第二話(06) 吸血鬼=悪い奴だから


 * * *



「久太郎! 遅かったじゃない……」


 家についたのは、日が暮れた後だった。案の定、母さんに心配された。


「うん……ちょっと……大丈夫だから」


 どきりとしたものの、僕は自室に駆け込む。

 僕と目堂さんがしてることを知ったら、母さんは何て言うだろうか。


 ……変なことをしていると、知られたくなかった。

 とにかく大人しく。とにかく普通に。

 僕は吸血鬼の血をひいているけれども『普通の人間』としてやっているよ、と。

 吸血鬼――恐ろしい怪物。僕は怪物の血をひいて生まれたけれど、大人しくしているよ、と。


 僕は、悪い子じゃない。


「久太郎、今日、お母さん、新しい日傘を買ってきたのよ! 今使ってるの、あれ小学生の頃から使ってるでしょう? 久太郎、最近大きくなってきたから、いまの傘じゃ狭いかなって……」

「……う、うん、ありがとう……あとで見る……」


 部屋の外に声を飛ばす。


 ――傘が小さいかもしれないとは、結構前から思っていた。

 でも言えなかった。変な話、なんだかやっぱり吸血鬼っぽくて。

 僕は普通の息子でいたかったから。


『いつか消えちゃうのかな』


 不意に、どうしてか目堂さんの言葉を思い出した。


 ――家で必死に普通であろうとする僕は、すでに消えちゃってる。そんな気がした。

 吸血鬼であることを、必死に抑え込もうとしてるから。


 ――吸血鬼は、悪い怪物だもの。



【第二話 終】

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