第五話(05) 猫型&人型逕滉ス謎ココ蠖「縺ソ縺溘>縺ェ
* * *
「ここでぇ~す!」
井伊の後を追って、一つの廃ビルにたどりついた。夕日に照らされるその姿は、なんだか不気味に思えた。
僕達は木陰に入って廃ビルを見上げた。日傘を閉じてこうして隠れたら、簡単には見つからないだろう。
それにしてもこの廃ビル。何か……薄い膜がかかっているような。
「……もしかして、罠あったりする?」
「その通り、罠ですねぇ、なんか見えるぅ? ……血の濃い者だと見えると聞いたが」
先程の図書室での様子は嘘のように、井伊は調子に乗ったような声で喋る……かと思えば、またあの淡々とした声になる。なかなか気持ちが悪い。
ただ、敵意はやっぱり感じられない。
「お前……『狩人』の、仲間じゃないんだな?」
「私は『狩人』賀茂栄玖の仲間ではない」
……賀茂さん、本当に『狩人』なんだ、と、僕は思ってしまう。こんな風に井伊に言われてしまえば。それよりも。
「じゃあ、なんなの……人間、じゃないでしょ」
それじゃあ井伊は何者、という話なのだ。ぱっと見たところ、普通の人間に見える。
答えは予想外だった。
「その通り。そもそも地球の生き物ではない。この星の外から来た」
「……ちょっと待って?」
それを意味する言葉って……。
「……宇宙、人?」
「簡単に言うと」
井伊は完全に人間にしか見えなかった。普通の中学生。宇宙人ぽさなんて、どこにもない。普段だって、普通の中学生みたいに過ごしてる。成績だって普通だったはずだ。
「う、宇宙人って……結構人間に似てるんだ……」
「いや? 私達は宇宙人といっても、『意識の宇宙人』。本体は意識のみ。身体は……いまの姿については、人形に入っているような状態だと思ってくれ」
「そういえば、さっき……精神を入れ替えるとか、なんだとか……」
つまり……僕が今見ている井伊は……ゲームみたいに言うと「アバター」ってことなんだろう。
「……昔は本当に、我々と人間で精神を入れ替えて、この地球を観測し、またこの地球の知識を学んでいたのだ。しかし人間側から見れば迷惑であるし、我々もその人間のように振る舞わなくてはいけなくて、不便でな……ああ『知らないはずのことを知っている』の種明かしはこれだ、動物の姿は目立たなくていい……」
井伊がスクールバッグの中から取り出したのは、黒猫の人形だった。おかしい。その大きさがバッグの中に入っているわけがない。しかも黒猫の人形かと思ったら……本物みたいに生々しい。死体っぽくはないけど……ものにも見えない。もしかすると、宇宙人的な技術でできた何かかもしれない。
宇宙人。
「う、宇宙人が……地球を見に来てたんだ……」
「この話は秘密に……仲間に知られたのなら、この仕事を辞めさせられてしまう。いま私は『井伊澄醍』として、楽しい人類生活を過ごしているのに」
それに、と彼は続ける。少し拗ねたようにも見えた。
「それに――君達のような幻想の末裔という興味深い存在から、離されてしまう」
空を見上げた井伊は、どこを見ているんだろう。夕焼けのオレンジ色に染まった空は、端から徐々に夜色に染まりつつあった。もうすぐ、世界が変わる。
「地球について学ぶうちに、君達の存在を知った。作り話の中だけの存在ではない、と……そして、最初に影山久太郎、君を見つけ、記録をつけさせてもらった」
「……記録」
「申し訳ない、これも仕事の一つなのだ」
そう言われると「仕事してて偉いな」なんて思ってしまう。井伊って、中学生だけど、働いてるんだ……。
違うか、仕事の一環で中学生をやってるのか……。
「でも……楽しかった。人間として得られるもの、全てが素晴らしかった。そして、キュー、君の友達としての、居場所も……」
不意に向けられた笑顔は、いつもの井伊のもの。言葉だけが、いつもよりもずっと真面目だった。
「今回、こんな事件が起き、先程の失態で正体を話すことになってしまったが……悪くなかったかもしれないな。正直……正体を隠し続けることに抵抗があるほど……君のことを友達だと思っていたようだ」
そんなことを言われたら。
僕こそ、自分を守るためとはいえ、正体を隠し続けていたのに。
「……さっきは、ごめん」
思い出して、僕は謝った。井伊は、宇宙人だったけど、井伊だった。
井伊は笑ったままだった。けれども首を傾げて、
「……それにしても、さっきは『狩人』の仲間だと思って襲いかかってきたが、私の正体を知っても、そんなに驚いたり、怖がったりしないのだな?」
「あー……」
そう言われて、自分が異常なほど落ち着いていることに気付く。
目の前にいるのは宇宙人。それも、親友だと思っていた人間の正体が、それなのだ。
でも。
「そりゃあ確かに宇宙人ってびっくりするけど……まあ、怪物も妖怪もいるんだし? 宇宙人もいてもよくない?」
そう、僕だって、吸血鬼なわけで。
――居場所、と井伊は言っていた。
僕を騙しているみたいで、居心地の悪さを覚えていたんだと思う。
「まあ少なくとも……井伊は僕や目堂さんの正体知ってるみたいだから、僕達はもう隠さないでいいし、井伊も……僕の前ではもう、正体を隠さなくていいってことでしょ?」
ただ、そういうこと、なんだと思う。
「……そういうことですねぇ~!」
井伊の口調が、戻る。どっちが本当の井伊なんだろう、と気になったものの、どっちも井伊なのだろう。
「いやぁ~本当によかった! なんかあったらさぁ、来週発売のゲーム、できないんじゃないかと思ってさぁ~!」
「……オタクゲーマーなのは素なんだね?」
そんな風に話している最中、僕のスマホが、アラームのように鳴った。
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