したが、何も見つかる事はなかった。
次に机に座ってパソコンを起動した。このパソコンを触るようになってから、動画閲覧とデータ入力の仕事に必要なもの以外はほとんど使っていない。過去に関わるデータが何かないかと探してみるが…。
データフォルダ、空っぽ。
ブックマーク、最近追加したものだけ。
メモ帳、保存してあるファイル類は無し。
カレンダー、何も入力はされてない。
メール、ごみ箱含めて最近のだけ。
ある意味予想通りに何も見つけられなかった。
それ以外に何かないかと部屋を見渡してみても、いつも寝ているベッドと使わなくなった扇風機しかない。やっぱり、ばあちゃんに聞く以外はなさそうだ。もう一度、ばあちゃんと話す為に下に降りた。
「ばあちゃん、具合どう?」
寝室の前で声をかけた。
「………」
反応がない。寝てるんだろうか。
「ばあちゃん?開けるよ?」
静かにドアを開けてみると、ひゅっと、隙間からユキが出てきた。
「おわ!びっくりした…」
寝ているのか確認すべく、そのまま隙間からベッドの方に視線を向けてみる。ばあちゃんがいない。静かにドアを開けて部屋の中を見渡すとクローゼットが開いていて、その前にばあちゃんが座っていた。
「…ばあちゃん?」
近づいて声をかけてみるが返事はない。よく見ると、ばあちゃんの体が小刻みに震えている。
「ばあちゃん、どうした?!」
こちらを向かせると息苦しそうにしている。
「…りょ…きゅ、きゅう……」
「ば、ばあちゃんっ!?」
ばあちゃんがそのまま倒れてしまった。
救急車を呼ぶなんて初めてやった。かなり慌ててしまい、電話で何を喋ったか覚えてない。到着するまでの間、気が気でなかった。
数分後、無事に救急車が到着した。家の中に救急隊員を案内する。隊員が手際よく、ばあちゃんをストレッチャーに乗せていく。
「亮、どうした?!」
家の前にいる救急車を見たからか、陽茉さんが勢いよく駆け込んできた。陽茉さんはばあちゃんの友達らしい。何度かうちに来ていたときに挨拶をする程度にしか知らない。
「ばあちゃんが急に苦しそうにしてて、倒れちゃって…」
ばあちゃんが救急車に乗せられると、隊員に病院への同乗を求められた。
「でも……」
いつも外に出られずにいる事、動悸する事が頭をよぎり体が動かない。
「バカ!行け!こんな時、一緒にいないでどうするんだ!」
陽茉さんが、すごい剣幕で怒っている。
「…でも、体調が…」
「ばか!美穂になんかあったらどうすんだ!」
そう怒鳴られて無理やり乗らされたけど、不思議な事に全く動悸は起きなかった。
「陽茉さん、とりあえず大丈夫そうです。家の事、お願いできますか?」
「わかった、任せとけ!」
病院に着いてから先生から聞かされたのは、ばあちゃんは『がん』にかかっていたという事。今日搬送されて発覚したわけではなく、何年も前からだったらしい。既に手術で治せる段階ではなく余命宣告もされていて、本人の希望で自宅療養中だったそうだ。今回は経過を見つつ、検査をするということで入院となった。
病気の事なんて全然知らなかった。もちろん聞いていないし、普段は体調を悪そうにしてるのを見たことがない。薬の効果もあるんだろうけど、…うまく隠していたということだ。でも、何故隠していたのか?
タクシーで家に帰ると、ユキが自分に気付いて来たので抱きかかえた。
「今日は入院になりましたけど、まだ大丈夫だそうです」
「…そうか、良かった」
緊張していたのか、固かった表情が少し和らいだ。
「ばあちゃんの病気の事は知ってたんですか?」
「うん。知ってたよ」
「そうですか。俺は知らなかったから…びっくりしましたよ…」
「……言わないつもりだったみたいだ」
「え?どうして?」
「それは…ばあちゃんから聞いた方がいいな」
「ばあちゃん、か。そもそもばあちゃんなのかどうかも…」
「ん?……あぁ、そうか…。それも、ちゃんと聞きな」
この感じだとおそらく陽茉さんも自分の事を何か知っている。でも、ばあちゃんから聞いた方がいいんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます