11月(3)

「…ごめん。ちょっと具合悪くなってきたから、後にしてくれるか」


 亮から逃げるように部屋を出た。足元から「にゃー」と鳴き声が聞こえた。ユキが扉の前で待っていたかのようにそこにいた。


「一緒に来てくれるか?」


 嫌がる様子はなく「にゃー」と返事?をしてくれたので抱きかかえていく。


 …あのノートを亮に渡したのがいつだったなんて…本当に覚えていない。日記を書いてたなんて、それが部屋に残ってた事も知らなかった。でも、書いてあった内容から間違いなく、以前の亮が書いたであろう日記。…まだ、私達が夫婦なんだと教えてた頃。少なくても15年以上前の事。


 しばらくの間、ばあちゃんとしてやってきたのに。今回は最初から説明しないといけないよね。…亮の記憶は多分もう戻らない。だったら、せめてずっと一緒にいられればいい。そう思って何年も過ごしてきたのに。どうしてこのタイミングで…。


 クローゼットの奥から、ダンボール箱を出す。中に入っていたアルバムを広げる。


 これを見るのも久しぶりだな…。見せながら説明すれば、少しは納得してくれるかな?でも、あまりにも現実離れしてるよね。……今回が最後になるのかなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る