第三話(04) 魔法であっても「手品だから」で誤魔化せると
* * *
ショッピングモールだから当たり前だけど、ここにはいろんな店がある。例えばゲーム屋。
「うわっ! しまった~……これ、もう出てたのか……帰りに買わなきゃだなぁ~」
井伊はゲームやアニメ、漫画が好きだ。今日着ている服だって、おしゃれな模様に見えて、実はゲームキャラがアートなデザインで印刷されたものだったりする。
「あら、このゲーム、知ってるわ」
「目堂っちもこのゲーム知ってるのぉ? もしかしてやってたりするぅ? 前作」
「やってはいないけど……モンスターの造形、最高よね」
「――最高。最高。ありがとう、最高。理解者」
他には、服屋もあったり。
「……あのワンピース、すごくいい」
「なんか……軍服と魔法使いのローブを合わせた感じだね」
「かっこよくてかわいい……う~ん、いくらするんだろ、あとでメモってママにお願いしてみよ……」
井伊や目堂さんには、好きなものがそれぞれある。
――僕はといえば、もうあちこちの店に目を動かすのに必死になっていた。だって、こんな場所、初めて来た。僕はほとんど、こういう場所にはこない。
だから、全部が眩しかった。
ふと本屋の前を通りかかった時、雑誌に目が留まる――旅行の雑誌だった。『一人旅行』。
そんなのもあるんだなと、思う。ちょっと想像してみる。未知の場所を、一人、いきたいままに歩いて観光する……僕は太陽に弱いけれども。
噴水の音が聞こえてきた。中央広場が見えてくる。噴水の前にはステージがあって、そこがショーの舞台だった。人の姿が多い――大人もいるし、子供もいる。僕達くらいの子供の姿も多い……賀茂さんの仕事は成功したみたいだ。
「あそこ、三人分空いてる」
観客の中には僕の中学校の人もいて、僕、目堂さん、井伊の組み合わせをちらりと見るやいなや、二度見している人が多かった。でも気にしない。井伊がいてよかった。目堂さんと僕二人きりだったら、どうなっていたか。
僕達が席に座って、少しして、マジックショーが始まった。
「本物の魔法使い、チャールズ
アナウンスが響いて、噴水が湧きあがった。同時にぱっと、ステージの上に男が現れて、歓声が上がる……いまの、どうやって出てきたんだろう。
現れた男は、マジシャンのような、魔法使いのような姿の、中年の男だった。チラシで見た時も思ったけれども、胡散臭い。ステッキを振れば、噴水に虹がかかった。
それからのマジックショーは……正直、驚いた。
ショーは派手で綺麗だった。チャールズ府川は、時に助手の女の人に手伝ってもらいながら、次々に「魔法」を見せてくれた。帽子から湧き出す蝙蝠。かと思えば炎が噴き出したものだから、噴水の水を引き寄せて消化。不意に姿を消したかと思えば、客席の後ろで蝶を飛ばし始める。空中浮遊でステージに戻って来たかと思えば、お客さん一人をステージにあげる。コインチョコ一枚をあげたかと思えば、チャールズ府川の袖から、あり得ない量のコインチョコがどばどば出て、ステージに小さな山ができた。そのチョコが溶けてしまったものだから、魔法で凍らせ、宙に上げたかと思えば、雷を落として砕く……砕かれた結晶は甘い香りのするシャボン玉となってステージを包んだ。
ああ、おかしい。
「……本物だね」
僕が思わず呟けば、にこにこしながら手を叩いていた目堂さんが、
「でしょ~? すごいわねっ! またお客さんをステージに上げる奴、やってくれないかなぁ? あたしもステージの上立ってみたいっ! 手品って、こんなにすごいのねっ!」
「……いや、本当に、本物」
――僕の本能が、手品なんかじゃないと、訴えている。
――チャールズ府川の手品に、奇妙な光がちらちら見える。
……本当に魔法使いだったのなら、手品師はいい隠れ蓑になるのかもしれない。
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