7月9日

 目覚ましをセットしたわけではないのに、朝の5時に目が覚めてしまった。


 自分の名前は亮。

 ばあちゃんと一緒に住んでいる。

 …本当は、ばあちゃんではなくて奥さん。

 ここは二階の自分の部屋。


 足元にいる猫はユキ。


 …よし、昨日までの事は忘れていない。ちゃんと覚えている。


 記憶を失わなかった事に安心したせいか、また眠くなってきた。そのまま、眠気に身を任せてもう一度眠った。



「亮、具合でも悪いの?まだ起きないの?」


 自分を呼ぶ声が聞こえて、体が揺さぶられているのを感じて目を覚ました。


「…おはよう」

「おはようって、もう昼過ぎだよ」


 体がだるく感じる。寝すぎたようだ。


「朝に一回起きたんだけどね。…ちゃんと昨日までの事を覚えてて…また寝て…」

「…今日だったもんね。今回は記憶そのままだったんだね」

「ほんと、美穂の事を忘れなくて良かったよ」

「…え?今なんて言った?」

「ばあちゃんの事を忘れなくて良かったって」

「あ、あぁそうだね」


 ん?寝ぼけて変な事でも言ったかな?変な顔してるな。まぁいい。


「そういえば、起きたら相談しようと思ってたんだけど」

「なに?」

「猫を飼いたいんだけどどう思う?」

「は?…猫ってユキがいるじゃん」


 そう言って足元に指を差された。


「…ユキ?…あれ?そうだよな。こいつ居たよね。何言ってんだろう、俺…」

「…まだ寝ぼけてるんだね。ほら、下に行こう」


 ばあちゃんの後をついて部屋を出たあたりで激しい目眩と頭痛に襲われた。


「痛っ……」

「亮?!」


 なんで?!外に出たわけじゃないのに?!


 そう思っても、視界が暗くなっていくのを止められなかった。




「来年あたりに、亮の実家に引っ越そうかと思うんだけど」

「…どうして?」

「そろそろ私も退職するし、少し田舎でゆっくり過ごすのもいいかなって」

「あー、なるほど」

「亮の親が亡くなってからずっと空き家だしね。ちょうどいいんじゃない」

「いいと思う」

「小さい頃住んでいた家に戻れば戻るかもなんて。…まぁ、そこにはもう期待してないけど」

「…ごめん」

「前にも亮に言った時は断られたんだよね。まぁ、私も仕事あったからそこまで本気じゃなかったけど」

「………」

「って、今相談しても…また忘れちゃうのかな…」

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